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榊原 英資青山学院大学特別招聘教授

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榊原英資の“グローバル視点”経済展望

<第1回>2016.06.01
アメリカ経済も減速局面に



このところアメリカ経済は順調に推移し、3年連続で2%を超える成長率を達成すると予測されている。2014年は2.43%(実質GDP・年平均)、2015年は2.43%、2016年は2.40%(2016年の予測は2016年4月のIMFによる推定)。この成長率は先進国の中で最も高いものだ。2015年、イギリスの成長率は2.2%、ユーロ圏は1.6%、カナダは1.2%、日本は0.5%だった。

世界経済全体の成長率は、2015年は3.1%と、2014年の3.4%からかなり下げている。先進国は順調だったが、新興市場国の成長率が4.6%から4.0%へ大きく下降したのだった。石油などの資源価格の急落で、資源輸出国であるロシアがマイナス3.7%にブラジルがマイナス3.8%まで成長率を下げてしまったのだ。資源価格の下落は資源輸入国である多くの先進国にはプラスで先進国の成長率は2014年の1.8%から2015年には1.9%に上昇している。前述したように特にアメリカ経済は順調で英国・カナダを超える2.4%の成長率を達成したのだった。

アメリカ経済が好調である大きな原因の1つはシェールガスの生産だ。シェールガスの開発によってアメリカはエネルギー輸入国からエネルギー輸出国に転じつつある。そしてシェールガスの輸出は石油などの天然資源価格を大きく下げ、前述したような世界経済の大きな構造変化を引き起こしたのだった。



新興市場国・途上国の成長率が大きく下落する中で、現在の世界経済を牽引しているのはアメリカを筆頭とする先進国なのだ。2012年・2013年と成長率が低迷していたユーロ圏も2015年には1.5%の成長率を達成している。ちなみに、日本も2014年のマイナス成長(マイナス0.03%)から脱し、2015年は0.47%の成長を遂げている。ただ問題は世界経済全体が減速している中で、アメリカを中心とする先進国経済の好調が続くかどうかだ。前述したようにアメリカのここ3年の成長率は2%を超えているばかりでなく、4月の消費者物価指数は0.4%上昇しおよそ3年ぶりの伸びとなったほか、住宅着工件数も6.6%増加した。

アメリカは好調な経済状況を背景に2015年12月にはフェデラルファンズ・レート(※)を0.25%引き上げ、0.50%にしている。2016年にも利上げを継続するとされているが、当初は3~4月に利上げする予測だったが、5月に入っても利上げを行わず、現状では6月以降1回あるいは2回だとされている。というのは、好調を続けてきたアメリカ経済にも若干の翳りが見られ始めたからだ。5月初めに発表された4月の非農業部門の雇用者数の増加は、予想の22.8万人強を大きく下回り、16.0万人にとどまったのだ。失業率も2016年1月には4.9%に下がったが、2016年3月には5.0%に戻している。連邦準備制度理事会(FRB:Federal Reserve Board)の議長、ジャネット・イエレンも今のところ再度の利上げには踏み切っておらず、慎重にアメリカ経済の動向を見守っている。

2016年3月29日には利上げを慎重に進めるとの姿勢を示し、さらに必要な場合にはマイナス金利の可能性も否定しないと発表している。アメリカ経済も次第に世界経済全体の影響を受け減速局面に入ってきたのだろう。 こうした状況を受け、ドル高基調も終わりつつあり、逆に円高が進んできている。原油価格の反転もマイナス要因。アメリカ経済は、今後、穏やかな減速局面に入っていくのだろう。


※フェデラルファンズ・レート:連邦準備制度理事会(FRB:Federal Reserve Board)が、短期金融市場を操作する目的で調整する利子率、または、政策金利のこと。

Profile

榊原 英資
Eisuke Sakakibara

1941年生まれ。東京大学経済学部卒、1965年に大蔵省に入省。ミシガン大学に留学し、経済学博士号取得。1994年に財政金融研究所所長、1995年に国際金融局長を経て1997年に財務官に就任。1999年に大蔵省退官、慶應義塾大学教授、早稲田大学教授を経て、2010年4月から青山学院大学特別招聘教授。近著に「資本主義の終焉、その先の世界」、「中流崩壊 日本のサラリーマンが下層化していく」、「仕事に活きる教養としての『日本論』」、「日本経済『成長』の正体」、「榊原英資の成熟戦略」など。