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就活前に学ぶ金融講座

④生命保険・損害保険

生命保険のビジネスモデル

生命保険会社のビジネスの仕組みを考える前に、生命保険とはそもそもどういうものなのかを見てみましょう。
生命保険のもっともベーシックなモデルは、顧客(加入者)から長期間にわたり定期的に保険料を受け取り、加入者が死亡した際にはその家族に「あらかじめ約束していた金銭(保険金)」を支払うというものです。契約期間を過ぎても加入者が生存している場合は、それまで積み立ててきた元利金の中から満期保険金を支払います。

戦後の経済成長期において、「一家の大黒柱を失うリスク」に備えるための方法として生命保険は広く普及し、同時に長期の貯蓄手段としての認識も高まりました。

ところで、人間は年齢が高くなるにつれて死亡率(人口に対する死亡者数の割合)が高くなりますから、保険会社としては年齢とともに保険料を引き上げていかなければ採算がとれません。しかし、毎年保険料が高くなるのでは商品として成り立ち難くなりますので、保険会社は均等の保険料を長期にわたり徴収することを思いつきました。高齢になるとともに不足してくる保険料を若いうち(契約初期の段階)に先払いしてもらい、それを運用して契約末期の保険料に充当しようというものです。

現在の生命保険はほとんどがこうした仕組みでできています。それゆえ保険会社は「長期の預かり資産を運用する機関投資家」としての“もうひとつの役割”も同時に拡大させてきたのです。

理解のツボ① 機関投資家

顧客などから集めた大口の資金を、運用・管理する法人のことで、生命保険会社、損害保険会社、信託銀行、投資運用会社、年金基金などがその代表とされています。したがって、生命保険会社は死亡リスクなどを引き受ける保険業務と、莫大な資産を運用する投資家としての業務の“2つの顔”を持つ会社だと言えます。

理解のツボ② 保険の仕組み

「保険」とは「相互扶助の精神」から生まれ、大勢の人から集めた資金を利用して働き手を失った家族や、事故や災害に遭った人などを救済することを目的としています。くわしくは、「就活前に学ぶ金融講座・第3章」の『 生命保険と損害保険 』をご覧ください。

生命保険大国、日本

わが国の生命保険事業は「女性の活用」によって大きく発展したと言っても過言ではありません。生命保険業界では戦後間もない頃から戦争で夫を失った夫人の救済という意味も含めて、当時は少なかった女性の社会進出を後押ししました。保険募集人(保険会社の営業職員)という活躍の場を得た女性たちは、経済復興と成長、核家族化の広がりといった社会変化の中、「万一のための備え」の必要性を提唱し、世界トップクラスの生命保険大国への道程を営業の最前線で支えたと言えます。
こうした成長の形態はわが国特有のもので、最近はこのモデルとノウハウをアジアの途上国に導入しようとする動きも見られます。

一方、日本の生命保険会社にはバブル経済の崩壊後、“逆ざや”の負担が重くのしかかるという苦難の時期もありました。逆ざやとは保険会社が顧客に約束した利回り(予定利率)に対して運用実績が追いつかずに生じるマイナスのことです。逆ざやとして生じた不足分は自社資金によって補わなければならず、負担に耐えきれなかった生命保険会社7社が1997年から2001年の間に経営破綻しています。

社会の変化が生命保険を進化させる

生命保険ビジネスは国の人口構造との関係が深く、若い世代ほど人口が多くなる“ピラミッド型の構造”であることが、有望な市場の条件となります。生命保険加入率がすでに高く、少子高齢化が進むわが国で、生命保険ビジネスの今後の成長を大きく望むことは難しいと予想されることから、国内の生命保険会社は既存の顧客の囲い込みを強化すると同時に、顧客およびその家族の長期にわたるマネープランやリスクへの備えなどを提言し、トータルな生活のサポートによって収益機会を拡大する戦略を進めています。

