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真壁 昭夫信州大学経済学部教授

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今後の金融業界展望

<第12回>2016.10.26
ボルカー・ルール

ボルカー・ルールとは、銀行の市場取引に関する規制を指します。この規制は、2008年のリーマン・ブラザーズの破たんへの反省から、2010年に制定された米国の金融規制改革法(ドット・フランク法)中で、最も重要な「銀行の市場取引規制ルール」の部分になっています。ポール・ボルカー元米連邦準備理事会(FRB)議長が規制の内容を提唱したことから、一般的に「ボルカー・ルール」と呼ばれています。

「ボルカー・ルール」の目的を一言で言うと、銀行が利益の極大化を狙って危険負担=リスクテイクを進めることにブレーキをかけ、金融システムの健全性と安定性を高めることです。この考えは、システミックリスク(個別金融機関の支払い不能や、特定の市場での決済の不成立(フェイル)などが複数の金融機関や、国内外の金融システムに波及するリスクの発生を防止することと言えます。

2015年7月以降、ボルカー・ルールは全面適用され、米銀だけでなく、米国で業務を行う邦銀もボルカー・ルールの対象に含まれています。銀行のリスクテイクを制限し、経営破たんの悪影響を最小限に食い止める規制は今後も強化されるとみられます。それが大手金融機関の経営戦略にも影響を与え、ビジネスモデルの変化にもつながると考えられます。

ボルカー・ルール策定の経緯

ボルカー・ルールが必要となった背景を理解するためには、リーマン・ブラザーズが経営破たんに陥ったプロセスを考えるとよいでしょう。2000年代に入り、リーマン・ブラザーズなどの金融機関は、米住宅市場の高騰(住宅バブル)の波に乗り、住宅ローンを裏付けとした証券化商品の取引を行うことで、巨額の利益を上げていました。

このビジネスの根底には、短期の借り入れ(レバレッジ)を用いたリスク資産への投資がありました。バブルの渦中では、多くの投資家が「相場の上昇は未来永劫続く」と過剰なまでに強気になります。その結果、銀行はリスクの抑制よりも収益獲得を優先し、リスクを軽視して資産を買い漁り、バランスシートを膨張させました。結果として、短期の借り入れで長期の資産運用を賄う、資金の調達と運用の期間のミスマッチが発生していたのです。この手法では、短期の借り入れに窮し、銀行の資金繰りがつかなくなったとき、ビジネスモデルが機能不全に陥ります。これがリーマンの経営破たんのからくりです。

問題はリーマン・ブラザーズという特定の金融機関の破たんが、ほかの銀行、米国内外の金融市場、一般企業の資金繰りに影響を与えたことです。実際、リーマン・ブラザーズの破たんは、自己勘定取引(プロップ・トレーディング)のポジション(持ち高)の清算、リスク資産(ヘッジファンドなどへの出資持ち分)の売却といった連鎖反応を引き起こし、株価の急落、信用収縮につながりました。それによって実体経済の急速な悪化が進んだのです。その結果、金融機関の救済のために、多くの公的資金が用いられたことは言うまでもありません。

ボルカー・ルールの概要

ここから得られた教訓が、「大きくて潰せない銀行(Too big too fail)は放置できない」という考え方です。この問題に対応するため、ボルカー・ルールは銀行のリスクテイクを制限すべきだとの考えに基づいています。骨子は、以下の3つです。

1:銀行の資産規模の制限
2:銀行の自己勘定取引の制限
3:プライベートエクイティやヘッジファンドへの出資の制限

これによって、デリバティブのトレーディングやリスクの高い未公開株式への投資に制限がかかり、銀行の「強欲さ」に歯止めがかかると考えられました。ボルカー・ルールは「銀行は金融システムの中でも公共性の高い存在であり、経営の安定が求められる」という考えに基づいています。

銀行は預金者から預金を集めています。預金は、銀行の貸し出しや債券投資の原資として使われ金融取引を支えます。銀行の経営が悪化すると資金決済のリスクが高まり、金融システムの不安定さも高まるでしょう。その状況を防ぐために、銀行はリスクを取りすぎるビジネスに注力すべきではないとの考えがあります。

これが「ナローバンク」の基本的な発想です。銀行はできるだけリスクの低い資金決済業務に従事し、保有する資産はリスクの低い国債だけでよいという考えです。ボルカー・ルールにはナローバンクとしての銀行を念頭に置いているとの見方もあります。



今後の展望

リーマン・ショック後の主要な金融規制は、基本的にリスクテイクの抑制に向かっています。たとえば、金融安定理事会(FSB)には、各国の大手行の中から「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs:Global Systemically Important Banks)」を選定し、各銀行のリスク資産に対して追加的な資本の積立を求めています。各国の金融規制当局はリスクテイクの抑制を通して、バブルや金融システム危機の発生を食い止められると考えているのでしょう。

しかし、規制でバブルや金融危機を食い止めることには限界があると考えられます。すでに、リーマン・ショック後、中国の景気刺激策が世界的な資源バブルを発生させました。この中で、中国の民間債務はGDPの200%を超えました。ユーロ圏やわが国ではマイナス金利が金融機関の収益性を悪化させています。金融規制の強化にもかかわらず、金融システムの脆弱性が高まっていることには注意が必要です。

そして、規制の強化を受けて大手投資銀行は従来のトレーディングや証券化ビジネスを縮小し、資産運用やトランザクション業務(資金決済の円滑化を支えるビジネス)を強化し、金融規制からの影響を小さくしようとしています。同時に、規制に対応するため、コンプライアンスや規制対応のための人材確保が急がれています。規制の強化は金融機関のリスクテイクを抑制するだけでなく、ビジネスモデルにも変化をもたらしていることをよく理解する必要があります。

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Profile

真壁 昭夫
Akio Makabe

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現:みずほ銀行)に入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社へ出向。みずほ総研主席研究員などを経て、1999年より国内有名大学の講師・教授を歴任し、現職は信州大学経済学部教授。テレビ朝日「報道ステーション」、日経CNBC「NEWS ZONE」レギュラーコメンテーターなど多数のTV番組に出演する一方、ビジネス情報サイト「ダイヤモンド・オンライン」でのコラム連載、「下流にならない生き方」、「はじめての金融工学」など、著書も多数。