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榊原 英資青山学院大学特別招聘教授

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榊原英資の“グローバル視点”経済展望

<第19回>2017.05.17
オバマ大統領の経済政策と世界へのインパクト



オバマ大統領の就任は2009年、いわゆるリーマンショックの直後だった。2009年のアメリカ経済の成長率はマイナス2.78%と1980年以降最悪の状況に落ち込んでいた。当然、大統領の経済政策の最大目的は景気回復を軌道に乗せ、アメリカ経済の活力を取り戻すことであり、オバマ政権は財政・金融両面で景気刺激を続け、アメリカ経済の成長を高めることに注力した。

2009年から2016年の平均的財政赤字は対GDP比で年7.23%、2001年から2008年の7年間に比べると大きく増加している。(2001~08年の財政赤字は対GDP比で年平均4.01%)その結果、政府の総債務残高は2009年の対GDP比86.95%から2016年には107.35%まで上昇した。しかし、財政による景気刺激がこの時期は最重要課題だった。

ちなみに、日本の2016年の政府の総債務残高は対GDP比239.18%とアメリカの倍以上の数字になっている。2016年、イタリアは132.60%、フランスは96.65%、イギリスは89.16%、そしてドイツは67.65%なので、アメリカは先進国の平均に近い数字だ。日本の総債務残高が圧倒的に高いが日本の場合、金融資産残高が総額1752兆円、GDP比で326.09%と政府の総債務残高を大きく上回っている。

政府の債務は日本国内でファイナンスされ、国全体の対外収支・経済収支黒字は2016年、対GDP比で3.87%とドイツ、中国に次いで世界で3番目の高さとなっている。ちなみにアメリカの経常収支は対GDP比で2.59%の赤字になっている。金融政策もまた、2009年から景気刺激型に転じ、2009年には第一次量的緩和(QE1)、2010年には第2次量的緩和(QE2)、2012年には第3次量的緩和(QE3)が実施されている。



この時期のFRB議長ベン・S・バーナンキ(任期は2006年2月1日から2013年1月31日)はハーバード大学経済学部を卒業し、MITで博士号を取得。2005年にCEA委員長に就任し、2006年にFRB議長になっている。ミルトン・フリードマンの信奉者で、「デフレ克服のためにはヘリコプターからお金をばらまけばよい」と発言、「ヘリコプター・ベン」の異名をもっている。バーナンキの任期は共和党のジョージ・W・ブッシュと民主党のバラク・オバマ大統領の時期だが、政権交代でも彼が代わることはなかった。2014年にはジャネット・イエレンが任命されているが、彼女も1999年ビル・クリントン大統領経済諮問委員長になる等民主党系とされている。任期は2018年2月3日まで。共和党のドナルド・トランプ大統領は大統領就任の時はイエレン議長の交代を求めなかったが、再任はさせず共和党系の議長に交代させたい意向であるといわれている。

オバマ大統領の積極的な財政、金融政策で、2010年から16年までアメリカは年平均2.09%の成長率を達成することになる。これは主要先進国の中で最も高い数字だった。(2010~16年の年平均成長率はイギリス1.96%、ドイツ1.97%、フランス1.13%、日本1.44%、イタリアマイナス0.51%)2017年についてもIMFが「世界経済見直し(WEO)」で予測しているが、先進国地域の平均成長率は2.0%、アメリカが最も高く2.3%(イギリス2.0%、ドイツ1.6%、フランス1.4%、日本1.2%、イタリア0.8%)とされている。ここ10年前後は、アメリカが先進国の中で最も高い成長率を達成し、先進国全体を引っ張っているという構図なのだ。IMFの予測によるとこの状況は2018年も続き、アメリカの成長率は2.5%とユーロ圏の1.8%、日本の0.6%を大きく上回るとされている。

トランプ政権になってもアメリカ経済の好調は続いていくと予想されている。彼の減税政策、そして公共事業政策はオバマ時代と同様、あるいはそれ以上にアメリカの成長率を高く維持すると予測されている。ヨーロッパ先進国や日本が成熟段階に達し、1~2%の成長率に収斂していくなかで、アメリカ経済は順調に推移し、しばらくは2~3%の成長率を維持していく可能性が高い。トランプ大統領の政策と、今後のアメリカ経済の推移に注目したい。


Profile

榊原 英資
Eisuke Sakakibara

1941年生まれ。東京大学経済学部卒、1965年に大蔵省に入省。ミシガン大学に留学し、経済学博士号取得。1994年に財政金融研究所所長、1995年に国際金融局長を経て1997年に財務官に就任。1999年に大蔵省退官、慶應義塾大学教授、早稲田大学教授を経て、2010年4月から青山学院大学特別招聘教授。近著に「資本主義の終焉、その先の世界」、「中流崩壊 日本のサラリーマンが下層化していく」、「仕事に活きる教養としての『日本論』」、「日本経済『成長』の正体」、「榊原英資の成熟戦略」など。