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就活前に学ぶ金融講座

第8章

金融業態別に見る現状と課題

わが国の金融ビジネスは、銀行法、証券取引法、保険業法といった「業態ごとに商品内容や取引ルールなどを細かく決めた法律」を軸に、分業体制によって進められてきました。それぞれの金融機関が業態の垣根を越えてテリトリーを広げることは、競争の激化を招くと同時にリスクの増加を意味しますから、信用秩序を維持し、金融システムを安定させるためには業態別の監督・監視が必要でした。 こうした“分業主義”は現在も続いていますが、しかし一方で、時代とともに移り変わる金融のあり方についての要請を受けて“自由化に向けた制度改革”が進められたことにより、業界を区分けしていた垣根は低くなり、かつ業態別の規制も大幅に緩和されました。
現在では、金融持株会社による各業態のグループ化や、子会社形式による他業態の事業運営が広い範囲で認められています。

ここでは、それぞれの金融業態における「事業内容」「課題」「最近の出来事」などを見ていきます。

①銀行・信託銀行

3大業務を基本とする、間接金融の担い手

預金取扱金融機関である「銀行」は、間接金融の担い手としての歴史が長く、暮らしや産業に欠かせない存在として機能しています。わが国で一般に言う「銀行」は、欧米の商業銀行(Commercial Bank)に相当し、メガバンクグループ傘下の大手銀行(都市銀行)、地方銀行、第二地方銀行がこの業務を行っています。また、信託銀行とは上記の「銀行」事業と「信託」事業を併営している金融機関のことです。
銀行は多数の預金者から預かった資金を貸出によって運用し、貸出におけるリスクを負うという伝統的な金融仲介の業務を基本としています。(1)預金業務、(2)貸出業務、(3)為替業務が「銀行の3大業務(固有業務)」であり、「付随業務」として債務保証や手形割引、投資信託の販売などを手がけています。
また、銀行はその規模や営業基盤などから、便宜上「メガバンク」「地方銀行」「信託銀行」に分けて論じられます。メガバンクとは主要な大都市に営業基盤を持ち、全国に店舗ネットワークを持つ大手銀行のことで、メガバンクの中核となっている旧銀行がかつて都市銀行と呼ばれたことから、「都市銀行」と言われたりもします。
地方銀行とは、全国地方銀行協会の会員となっている「地方銀行」と、第二地方銀行協会の会員である「第二地方銀行」を合わせた総称で、地方の大都市や中都市に本店を置き、県内など一定地域を営業基盤としている地域密着型の銀行のことです。米国にならいリージョナル・バンク(Regional Bank)と呼ぶこともあります。
ちなみに、第二地方銀行とは、かつて庶民金融機関として親しまれた無尽会社から発展した相互銀行を前身とする銀行のことで、一般に地方銀行よりも規模が小さく、中小企業の育成に深く関わってきた歴史を持ちます。

理解のツボ① 信託

「信託」とは、委託者、受託者、受益者からなる“信頼の三角形”をベースとした財産管理の仕組みのことです。「信じて託す」ことで成り立つこの仕組みは、「人への信頼」においてわが国とは考え方の異なる西洋でつくられたため、わかりにくい面がありますが、次のように考えれば理解しやすいと思います。
たとえば、戦場に向かう貴族のAさんは、自分が死亡した場合、財産の行方が心配でした。きちんと家族や親族に受け継がれるだろうか、悪い人にダマされて横取りされないだろうかと案じていたのです。そこで、もっとも信頼できる親友のBさんに財産の所有権を移し、そこから生まれるさまざまな利益を自分の希望通りに分配してくれるように頼みました。その後、Aさんの戦死を聞いたBさんはAさんとの約束を守るために私欲を捨て、Aさんの希望通りの承継や長期にわたる利益給付を実現しました。
この場合、委託者はAさん、受託者はBさん、受益者がAさんの家族・親族となります。信託のビジネスはこうした考え方をベースとしたもので、顧客が委託者、信託銀行(信託会社)が受託者、顧客が指名した利益の受け取り先が受益者(顧客本人でもよい)となります。信託の仕組みのポイントは“所有権を移して預ける”ところにありますので、しっかりと押さえておきましょう。
こうした信託の仕組みは不動産、相続、生前贈与などの分野でさまざまな形で商品化されるとともに、投資信託の運用資産を(信託財産として)守る役割も果たしています。

理解のツボ② 為替

「為替(かわせ)」とは現金の受け渡しをせずに銀行を介して支払いを行う仕組みのことです。たとえば、A社がB社に支払いをする際に、A社は現金を運ぶことなく銀行に送金の指示を出すだけで、A社の口座から(B社の取引銀行を経由して)B社の口座に資金が移ります。もちろん、個人と個人、企業と個人でもこうした取引は可能です。資金の移動が国内の場合を「内国為替」、海外との取引および海外から海外への資金の移動を「外国為替」と言います。略して「内為(ないため)」「外為(がいため)」と呼ぶこともあります。銀行は振り込み、送金、外貨両替といった為替業務を行うことで手数料を得ています。また、近年では給与振り込みや公共料金の口座自動振替などを含め広く「決済サービス」とも言います。