また、家族構成の変化や女性の社会進出の増加などにより、保障に対するニーズにも変化が見られるようになりました。それに対応して近年では、病気の治療や介護など「長く生きることにより生じるリスクのケア」を厚くした商品の販売や、既存の契約内容を社会変化に合わせて変更する取り組みが広がっています。加えて、保険料の全額を加入時に払い込み、後に保険金を年金のように受け取る仕組みの「年金保険」も、主力商品として浮上しています。

これまで国内の生命保険会社は自社の営業職員(ほとんどが女性)による販売チャネルに頼る経営を続けてきましたが、銀行窓口での保険販売が解禁となったほか、保険専門のショップの台頭やインターネットなどによるダイレクト販売が一定の顧客層の支持を集め始めたことから、各社ともに複数チャネルによって販売力を総合的に高めていく戦略を進めています。そのため、従来とは異なるマーケティングや、ショップ運営、広告・宣伝などにおいて、新しい感覚やノウハウを必要としています。

さらに、大手の生命保険会社は、数年前より今後の成長戦略に欠かせない取り組みとして、海外進出を積極的に推進しています。アジアの保険会社や金融機関を買収したり、提携による進出が目立ちますが、アメリカの中堅生保会社を買収して保険料収入や純益を一気に引き上げた会社もあります。今後も生命保険会社による海外投資は続くと予想されています。「生命保険はドメスティックなビジネス」という先入観は、捨てたほうが良い時代が近づいていると思われます。

理解のツボ③ 国内の営業戦略

金融の自由化政策により生命保険と損害保険を隔てる垣根が低くなり、営業現場では生命保険会社の募集人が損害保険分野の商品も販売できるようになりました。そのため、生命保険販売を支えてきた自社の営業職員の金融知識や保険知識をより高め、保険に軸足を置いたファイナンシャル・プランナーとして育成していくことが業界の課題となっています。

損害保険のビジネスモデル

損害保険会社のビジネスの仕組みを考える前に、損害保険とはそもそもどういうものなのかを見てみましょう。
損害保険のもっともベーシックなモデルは、あらかじめ補償の対象や範囲を設定し、一定期間内(通常1年間)に偶発的に起きた損害に対して、損害分のみを保険金の支払いによって補償するというものです。契約は毎年更新され、損害保険会社はそのたびに保険料を受け取ります。

損害保険がカバーする対象は幅広く、自動車事故、海難や航空機の事故、火災、風水害、地震、盗難、機械やコンピュータなどの故障、賠償責任、ケガ(傷害)など、暮らしや産業におけるさまざまなリスクに対応しています。「危険のあるところに保険あり」と言われるほど、暮らしや産業のあらゆるところに「安心」を提供していると言うことができます。
損害保険は海上輸送や火災の補償から始まり、対象を広げながら発展し、現在は自動車保険が全体の半分以上を占めています。

保険業務と並行して、顧客から集めた保険料を保険金の支払いに備えて運用する投資家としての機能を持つ構造は生命保険会社と同じですが、損害保険はいわゆる“掛け捨て”であり、長期積立型の運用をあまり必要としないため、運用総額は生命保険会社に比べてずっと小さな規模となります。

時代のリスクを追いかける、損害保険

「この補償を引き受けるためには、どのくらいの保険料が必要か?」という“保険の価格”の算定は、保険会社の財務の健全性を左右します。そのため、損害保険会社では過去に起きた事故データなどから、将来の事故の発生率を「大数の法則」の応用によって算出し、それを基に保険料を算定しています。 自動車事故や火災などは過去のデータが豊富にあるため、発生率を比較的算出しやすいとされますが、異常気象による災害やコンピュータ犯罪、テロ行為など、過去の事例にさかのぼって調べ難いものも数多くあります。また、リコール問題や医療過誤紛争、個人情報漏えいに対する賠償責任など、時代とともに拡大しているリスクもあります。

そうしたなか、さまざまなリスクに見合う形で発生頻度や被害額の予想が割り出され、利用者の期待に応える保険商品が次々に誕生しているのは、数学や統計学などを駆使した科学的アプローチと、長年にわたり積み重ねてきたリスク解析や保険数理の技術の成果と考えられます。
ちなみに、「大数の法則」とは、たとえばサイコロを振ったときに同じ目が出る確率が、振る回数を増やせば増やすほど6分の1に近づくとするもので、不規則に発生しているように見える事象も、それを長期・大量に探察すると、一定の発生確率を導き出すことができるとされています。

