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真壁 昭夫法政大学大学院教授

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今後の金融業界展望

<第4回>2016.06.30
BREXIT(ブリクジット:英国のEU離脱)でどうなる?
世界経済の今後

2016年6月23日、英国の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱が決定されました。この決定を受けてキャメロン首相は10月までに辞任し、EUとの離脱交渉は新政権に委ねられるようです。これから、どのように英国がEUと離脱の協議を進めるかは不透明な状況です。

国民投票の結果を受けて、イングランド、北アイルランド、ウェールズ、スコットランドから成る英国(連合王国)の分裂が進む恐れがあります。残留支持が過半数を占めた北アイルランド、スコットランドは、英国からの独立を求める声が高まっています。

一方、今後、大陸欧州のEU加盟国でも離脱を求める動きが「ドミノ倒し」のように連鎖する恐れがあります。その意味では、今回の英国のEU離脱決定は、EUと大英帝国の終焉の第一歩になる可能性があります。欧州の政治動向は、今後の世界経済の下方リスクを高める要因の1つと考えたほうがよいでしょう。

英国がEU離脱を選んだ背景

海外の有力メディアの表現を借りれば、今回の国民投票は、「理性」対「感情」の対決と言われています。理性とはEU残留が英国経済にもたらすメリット、感情とは移民・難民問題への怒りや反感を指します。

2013年1月、キャメロン首相は、EU離脱を問う国民投票の実施を公約に掲げました。首相は国民投票を実施することで、国内の反EU勢力の台頭を静めるとともに、EUから有利な条件を引き出そうと考えたのでしょう。このとき、首相はEU加盟で得られる経済上のメリットが大きいため、国民は冷静に残留を選ぶと期待したはずです。例えば、英国からEU加盟国に自動車を輸出する場合の関税率はゼロです。

しかし、欧州の景気が低迷する中、英国では高齢者や低所得層を中心に、「中東欧からの移民が英国民の雇用を奪い、社会保障費を増大させている」との批判が強まってきました。そして、中東などからの難民が欧州に押し寄せたことは、テロの発生などへの恐怖、不安を高め、反EU感情を強めました。

EU域内では、「シェンゲン協定(※)」によって人の自由な往来が基本的に認められています。英国は「シェンゲン協定」を批准してはいませんが、EUへの加盟が国境管理を難しくさせたことは確かでしょう。保守党内部やエリート層からも「英国は移民などの来訪者をコントロールできず、EUの政策に影響されている」との批判が出ていました。

ボリス・ジョンソン前ロンドン市長をはじめとする離脱派の政治家は、世論の不安心理を煽り、支持を得ようとする戦術をとったと言われています。彼らは、離脱が決定された場合、即時にEUから離脱するシナリオを描いていなかったかもしれません。むしろ、離脱をEUに突き付け英国に有利な条件を、ドイツなどから引き出すこと(条件闘争)を考えていた節もあります。

今回、国民投票でEU離脱が選択されたことは、難民問題などへの怒りや不満が、残留によって得られる経済的のメリットを上回ったことを示しています。

国民投票前後の金融市場動向

2016年6月上旬の時点で、英国の世論調査では離脱と残留が拮抗していました。そうした状況下、金融市場は慎重ながらも残留を期待し、大きな混乱は見られませんでした。しかし6月10日の世論調査では、離脱への支持が残留を10ポイント上回り、急速に離脱への懸念が高まりました。多くの投資家は「離脱が実現する」と懸念し、英ポンドの売りヘッジ、欧州銀行株の売却、相対的に価値が安定している米独国債の購入に向かい、「リスク回避」に動いたのです。

2016年6月16日には、残留を訴えていた政治家が離脱支持者に銃撃される悲劇が起きました。これが英国内外に衝撃を与え、世論は残留を支持したかに見えました。ブックメーカー(賭け業者)のオッズでも80%以上の確率で残留が示されました。一般的に、オッズには賭け金がかかるため、世論調査よりも信頼できると言われます。世界の投資家は「これで残留は大丈夫」と考え、ポンドや銀行株を買い戻しました。

