1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現:みずほ銀行)に入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社へ出向。みずほ総研主席研究員などを経て、1999年より国内有名大学の講師・教授を歴任し、現職は法政大学大学院教授。テレビ朝日「報道ステーション」、日経CNBC「NEWS ZONE」レギュラーコメンテーターなど多数のTV番組に出演する一方、ビジネス情報サイト「ダイヤモンド・オンライン」でのコラム連載、「下流にならない生き方」、「はじめての金融工学」など、著書も多数。
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真壁 昭夫法政大学大学院教授
今注目のキーワードから読み解く!
今後の金融業界展望
<第1回>2016.06.01
今注目の新たなビジネス分野
「FINTECH(フィンテック)」とは?
最近、金融とIT(情報技術)融合させた「フィンテック(FinTech)」という新しいビジネス分野が注目を集めています。フィンテックとは、ファイナンス(Finance)と技術(Technology)を合わせてつくられた造語です。過去5年程度の間、米国を中心にフィンテックビジネスに取り組むベンチャー企業が多く設立されてきました。
フィンテックの普及は資金の決済や資産の運用の利便性向上につながるだけでなく、ビッグデータの分析を通してマーケティング戦略の改善につながるなど、金融業界に革新をもたらしています。
フィンテックとは何か
金融とIT技術の融合を意味するフィンテックは比較的新しい概念です。フィンテックという呼び名は、金融とITの融合を指す場合と、金融工学などの金融の技術(金融テクノロジー)を用いて、資産運用や金融商品の取引(トレーディング)の高度化を指す場合があります。ここで紹介するフィンテックは前者です。
フィンテックビジネスの登場は、スマートフォン、クラウドコンピューティングという2つの革新に支えられています。わたしたちは、スマートフォン(タブレットPCも含む)を使うことで、情報の検索、買い物、そして株式などへの投資を簡単に行うことができます。この点で、スマートフォンは金融ビジネスの拡大を支えています。
フィンテック企業の多くはベンチャー企業と言われています。つまり、小規模で、資金力が十分ではない企業が多いのです。そうした企業の運営をクラウドコンピューティングが支えています。
クラウドコンピューティングはGoogleなどのIT企業が提供する巨大なサーバーをレンタルしてデータを保存、管理することを指します。このサービスによって、多くの企業は情報システムを購入・管理するコストを節約できるようになりました。それはベンチャー企業にとって大きな追い風となっています。
フィンテックの登場により、消費者の行動から導き出される潜在的な需要の発掘と、金融商品の開発やローンの提供などのサービスの充実が進むと期待されています。このため、大手の金融機関だけでなくGoogleなどのIT関連企業もフィンテック向けの投資を増やしています。フィンテックを巡る投資・開発の競争は今後も激化することが予想されます。
フィンテックビジネスの代表例
フィンテックビジネスの代表例として、資金の決済、資産の運用・管理が挙げられます。いずれの場合も、カギは消費者の利便性の向上と、金融機関などにとってのビジネスチャンスの拡大です。資金の決済の代表格がモバイル決済(スマホ決済)です。決済とはお金の支払いを通して、購入したモノやサービスの取引を完了させることを言います。身近な例として、クレジットカードの決済があります。
資金決済で注目されているのが、決済を通して集積される購入商品、場所、顧客の年齢などの膨大な情報(ビッグデータ)の活用です。こうしたデータを解析することで、消費の傾向、頻度などを用いてより有効なマーケティング戦略の策定、ブランディングなどが可能になると期待されます。
また、フィンテックは資産の運用や管理の分野でも注目を集めています。従来、預金は銀行、資金の運用は証券会社と、目的に応じて異なる金融機関と取引することが一般的でした。フィンテックは、こうした個人のお金の管理、取引をひとまとめに管理することを可能にしています。
資産の運用をアドバイスするために人工知能を用いたアドバイスが提供され、顧客(投資家)の行動が今後の投資商品の開発やサービスの拡充につながるなど、ここでもビッグデータの活用が重要視されています。大手の金融機関が、個人投資家の行動を基に市場の動向を予測するなど、サービス、投資手法の開発など多くの分野でビッグデータが活用されるでしょう。フィンテック企業が窓口となって個人のヘッジファンド投資を可能にするなど、フィンテックの広がりは従来の金融業界にはない柔軟さと斬新さを秘めています。
今後の展望
わが国でもビットコインが大きく注目されたように、フィンテックはこれまでの金融の在り方に革新をもたらしています。フィンテックの普及は、投資や決済だけでなく、通貨制度そのものにも大きな影響をもたらす可能性すらあるでしょう。
わが国ではマイナス金利の影響によって今後の銀行収益への懸念が高まるなど、先行きは不透明です。その中で、仮想通貨がボーダレスに取引され始めれば、ドルや円、ユーロよりも仮想通貨を通した消費、決済、投資を求める動きが増えるかもしれません。
一方、フィンテックを取り巻く規制がいまだ十分に発展していないことも事実です。ビットコインの取引所の破たん、人工知能を用いた高速取引が引き起こす市場の混乱など、投資家を保護する仕組みや法令の策定など、フィンテックの運用を支える金融行政制度の整備は不可欠です。
そのため、単にデータ解析やアプリの開発に長けた人材が求められるだけでなく、フィンテックを取り巻く法令、規制の策定などに従事できる人材も必要になるでしょう。こうした動きは国際的な規模で進むと思われ、語学、各国の金融行政などへの理解が求められていることも忘れてはなりません。
Profile
- 真壁 昭夫
- Akio Makabe