理解のツボ④ 保険料の算定

顧客から受け取る保険料に事業コストを加えた金額よりも、保険金の支払いが上回ると経営は破綻してしまいます。反対に保険金の支払いが少な過ぎると利益は拡大しますが、商品としての競争力を失います。業界では「not excessive(高すぎない)」「adequacy(適切)」「equity(公正・公平)」を保険料を決める際の3原則としています。

世界市場へと加速する

わが国の損害保険は、ホールセール(法人取引)の一部を除き、「保険代理店」が営業の前線を担っています。 保険代理店には、保険販売を主業務とする「専業代理店」、ほかの事業を本業とする会社が保険代理店を兼業する「副業代理店」があり、それぞれ特定の保険会社の商品だけを取り扱う「専属代理店」と、複数の会社の商品を扱う「乗合代理店」に分かれます。

したがって、損害保険会社の営業推進は代理店への営業支援や業務サポートが中心となります。同時に、乗合代理店における自社シェアのアップや、専業代理店の開拓・囲い込みが優先的な営業の目標とされています。また、近年では代理店に高度な保険知識やシステム対応力、質の高い助言を伴う営業力が求められるようになったことから、廃業する代理店や事業存続の危機にさらされている代理店も少なくありません。
そのため、損害保険会社は保険代理店への支援を強化するとともに、研修などによる人材や後継者の育成のほか、有力専業代理店の組織化などに力を入れています。

また、最近は自動車保険などの分野において、インターネットや電話による直販も有力なチャネルに育ちつつあります。

一方、業界大手の“メガ損保3グループ”は2010年頃より海外事業の拡大を加速させています。今後、保険市場の拡大が見込まれるアジアをはじめ、アメリカ、イギリス、スイス、ブラジル、トルコ、インドにおいて子会社や合弁会社による保険事業が営まれ、海外事業の純益が国内事業を上回っているグループもあります。各グループともに「良い機会があれば、積極的に海外進出に取り組んでいく」としていますので、海外の保険会社の買収や提携による海外事業の拡大は、今後も続くと思われます。

理解のツボ⑤ 副業代理店

自動車販売会社、自動車修理工場、不動産会社、旅行代理店などが有力な副業代理店とされています。なかでも、自動車販売会社は規模や店舗数、販売力が高いことから、損害保険会社は自動車ディーラーへの営業推進を専門に担当する部署を設けて対応しています。

Point of view

1

保険会社の人と話をしていると、「どんな仕事をしていても、自分の仕事が最終的に顧客の利益につながらなければならない」という思いが強く、それをやりがいとする風土が長年にわたり育まれてきたことが、さまざまな形で伝わってきます。

2

保険会社の体力を知る手がかりとして「ソルベンシー・マージン比率」が広く用いられています。この比率は「保険会社の経営の健全性を示す指標」のひとつで、予測を超えたリスクにどのくらい対応できるか、つまり「保険金支払い余力」がどのくらいあるかを知ることができます。この比率が200%を下回った場合は、監督当局から業務改善命令などが発動されます。

3

国内の生命保険会社には「相互会社」が数多くあります。相互会社とは保険事業にもっともふさわしい形態として明治時代に誕生し、戦後は多くの生命保険会社が相互会社として再スタートしました。顧客を会社の構成員(株式会社でいえば株主)と位置づけ、利益は構成員である顧客に帰属し、重要事項を社員総会(構成員の代表による総会)によって決定するところなどに特徴があります。しかし、近年では「現代の経営環境ではガバナンスの強化や柔軟な経営判断が難しい」として株式会社に転換した会社も見られます。

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わが国の損害保険業界は、合併や統合による再編によって誕生した3つの“メガ損保グループ”が大きなシェアを占める構造になりました。そのほか、独立系や外資系、他業界の会社を親会社とする損害保険会社が活動しています。

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「就活前に学ぶ金融講座・第3章」の[キャリタス就活の視点]も併せて参考にしてください。