しかし、2016年6月24日の東京時間の朝方から開票が進むにつれ、予想外に離脱票が多いことが判明しました。6月中旬以降、残留を楽観していた世界の投資家にとって、これは予想外でした。虚を突かれた多くの投資家が慌てて英ポンドや株売りを進め、世界の金融市場は大きな混乱に陥ったのです。その結果、外国為替、株式、債券(金利)の価格は大きく動き、英ポンドは前日比、対ドルで11%、対円では15%超下落する場面がありました。



一時、米国の長期金利は1.4%台まで低下し、ドイツの超長期の金利はマイナスの水準にまで低下する場面がありました。対照的に、イタリアやポルトガルなどの南欧諸国の金利は上昇(債券価格は下落)、銀行株を中心に欧州株も急落しました。やや行き過ぎの動きもあるように見えますが、これは典型的な「リスク回避」の相場です。

英国のEU離脱が世界経済に与える影響

英国のEU離脱交渉には不確定要素が多く、今後の動向を見守る必要があります。そこで重要になるのが、多くの投資家が、何を懸念しリスク回避に動いたかです。注目したいのは、英国よりもユーロ圏の市場動向です。離脱決定後、南欧の国債、株式は売られ、株価は英国以上に下落しました。

背景には、「英国の離脱がEUの政治・経済体制の終焉につながる」との懸念があるようです。EUが目指したことは、欧州全体に安定と平和をもたらすことでした。それは「政治・経済の一大実験」というべき試みであり、根底にはEU発足の理念を共有した各国の協調や調和がありました。EU離脱が決まったのは今回が初めての出来事であり、他国への影響は避けられないでしょう。

英国の国民投票の結果を受け、オランダ、フランス、イタリアの右派政党はEU離脱などを問う国民投票の実施を主張し始めました。これは、EUという共同体からの離反が進み、各国が自国優先の考えをとり始めたことを示します。それぞれのEU加盟国が「自国第一」の考えをとれば、欧州各国の政治はまとまりを欠くでしょう。それは、量的緩和などの金融緩和策でなんとか景気を持たせている南欧諸国の景気リスクを高めます。この見方が国債、株式市場の下落につながったようです。

分裂の可能性が顕在化する欧州の政治リスクを、世界経済に当てはめると先行きには注意が必要です。世界経済は中国などの過剰生産能力が顕著となり、需要は低迷しています。それをマイナス金利などの「非常事態の金融政策」で糊塗しています。しかし、主要国の金融・財政政策は策を打ち尽くし、追加的な刺激策の発動余地は限られています。その状況下、各国が自国優先に走れば、主要国の「協調」は進みづらく、政策協調などは期待しづらくなります。これは世界経済の安定にはマイナスです。

これまで、中国経済の減速の中で危機的な状況が回避できたのは、米国の景気回復が世界経済を支えたからでしょう。その米国も、徐々に景気もピークを迎える可能性があります。もし、米中の景気減速と、欧州の政治リスクの高まりが同時に進んだ場合、世界経済は未曾有の景気後退に陥るかもしれません。英国のEU離脱はそうしたリスクを高める要因の1つと考えるべきです。


※シェンゲン協定:ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定のこと。1990年6月 19日にルクセンブルクのシェンゲン村近くの船上で、フランス、西ドイツ、ベネルックス(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)の5カ国が調印した。ヨーロッパの国家間の市場統合に伴う国境管理廃止を先取りした内容であった。

Profile

真壁 昭夫
Akio Makabe

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現:みずほ銀行)に入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社へ出向。みずほ総研主席研究員などを経て、1999年より国内有名大学の講師・教授を歴任し、現職は法政大学大学院教授。テレビ朝日「報道ステーション」、日経CNBC「NEWS ZONE」レギュラーコメンテーターなど多数のTV番組に出演する一方、ビジネス情報サイト「ダイヤモンド・オンライン」でのコラム連載、「下流にならない生き方」、「はじめての金融工学」など、著書も多数。