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榊原 英資青山学院大学特別招聘教授

就活生向け!
榊原英資の“グローバル視点”経済展望

<第12回>2017.01.11
トランプ相場はいつまで続くのか



ニューヨーク・ダウが高値を更新し続けている。2016年1月19日には16,016.02ドルだったが、2017年1月6日には19,899.29ドルまで上昇している。S&Pも2016年1月20日には1859.33だったが、2017年1月6日には2269.00まで上ってきている。

トランプ次期大統領が減税、そして大規模な公共事業を約束していることから、アメリカ経済の先行きが明るいとの予測がマーケットを動かしているのだ。トランプ次期大統領は2017年1月20日に正式に大統領に就任する。既に元インディアナ州知事マイク・ペンスを副大統領に、財務長官にゴールドマン・サックス元幹部スティーブン・ムニューチンを、商務長官にウィルバー・ロス等が指名されトランプ政権の骨格が固まってきている。又、駐日大使にはトランプ氏側近のウィリアム・ハガティ氏が就任する。

2015年のアメリカの実質GDPの成長率は2.6%と欧米先進国では最も高い。(イギリス2.25%、オランダ1.95%、ドイツ1.48%、フランス1.27%、カナダ1.08%、イタリア0.76%)、2016年10月のIMFの世界経済見通し(WEO)によると、2016年は1.6%まで下がるとされているが、2017年には2.2%まで戻ると予測されている。(2016年はアメリカ1.6%、イギリス1.8%、ドイツ1.7%、フランス1.3%、カナダ1.2%、イタリア0.8%。2017年はアメリカ2.2%、イギリス1.1%、ドイツ1.4%、フランス1.3%、カナダ1.9%、イタリア0.9%)

2016年は1.6%とユーロ圏の1.7%より若干低くなるが、2017年には2.2%と再び先進国で最も高いレベルに戻すとされているのだ。トランプ新大統領の政策がかなり成長率を押し上げると予測されている。

ここ5年間(2011年~15年)のアメリカの年平均成長率は2.09%、平均で2%以上の成長率を維持している。先進国の中でも最もダイナミックな経済だ。ちなみに、この5年間の日本の年平均成長率は0.63%。2011年と14年はマイナス成長になっている。アメリカは先進国でありながら発展途上国的性質を持っていて格差は大きいのだが、成長の余地が高い。アフリカ系住民やスペイン系住民の比率が次第に増加しており、彼等の所得が今後伸びていく可能性が高いと考えられている。ヨーロッパ先進国は既に成熟段階に入っており、年平均成長率は1%前後となっている。2011年~15年の年平均成長率はドイツで1.61%、フランスで0.95%、イギリスで2.01%、イタリアで0.71%となっている。イギリスがアメリカとともに2%を上回っているが他は1%台でギリシャ、ロシア等はマイナス成長になっている。(ギリシャは2011年~15年の平均成長率はマイナス3.84%)

アメリカ・イギリス等は、むしろ例外的に2%台の成長を維持している。その一つの原因として、前述したように両国ともに移民社会であり多様な人種構成等がダイナミズムをもたらしている、ということが考えられる。ただ、アメリカは先進国の中で最も格差の大きい国でもある。アメリカのトップ10%の所得はボトム10%の15.9倍であり、9.1倍のフランス、8.4倍の日本、6.9倍のドイツを大きく上回っているのだ。コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授によると格差は拡大しており、「中下層の人びとは現在、今世紀初めより苦しい生活を強いられている。」ということだ。(ジョセフ・スティグリッツ著「世界の99%を貧困にする経済」徳間書店、2012年)



格差は世界的に拡大していて、今や格差の解消が日本でも大きな政策課題になってきている。有力な解決策はヨーロッパ型の福祉社会を築き、大きな政府で所得の再分配を行うことだが、トランプのアメリカは、むしろ逆の方向に進む可能性がある。減税、そして小さな政府路線は従来からのアメリカの政策パターンだが、トランプ新大統領はこれをさらに加速させる可能性もある。所得税の最高税率を39.6%から25%引き上げ、法人税を35%から15%に引き下げるとしている。小さな政府をさらに徹底させるのだが、これは富裕層優遇政策でもある。いずれにせよ、トランプ新大統領の政策は格差をむしろ拡大するにしても成長を重視した政策で、しばらくは経済や株式市場は好調に推移するのだろう。


Profile

榊原 英資
Eisuke Sakakibara

1941年生まれ。東京大学経済学部卒、1965年に大蔵省に入省。ミシガン大学に留学し、経済学博士号取得。1994年に財政金融研究所所長、1995年に国際金融局長を経て1997年に財務官に就任。1999年に大蔵省退官、慶應義塾大学教授、早稲田大学教授を経て、2010年4月から青山学院大学特別招聘教授。近著に「資本主義の終焉、その先の世界」、「中流崩壊 日本のサラリーマンが下層化していく」、「仕事に活きる教養としての『日本論』」、「日本経済『成長』の正体」、「榊原英資の成熟戦略」など。