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プロの視点

伊藤 元重東京大学名誉教授/学習院大学 国際社会科学部 教授

“ウォーキング・エコノミスト”が語る、
世界経済・日本経済のこれから

<第10回>2016.12.28
シンガポールに学ぶこと

国際人材にとって魅力的なシンガポール

先日、私のゼミに参加した中国人の学生が挨拶に来た。彼女は中国で日本語を集中的に教える高校の卒業生で、東京大学に外国人枠の入試で入り、3年と4年の2年間、私のゼミに参加した。卒業後は5年ほど、東京にある外資系金融機関で働いていた。その間に結婚して、子供もできたようだ。

その彼女がシンガポールで就職したというのだ。それまで勤めていた外資系金融機関の経営が厳しくなり、仕事も面白くないものになってきた。そうした時期に再就職先を探していたら、シンガポールに自分にあった職場が見つかったので、そちらに移ることを決めたという。中国出身のご主人も日本での職を捨てて、シンガポールに同行したようだ。シンガポールであれば、すぐに仕事が見つかるから心配していないと言っていた。

その彼女にシンガポールに移ってどう感じているのか聞いてみた。彼女の答えは、東京はよい街だが、シンガポールに移っていくつかよいことがあったという。1つは税金だ。高級とりなのか、日本では所得への税率が40%であったのが、シンガポールでは20%以下であるという。そして何よりも大きいのは、1ヶ月5万円程度でインドネシア人の家政婦を雇えることだという。4歳と2歳の二人の子供を抱えて仕事を続けるためには、このシンガポールの環境は捨てがたいものだ。

独立時代の悲壮な覚悟

そんな会話を交わしてから2週間ほどあと、シンガポールに出張で来る機会があった。15年ほど前は年に6回ほど来る用事があったが、短期間の会議での出張を除くと、久しぶりに週末のシンガポールをゆっくりと見物する機会に恵まれた。かつては貧しかったシンガポールもいまや一人あたりの所得は日本をはるかに超える水準にあり、この国の変化の速さには目を見張るものがある。

シンガポールの博物館には、1965年にマレーシアから独立せざるをえなかった当時の様子が記された資料や映像が残っている。マレーシアの建国の父であるリー・クアンユー元首相が、涙ながらにマレーシアからの分離を受け入れる映像が残っている。資源もなければ産業もないシンガポールが生き残っていくために、一生懸命に頑張るのだという悲壮な覚悟が、当時の映像からうかがい知ることができる。

地域のハブとして発展

現在のシンガポールが急速な成長を遂げることができたのは、政治家の優れたリーダーシップのたまものである。航空、貨物、金融、人材の地域のハブとして繁栄を確保した。コンテナ取扱量では世界でトップクラスである。ホテルの展望台から見える海には、数え切れないくらいの数の大型コンテナ船が、荷物の積み下ろしを待っている。

シンガポール空港はアジア有数の乗降客を抱える空港で、ここを経由してアジアや中東などへ多くの人が移動する。私の乗った飛行機がシンガポール空港に到着したのは朝の5時台であったが、空港はすでに多くの人で溢れていた。こんな光景は日本では見たことがない。

金融でもシンガポールの成長は凄まじい。アジアでの投資運用の中心は東京ではなく、シンガポールである。この世界では日本人の有能な人材も多いが、その多くが日本を離れてシンガポールで活躍しているという。シンガポールの方が仕事の環境がよいのだろう。

最近は教育の世界でもシンガポールの躍進は目覚ましい。シンガポール国立大学はバイオやITなどの分野で世界的な研究者を高額の給与で引き抜いている。優秀な学生には潤沢な奨学金を出し、大学の評価は着実に高くなっているという。

日本はこの成功体験から学べるのか

資源はない。人口もそれほど多いわけではない。それでもシンガポールをこれだけの繁栄に導いた最大の要因は、グローバル化である。そして、グローバル化のパワーを最大限に活用できるように政策を推進してきたことだ。経済を活性化させるための減税を徹底し、グローバル化を進めるための金融の自由化を進めた。海外の優秀な人材を確保するために動き、同時に労働力不足を解消するため、家事や介護の労働力を近隣に求めた。

経済低迷に苦しむ日本が何をしなくてはいけないか。その答えの多くはシンガポールにあるように思える。問題はそれを実行するだけの覚悟が国民にあるかどうかだ。かつてのシンガポールのように追い詰められなければ、そこまでの決断はできないのだろうか。

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Profile

伊藤 元重
Itoh Motoshige

1974年東京大学経済学部卒業。1979年米ロチェスター大学大学院経済博士号取得。専門は国際経済学。東京大学大学院教授を経て2016年4月より学習院大学国際社会科学部教授。6月より東京大学名誉教授。税制調査会委員、復興推進委員会委員長、経済財政諮問会議議員、社会保障制度改革推進会議委員、公正取引委員会独占禁止懇話会会長などの要職を務める。ビジネスの現場で、生きた経済を理論的観点を踏まえて鋭く解き明かす「ウォーキング・エコノミスト」として知られ、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」などメディアでも活躍中。「入門経済学」「ゼミナール国際経済入門」「ビジネス・エコノミクス」「ゼミナール現代経済入門」など著書多数。