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真壁 昭夫信州大学経済学部教授

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今後の金融業界展望

<第15回>2016.12.07
ベイルイン

「ベイルイン(bail-in)」とは、銀行が経営に行き詰まったり、破たんした際、救済にかかる費用を株主などに負担させることです。このベイル(bail)の語源は、「負担がかかる」です。一般的には、保釈のために支払うお金(保釈金)などを指します。銀行の救済にあたりベイルインが実施されると、公的資金を使った救済が実施されるよりも前に、当該銀行の株式保有者や、債券投資家などが持ち分に応じて損失を負担することになります。具体的には、当該銀行の債務の元本削減や、債券の株式への転換などが行われます。つまり銀行の内部(in)に損失を吸収させるのです。

ベイルインの対義語がベイルアウトです。これは、公的資金を用いた銀行救済です。その場合、コストは納税者が負担します。ただ、納税者の多くが銀行の経営に能動的に関与しているわけではないでしょう。そのため、納税者よりも前に、銀行に投資した人々に相応の負担を求め、不公平感を解消することがベイルインの根底にあります。

ベイルインが求められた経緯

従来、銀行などの金融機関が経営にいき詰まると、政府は公的な資金を用いて銀行に資本を注入し、救済してきました。銀行が公的資金の注入を受けて救済されたケースとして、2002年以降のわが国の不良債権処理、リーマンショック後の米大手金融機関の救済があります。

こうしたケースでは、一時的に銀行が政府の管理下に入り、経営再建、そして、業界再編が進んできました。この実態は、税金を使った金融機関の救済です。つまり、納税者の負担によって経営に失敗した金融機関を助けたのです。

特に、2008年9月15日のリーマンショック(米大手投資銀行リーマンブラザーズの経営破たん)以降の金融危機の中で、「銀行の幹部や大手投資家は住宅バブルに伴う銀行の事業拡大から大きな利益を得ていたのに、なぜ株主らはコストを負わないのか。不公平だ」という批判が高まりました。これは「ウォール街を占拠せよ」のスローガンのもとに繰り広げられたデモの一因になったと言われています。

また、リーマンショックの発生は、特定の金融機関の破たんなどが、金融システム全体の混乱(システミックリスク)ばかりか、世界経済の景気後退につながることを示しました。従来、こうしたリスクに対する議論は盛んになされていたのですが、実務としての対応は十分に進んでいなかったのです。

そのため、銀行の自己資本規制などの指針をまとめてきた国際決済銀行(BIS)などが中心となり、銀行の財務の健全性を高め、金融危機の発生を防ぐための議論が、国際的に進められてきました。その中で、経営がいき詰まった際には、公的支援より先に銀行内部で損失を吸収する方策=ベイルインがまとめられてきたのです。

ベイルインの仕組み

具体的にベイルインが進められる仕組みを説明します。銀行の自己資本比率が低下したり、実質的な破綻の状態に陥った場合、特定の債務が株式に転換されたり、元本の削減が行われます。こうすることで、バランスシートに占める負債のウェイトが減り、銀行の自己資本比率が増加します。また、大口預金もベイルインの対象になることがあります。

こうしたベイルインの仕組みを支えるために、各国の金融機関は通常の社債とは別に、損失を吸収する条件を付けた劣後債を発行しています。こうした債券は銀行が破たんなどに陥った際に、元本が削減され、損失を吸収するように設計されています。なお、一般的に劣後債とは、ほかの債務の弁済が終わった後の余剰資産をもとに弁済される債券を指します。

また、自己資本比率が一定の基準を下回った際に、元本の一部あるいはすべてが削減されたり、株式に転換されることで損失を吸収する証券も発行されています。これは、CoCo債(Contingent Convertible bonds:偶発転換社債)と呼ばれます。これまで、欧州の銀行などが積極的に発行してきました。

注意したいことは、金融機関の救済や破たん処理は、各国の金融監督当局によって判断され、進められることです。損失を吸収するために、債券の元本をどの程度削減するか、どの程度の債券を株式に転換して自己資本の拡充を図るか、といったことは、当局の権限に基づいて進められます。

ベイルインが国レベルで導入された例はまだなく、手探りの部分も多いのが実情です。不良債権処理や破たん処理の実務が、BISなどが想定する理論通り進むとは限りません。そのため、今後、国際的な業務を展開する大手行の救済などが進む場合、それはベイルインの理論を現実に即したものにする重要なケーススタディになるでしょう。

注目を集めるイタリアの不良債権処理

そこで重要なのがイタリアの不良債権問題です。同国の不良債権比率は17%程度と、ギリシャを除くユーロ加盟国の中で最悪です。特に、モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ銀行の不良債権比率は40%を超え、救済は時間の問題となっていますが、銀行が発行した債券の多くを国内の個人投資家が保有しているため、解決に時間がかかっています。

ベイルインを実施すると、国民の多くが損失を被るでしょう。既存の銀行支援のファンド規模も十分ではない中、政府は公的資金を用いた救済(ベイルアウト)を認めるようEUと交渉してきました。しかし、EU司法裁判所(最高裁判所)は、ベイルインありきの救済を支持しています。イタリア政府は窮地に立たされています。

不良債権への懸念がさらに高まれば、ほかのユーロ加盟国の銀行システムにリスクが波及する可能性があります。英国のEU離脱決定後、欧州経済の見通しは悪化しており、イタリアの銀行セクターへの懸念は高まりやすくなっています。抜本的な対策がまとまらない場合、イタリアの銀行株が投げ売られ、混乱が世界の金融市場に伝播するかもしれません。

理論通り問題を解決するなら、ベイルインは避けられません。その場合、国民の不満は増し、「五つ星運動(※)」などのポピュリズム政党がさらに支持を集めるでしょう。それは、欧州各国のEU懐疑主義政党の動きを煽る恐れがあります。銀行の救済すら自国で決められないことをポピュリズム政党が批判し、英国に続けとEU離脱機運が高まりかねません。イタリアの不良債権問題は、今後の政治リスクをさらに高めうるファクターと言えます。

状況次第では、これまで議論されてきたベイルインなどの見直しが必要になるかもしれません。イタリアの不良債権処理の動向は、国際的な金融規制が有効かを考えるために重要であり、注意深くウォッチする必要があります。

※五つ星運動:イタリアの政党。2009年10月、コメディアンのベッペ・グリッロが設立した。インターネット主体の活動で既成政治に対抗する政治勢力づくりを行い、近年の欧州経済危機とそれに伴うマリオ・モンティ政権の経済改革により、雇用不安や増税を背負わされた 若年層を中心に急速に支持を集めている。

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Profile

真壁 昭夫
Akio Makabe

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現:みずほ銀行)に入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社へ出向。みずほ総研主席研究員などを経て、1999年より国内有名大学の講師・教授を歴任し、現職は信州大学経済学部教授。テレビ朝日「報道ステーション」、日経CNBC「NEWS ZONE」レギュラーコメンテーターなど多数のTV番組に出演する一方、ビジネス情報サイト「ダイヤモンド・オンライン」でのコラム連載、「下流にならない生き方」、「はじめての金融工学」など、著書も多数。