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榊原 英資青山学院大学特別招聘教授

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榊原英資の“グローバル視点”経済展望

<第7回>2016.10.05
変調を来す中国経済



去る9月4日~5日に中国杭州で開催されたG20サミットが終了した。杭州は中国八大古都の一つであり、13世紀には世界最大の都市だった。西湖を擁した観光地でもあり、「上に天国あり、下に蘇州杭州あり」といわれる蘇州と並ぶ景勝の地だ。国連の藩基文事務総長は、G20会議は大きな成功を収めたと中国の「高いリーダーシップ」を称賛している。オバマ大統領と習近平国家主席は会談後、気候変動対策の国家的枠組みである「パリ協定」の批准書を提出、この米中合意は高く評価されたのだった。

G20サミットそのものは20カ国から多くの代表たちが参加する大会議。会議でお互いのコミュニケーションを図るには大きすぎるフォーラムだ。G7~G8がかなりその点でうまく機能しているのとは異なった場だといえよう。これだけ大きなフォーラムになると、会議そのものはそれぞれの国のスピーチが続くだけで会議の場で大きな成果が出てくるというものではない。重要なのはG20の会議そのものではなく、この機会を利用して行われる個別会議なのだ。今回も米中首脳会議・日中首脳会議などが行われかなりの成果を上げたのだった。

もちろん、事前から周到に準備されていた首脳宣言はそれなりの意味は持っているが、成長のために自由貿易協定を推進するなど、包括的・一般的内容のもので、特にこの会議で新たに考えられたというものではない。

しかしこの会議は世界経済が難しい局面に差しかかっているとき、その中心にある中国で開かれたという点で象徴的だといえるのだろう。世界経済全体は減速局面にあり、ハーバード大学のローレンス・サマーズ教授が言う中長期的景気後退(Secular Stagnation)が現実化する可能性は決して低くない。2016年7月の世界経済見直し(WEO)でもIMFは2016年および2017年の世界経済の成長率をそれぞれ0.1%ずつ下方修正。特に新興国および途上国の成長率が2014年の4.5%から2015年は4.0%、2016年は4.1%に低下するとしている。

BRICs諸国の中でもインドは7%台の成長を今のところは維持しているが、ロシア・ブラジルはマイナス成長(2015年、ロシアはマイナス3.7%・ブラジルはマイナス3.8%)、中国も南アフリカも大きく成長率を低下させている。特に中国経済は1980~2011年には年平均で10%弱の成長率を達成してきたが、2012年には7.7%と7%台に、2015年には6.9%と6%台まで成長率を下げてきている。高度成長期が終焉し、安定成長に入ってきたのだが、どこまで成長率が下がっていくかは不透明だ。IMFは2016年6.6%、2017年6.2%という予測を発表しているが(2016年7月のWEO)はたして6%台を維持できるかどうかについては疑問なしとしない。いわゆる李克強指数(鉄道貨物輸送量・電力消費量・銀行融資残高から指数化されたもの)は2015年には前年比でマイナスとなっており、かつ2015年には前年比で輸入が14.1%低下しているからだ。



どの数字が信頼に値するかどうかはともかくとして、中国経済が大きく減速していることは確かだろう。G20でも問題になったように鉄鋼などの過剰生産能力は解消されておらず、金融機関の潜在的不良債権は190兆円にものぼるといわれている。リーマンショック以降、中国は大規模な景気刺激策を実施し、世界経済の底割れを防いできたのだが、それが次第に過剰資本ストック・過剰債務という重しになって中国経済にのしかかるようになってしまったのだ。

中長期的にも中国経済は減速局面に入ってきている。中国の人口は現在13億7,605万人(国連推計)だが、2015~2100年の間には27%人口が減少し、2100年には人口が10.0億人にまで下がると予測されている。当然、経済成長率も次第に低下し、2050年には3%前後まで下がるといわれている。プライスウォーターハウスクーパーズ(PwC)の予測では、2015年から2050年の中国の平均成長率は3.4%、インドの4.9%よりかなり低い。人口の減少と高齢化にともない成長率も下がり、中国も次第に成熟局面に入っていくのだ。問題は人口減少、成長率の低下を中国当局がどのような政策をとって乗り越えていくのかということ。李克強指数や中国に関する経済の現況を表す経済指標、中国政府の政策動向を注意深く見ていく必要があるだろう。


Profile

榊原 英資
Eisuke Sakakibara

1941年生まれ。東京大学経済学部卒、1965年に大蔵省に入省。ミシガン大学に留学し、経済学博士号取得。1994年に財政金融研究所所長、1995年に国際金融局長を経て1997年に財務官に就任。1999年に大蔵省退官、慶應義塾大学教授、早稲田大学教授を経て、2010年4月から青山学院大学特別招聘教授。近著に「資本主義の終焉、その先の世界」、「中流崩壊 日本のサラリーマンが下層化していく」、「仕事に活きる教養としての『日本論』」、「日本経済『成長』の正体」、「榊原英資の成熟戦略」など。