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榊原 英資青山学院大学特別招聘教授

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榊原英資の“グローバル視点”経済展望

<第14回>2017.02.08
韓国政治混乱、日本への影響は



韓国の現行憲法(第六憲法・1987年10月29日に採択)は5年毎の直接選挙による大統領選出を決めている。この第六憲法に基づいた第六共和制は1988年2月25日に盧泰愚が大統領に就任して以来続いている。

盧泰愚以来、金泳三、金大中、廬武鉉、李明博がそれぞれ5年間大統領を務め、2013年2月25日、セヌリ党(旧ハンナラ党)の朴槿恵が大統領に就任。朴槿恵は第5代~第8代大統領朴正煕の長女、キリスト教系の聖心女子中学・高校を卒業後に西江大学電子工学科に進学し、首席で卒業している。卒業後、フランスのグルノーブル大学に留学したが、母親の暗殺(1974年8月15日)のため急遽フランスから帰国し、その後は父親のファーストレディー役を務め、1979年には今度は父朴正煕が暗殺されている。

1998年に朴槿恵は国会議員補欠選挙で当選し、政界入りしている。2004年、3カ月ぶりの女性党首としてハンナラ党の代表に就任、一時は「ハンナラ党のジャンヌ・ダルク」と呼ばれたこともあった。2006年5月31日統一地方選挙ではハンナラ党を地滑り的勝利に導き、大統領候補としての地歩を固めている。しかし、2007年8月20日大統領候補党内予備選挙では李明博に敗れている。

2011年12月20日に開かれたセヌリ党全国委員会で朴槿恵は非常対策委員会委員長に選出され、5年5カ月ぶりに事実上の党首職に復帰している。総選挙では非常対策委員長として陣頭指揮を執り、152議席を獲得し単独過半数を維持することができたのだった。2012年の大統領予備選では得票率83.9%で2位の金文洙や他候補に圧倒的大差をつけセヌリ党大統領候補に選出された。2012年12月19日に行われた大統領選では、革新派である民主統合党候補の文在寅と事実上の一騎打ちとなり、接戦の末勝利し、2013年2月25日に第18代大統領に就任している。

就任後しばらくは高い支持率を維持したが、2016年10月末に発覚した友人の崔順実の国政介入問題、いわゆる「崔順実ゲート」で支持率が急落、11月初頭には5%まで下落し、12月9日国会で弾劾訴追案が可決され、職務停止となっている。現在は国務総理(首相に相当)黄教安が憲法の規定により大統領代行を務めている。1988年以来、歴代大統領はそれぞれ5年間の任期を務めているが、朴槿恵大統領は就任後3年で職務停止に追い込まれている。2003~08年に大統領を務めた廬武鉉も弾劾訴追を受け、2004年3月12日職務を停止されているが、同年5月14日憲法裁判所が弾劾訴追を棄却し、同日、廬武鉉は大統領に復帰している。

朴槿恵も2016年12月16日、弾劾訴追案の審議を行う憲法裁判所に対して、弾劾を棄却するように求める答弁書を提出している。憲法裁判の判断は訴追可決から180日以内(つまり2017年6月6日以前)に示されることになっているが、状況は流動的で韓国政治の混乱は続いていくと思われる。韓国検察は既に崔順実、安鍾範元大統領府政策調整官等も逮捕しており、書面であれ訪問であれ朴槿恵大統領に対する措置も近く行われるものとみられている。



韓国政治の混乱は二重の意味で日本にとってマイナスに働くことになるだろう。まず韓国政治の混乱・ウォン安・円高は日本の韓国向け輸出を減速させ、製造業等への打撃になるだろう。韓国は日本の輸出相手国としては、アメリカ・中国に次ぐ3位、輸出全体に占めるシェアは7.1%に上る。また、政治危機が金融の混乱をもたらす可能性もある。1990年代後半のアジア通貨危機の時には韓国を含むアジアの金融危機が日本にも波及したが、もし韓国の金融が今回混乱すれば、日本の金融界も影響を受けることになるだろう。アジア通貨危機の時ほどではないにしても、韓国にエクスポージャーが多い銀行の株価が下がる等の可能性がある。

韓国の政治危機は国民の関心を外に向けることになり、慰安婦問題等が再び浮上してきている。釜山の日本総領事館前には少女像が設置され、韓国政府はこれを撤去する強硬な対策はとれない状況だ。当然、日本政府は10億円を拠出したかつての日韓合意で慰安婦問題は決着済みとの立場だが、韓国世論は撤去を認めていない。韓国紙・中央日報は2015年12月の日韓合意は少女像を「撤去」することまで言及されていないと主張している。日本は駐韓大使を一時帰国させる等抗議の意志を表明しているが、今後の日韓関係は問題含みとなるだろう。

いずれにせよ、韓国の政局の混乱は結果として、韓国の反日感情を高める方向に作用しており、日韓関係はしばらくの間、極めて難しい状況が続いていくのではないだろうか。


Profile

榊原 英資
Eisuke Sakakibara

1941年生まれ。東京大学経済学部卒、1965年に大蔵省に入省。ミシガン大学に留学し、経済学博士号取得。1994年に財政金融研究所所長、1995年に国際金融局長を経て1997年に財務官に就任。1999年に大蔵省退官、慶應義塾大学教授、早稲田大学教授を経て、2010年4月から青山学院大学特別招聘教授。近著に「資本主義の終焉、その先の世界」、「中流崩壊 日本のサラリーマンが下層化していく」、「仕事に活きる教養としての『日本論』」、「日本経済『成長』の正体」、「榊原英資の成熟戦略」など。