1941年生まれ。東京大学経済学部卒、1965年に大蔵省に入省。ミシガン大学に留学し、経済学博士号取得。1994年に財政金融研究所所長、1995年に国際金融局長を経て1997年に財務官に就任。1999年に大蔵省退官、慶應義塾大学教授、早稲田大学教授を経て、2010年4月から青山学院大学特別招聘教授。近著に「資本主義の終焉、その先の世界」、「中流崩壊 日本のサラリーマンが下層化していく」、「仕事に活きる教養としての『日本論』」、「日本経済『成長』の正体」、「榊原英資の成熟戦略」など。
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榊原 英資青山学院大学特別招聘教授
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榊原英資の“グローバル視点”経済展望
<第3回>2016.07.06
BRICS諸国の停滞
BRICS諸国とはブラジル・ロシア・インド・中国・そして南アフリカの5カ国。新興市場国の中心として、世界経済の一方のエンジンだった先進国諸国のエンジンと相まって、世界経済を牽引してきたのだった。
そのBRICS諸国が、今、大きく失速している。2015年のブラジルの成長率はマイナス3.8%、ロシアのそれはマイナス3.7%だ。中国も1980年から2011年まで平均で10%を超す成長を達成したが、2015年の成長率は6.9%。南アフリカも1.3%と過去10年(2005~2014年)の年平均成長率3.0%から2015年は大きく下げている。主たる原因は石油など天然資源価格の下落。WTIの原油価格は2014年の1バレル93.13USドルから2015年には48.75USドルまで下落している。鉄鋼石価格も2014年の1トン96.84USドルから2015年には55.21USドルまで下がっている。ブラジル、ロシアなどの天然資源の輸出国は、こうした価格の下落を受けて成長率がマイナスにまで落ち込んでしまったのだ(2014年のブラジルの成長率は0.10%、ロシアのそれは0.75%となんとかプラスを保っていた。2004年~2013年の10年間の年平均成長率はブラジルが4.03%、ロシアのそれは4.12%だった)。
原油価格は2016年に入ってさらに30ドル強まで下がったが、このところ若干戻してはきている。しかしそれでも5月末で1バレル50USドル弱、2015年の平均価格のレベルなのだ。世界銀行の2016年4月の見通しでは2016年の石油価格は1バレル41USドルと、若干上方修正はしているがまだまだ低い水準だ。
原油価格下落の引き金はアメリカのシェールオイルの増産だったが、サウジアラビアなどのOPEC諸国は価格の下落にもかかわらず減産に踏み切っていない。アメリカのシェールオイルつぶしが目的だとも言われている。シェールオイルの採算分岐点はバラつきがあるものの、1バレルあたり40~80USドル。このままの原油安が続けばシェールオイルの生産は大きく減少することになる。サウジアラビアをはじめOPECの油田は1バレルあたり20ドル以下。このシェールつぶしが続くなら原油価格の反転の望みは薄い。
となれば、ロシアやブラジルの苦境は2016年も続くことになる。IMFは2016年1月の見通しを4月には下方修正して2016年のロシアの成長率をマイナス1.8%、ブラジルのそれをマイナス3.8%としている。南アフリカの成長率は2016年には0.6%まで下がり、中国のそれは6.5%まで下落するとの予測だ。
日本にとって隣国中国の急激な減速は気になるところだ。IMFの2016年の予測は6.5%だが、中国の発表は信用できないとするアナリストも少なくない。というのは、中国の輸入は2016年1月前年同期比で18.8%も減少しており、この状況で7%前後の成長は考えられないからだ。鉄道貨物輸送量(25%)、銀行融資残高(35%)、電力消費量(40%)からなるいわゆる「李克強指数(※)」で試算すると実際の中国の成長率は2015年6.9%ではなくその半分以下の2.8%だというのだ。
いずれにせよ、中国が急激に減速局面に入っていることは確かなようだ。BRICS諸国のうち好調なのはインドだけ。インドの2015年の成長率は7.34%と中国の6.90%を超えてきている(2014年は中国7.30%、インド7.24%)。インドは人口構成が若く、今後も人口増加が見込まれるため(2015年は中国13億6,782万人、インド12億5,970人)、2025年あたりに中国を人口で逆転し、2050年には17億人に達するとされている(2050年中国は13億人弱)。中国は人口減少、高齢化で次第に成長率は低下し、2050年には3%前後になるとされているが、インドは今後とも7%前後の成長率を維持する可能性が高い。2015年インドのGDPは2兆907億ドルと中国の5分の1程度(中国は10兆9,828億ドル)と、まだまだ成長する余地は大きいということだ。
しかし世界経済全体が減速する中でインドだけが今後とも高成長を維持できるかどうか定かではない。ほかのBRICS諸国同様、成長率が下がっていく可能性があるのだろう。
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- 榊原 英資
- Eisuke Sakakibara