新たな融資案件の拡大が課題

銀行は預金として集めた莫大な資金を企業などに貸し出すだけでなく、その一部を国債や社債、リスクの低い投資商品などで運用しています。融資においては国内の資金需要が活発ではないことから、銀行同士の競争が激化して貸出金利が低下する状況が続いています。国債による運用も日銀の金融緩和によって難しい局面へと移りつつあります。 そのため、国債の運用比率が高い地方銀行などは、融資の拡大に努める一方で、投資商品による運用に力を入れ始めました。今後は本業(貸出)以外での運用力の優劣により、銀行間の体力差が広がる可能性があります。 ところで、銀行融資が大きく伸びない理由は2つあります。ひとつは企業などが金融市場からダイレクトに資金を調達する環境が整ったことです。資金調達の多様化に伴い、信用力の高い企業などは銀行融資よりも有利な条件で資金を得ることが可能になりました。

もうひとつは、銀行が融資しやすい案件が増えていないということです。担保力に乏しい事業者や創設して間もない企業、事業の立て直しに取り組む企業などの資金需要は実はかなりあるとされていますが、これまでの銀行の画一的な審査方法ではリスクが大きいと判断され、融資することができません。そのため、大手企業に対しては顧客企業の財務戦略に深く関わり、調達ニーズに合った方法の助言などを通じて、融資案件の発掘・拡大に努めています。
また、新たな融資先の開発においては、画一的な審査方法を離れ、事業の優位性や企業の将来性などを個別に見きわめることによって、融資判断や条件を決める取り組みが進んでいます。なかでも、中堅・中小企業の顧客を数多く持つ地方銀行は、地方創生を視野に入れながら有力中小企業の発掘・育成や、農業など第一次産業の事業化支援に取り組んでいます。最近では円安によるマイナスの影響を受けている企業に低金利で融資する取り組みも見られます。
一方、国際業務を営む銀行としてグローバルな展開を急ぐメガバンクは、プロジェクトファイナンスなど海外案件への融資を拡大しています。リーマン・ショックで深い傷を負わなかったことも、こうした躍進の追い風となりました。業務純益(本業によって稼ぎ出した利益)における海外ビジネスの比率も急増しています。今後は海外の金融機関を買収してグループの傘下に加える動きが加速すると予想されます。

理解のツボ③ 国際業務を営む銀行

世界各国の中央銀行をメンバーとする「国際決済銀行(BIS)」は、国際金融システムの安定を図るために、銀行に自己資本を十分に保有することを求める規制(BIS規制)を定めています。わが国でも国内業務のみを行う銀行(国内基準行)は4%以上、国際業務を行う銀行(国際統一基準行)には8%以上の自己資本比率の維持が求められています。

新たなニーズの取り込みが活発化

リテールビジネスにおいては、「銀行はサービス業である」という意識に基づく顧客サービスの強化が進んでいます。店舗の営業時間延長や週末でも相談できる窓口の開設、同じ銀行内へのインターネット振り込み24時間サービス、駐車場の整備などのほか、預金・投資信託・保険をワンストップで提供するための商品ラインナップの拡充など、さまざまな取り組みが見られます。
メガバンクではグループの証券会社と連携して預かり資産の拡大を目的とした顧客の相互紹介や、銀行と証券会社の人事交流などが進められています。また、海外からの旅行者の増加や東京オリンピックに向けた対応として、国外のキャッシュカードやクレジットカードを利用できるATMの導入なども優先的な取り組みのひとつとされています。

一方、富裕層の顧客を数多く持つ信託銀行は、少子高齢化によって高まる相続や遺言といったニーズに対応する「信託の機能を生かした商品」の開発に力を入れています。また、わが国の個人資産が60歳以上の世帯に偏在していることから、それを若年世代に移しやすくするための商品開発も進めています。生前贈与を目的とした節税にもなる信託商品は富裕層の高い支持を集め、ヒット商品となりました。

地域の企業や中小企業に向けた取り組みにおいては、事業承継や後継者の育成、海外進出サポート、商談会や物産展などの開催を通じた事業支援などが増えつつあります。結婚相手を紹介する会社とのタイアップにより、事業後継者の大都市への流失を食い止めようとするユニークな取り組みも生まれています。従業員の健康増進に熱心な企業やその社員を対象に、事業ローンや住宅ローンの金利を優遇するという新たなチャレンジも見られます。そのほか、地元のスポーツチームの応援につながる金融商品も開発されています。

Point of view

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銀行ビジネスを考える際に、インターネット専業銀行の台頭を無視できません。専業6銀行の預金残高合計は10兆円を超えています。店舗を持たず、為替や決済などのサービスを安価な手数料で提供するネット銀行の今後の動向は、伝統的な銀行ビジネスに大きな影響を与える可能性があります。

2

長い間、経済のインフラを担ってきた銀行には「堅い」というイメージがありますが、今の銀行に求められているものは、既成の枠を超えた新しいチャレンジであり、「顧客から選ばれる」ためのさまざまな取り組みです。「銀行員らしくない」という言葉は、近い将来、死語になってしまうかもしれません。

3

地方銀行と第二地方銀行に業務上の差異はありません。近年はそうした区分を超えた提携や統合が増えてきました。今後は広域連携、経営統合、独立維持の選択を軸に、再編が進むという見方もあります。