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プロの視点

伊藤 元重東京大学名誉教授/学習院大学 国際社会科学部 教授

“ウォーキング・エコノミスト”が語る、
世界経済・日本経済のこれから

<第17回>2017.7.5
日本経済の浮沈の鍵を握る労働市場

賃金上昇の3つの意義

政府は賃金上昇に非常にこだわってきた。政権発足の初期から経済界に対して賃上げを強く求め、賃金上昇を実現することなくして、日本経済を活性化させることは難しいと考えてきたからだ。

賃金上昇は少なくとも3つの意味で、日本経済を活性化させるうえで重要な意味を持つ。

1つは国民の可処分所得の向上。賃金が上昇すれば国民の可処分所得は増え、消費の拡大が期待できる。デフレ脱却によって物価が上昇し始めても、賃金上昇がそれに追いつかなければ国民の実質所得は低下してしまうことになり、こうしたことが起きては、景気回復の芽を摘んでしまう。

2つ目は、物価への影響。物価と賃金は連動して動く傾向が強く、賃金が上昇すれば企業のコストも上がるので、物価への上昇圧力ともなる。日本経済がデフレから脱却して持続的に物価が上昇を続けるためには、賃金が上昇していくことが前提となる。

3つ目は、生産性に関わる点。賃金が上昇すれば、企業は労働生産性をひきあげることが求められる。賃金上昇で人件費が増えるなかで生産性をひきあげることができない企業は淘汰されることになる。

市場圧力と労働市場改革

労働市場改革は、どの国でも経済を活性化させるためには避けて通れない道である。ただ、残念ながらそれは政治的には非常に難しいことだ。解雇規制を緩和することは労働を流動化させることを通じて経済全体を底上げする効果がある。しかし、政府が「解雇規制を緩和する法案」を準備しようとすると、野党はそれを「首切り法案である」と反対する。

日本でも、労働市場改革はなかなか進まない。それだけでなく、賃金を引き上げようとする政府の意図も思い通りにならない。雇用や賃金の安定を前提とした日本的な雇用の下では少し景気が良くなったからといって、企業は大幅に賃金を引き上げることに慎重な姿勢を崩さない。

ただ、ここにきて労働市場や賃金の動きに重要な変化が出てきた。労働市場が非常にタイトになり、多くの企業が深刻な労働力不足を感じ始めている。

日本の労働者の多くは、労使交渉や終身雇用で守られている大企業の労働者ではなく、パートやアルバイトや派遣労働者のような非正規労働者や中小企業の労働者である。彼らや彼女らの賃金は労働市場の状況に非常に敏感であり、非正規労働や中小企業の労働者の賃金が大幅に上昇する動きが顕著になってきた。

政府もこうした動きを重視しているようだ。政治的に難しい労働者市場改革も重要だが、それ以上に効果的で即効性があるのは、この労働市場の圧力を利用したテコ入れだ。昨年、最低賃金が過去最高の上げ幅で引き上げられた。最低賃金が引き上げられると、通常は雇用にマイナスの影響が及ぶが、現在のように労働市場がタイトであるとそうした問題は起こらない。

最低賃金を引き上げれば、それに連動して低賃金労働者の賃金が全般的に引き上げられ、所得格差や賃金格差を是正する上でも非常に有効である。政府は、今年も来年も最低賃金をさらに上げるようにするのではないだろうか。できるだけ早い段階で最低賃金を1,000円の水準に乗せたいと安倍総理も発言している。

労働市場の圧力を利用した労働市場改革でもう1つ興味深いのは、同一労働同一賃金という政府からのメッセージである。同一労働同一賃金というのは好ましいことであるが、二極化が進んだ日本の労働市場では、それと正反対の動きが続いていた。これを是正することが社会的にも好ましいが、非正規労働者などの賃金を決めるのは政府ではなく、企業である。これが市場経済社会の姿だ。

ただ、先見性がある経営者は、足元の労働市場の変化を深刻に受け止めていて、非正規労働者などを低賃金で使い捨てにするような経営は、労働力不足の時代には通用しない。できるだけ不当な賃金格差が生まれないような形で、労働者を大切に扱う経営をしないかぎり、持続性のあるビジネスを展開することは難しい。

ユニクロを展開するファーストリテイリングがアルバイトの社員一部を準正社員の扱いにしたり、ヤマト運輸が賃金上昇に踏み切ったのも、こうした労働市場の流れを受けたものである。こうした形で同一労働同一賃金の流れを企業に浸透させることができるかどうかが、今後の労働市場改革の大きな注目点である。

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Profile

伊藤 元重
Itoh Motoshige

1974年東京大学経済学部卒業。1979年米ロチェスター大学大学院経済博士号取得。専門は国際経済学。東京大学大学院教授を経て2016年4月より学習院大学国際社会科学部教授。6月より東京大学名誉教授。税制調査会委員、復興推進委員会委員長、経済財政諮問会議議員、社会保障制度改革推進会議委員、公正取引委員会独占禁止懇話会会長などの要職を務める。ビジネスの現場で、生きた経済を理論的観点を踏まえて鋭く解き明かす「ウォーキング・エコノミスト」として知られ、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」などメディアでも活躍中。「入門経済学」「ゼミナール国際経済入門」「ビジネス・エコノミクス」「ゼミナール現代経済入門」など著書多数。