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プロの視点

伊藤 元重東京大学名誉教授/学習院大学 国際社会科学部 教授

“ウォーキング・エコノミスト”が語る、
世界経済・日本経済のこれから

<第7回>2016.10.26
膨大な公的債務をどうやって削減するのか

トマ・ピケティの処方箋

少し前に話題になった本に、フランスの経済学者トマ・ピケティが書いた『21世紀の資本』という本があった。大部で難解な本なのにベストセラーになり話題になった。話題になった本なので、当時学生といっしょにこの本を読んだが、難解な本なので、購入した人の中で半分でも読んだ人はあまりいなかったのではないかと思った。

もっとも、ある人が言っていた。「インテリならピケティの本は読むべきだと考えられていた。ただ、結果的にインテリアにしかならない人が多かったようだ」と。大部の書籍は書棚を飾るにはよかったようだ。

それにしても、この本の最後にはすごいことが書いてある。先進国はどこでも社会保障費などの負担が増えており、政府の債務が大きくなっている。これを縮小していくことが政策の重要な課題となっている。日本がまさにそうなのでそこまではよいのだが、ピケティらしいところは、その処方箋である。

過度な財政健全化は好ましくない?

もっとも好ましくない方法は、増税や歳出削減という財政健全化によって政府の借金を減らしていくことだそうだ。増税や社会保障費削減は人々を苦しめるだけだという。それを長期間続けることは難しいとも書いてある。

これよりも少しましなのは、財政破綻であるという。財政破綻とは、第2次世界大戦直後の日本が経験したような、天文学的な数字のインフレである。そうすれば少しの期間、社会は大混乱になる。ただ、それで政府の借金はなくなり、一般の国民は大きな傷を負わない。資産をたくさん持っている金持ちだけが大損をすることになる。

ピケティがもっとも好ましい方策と指摘するのは、金持ちから重い税金をとって、それで政府の借金を減らしていくというものだ。欧州は日本に比べて、一部の金持ちに資産が集中しているので、そこに重い税金をかけようというのだ。格差問題を正面から取り上げてきた、ピケティらしい処方箋である。



日本に当てはめてみると

ピケティの処方箋は、日本で通用するだろうか。彼の指摘には日本に適用できる部分もあるが、難しいところもある。

まず、金持ちにもっと税金をかけて、それで政府の借金を減らすことは可能だろうか。日本には欧州のように大金持ちは少ない。1000兆円を超える債務を半減するためには、金融資産を2000万円程度もっている小金持ちに税金をかけることになる。しかしそうした小金持ちの人たちは、まじめにこつこつ老後のために貯めてきた高齢者であり、そこから巨額の税金をとるのは現実的ではない。これらの人が亡くなった時、相続税を重くするということは考えられる。ただ、すでに重い日本の相続税をさらに重くすることが現実的に可能なのだろうか。

それではピケティが最悪と言った、増税と歳出削減で公的債務を減らすというのはどうだろうか。結論から言えば、これも難しい。ある程度の増税や歳出抑制は必要だ。現時点でまだ財政赤字が出ていること、高齢化はさらに進むことを考えれば、消費税率をあげるなどの対応は必要だろう。

ただ、それで財政黒字を出すのは簡単なことではない。詳しい試算にまで踏み込むことはできないが、10兆円の財政黒字を出しても、1000兆円の債務を半分にするのに50年もかかる。しかも、その間厳しい税負担と歳出抑制が続くことになる。政治的にもたないだろう。

日本の債務を減らすにはインフレ化が必要?

そこで最後に残ったのが、インフレという道だ。ピケティがいうような財政破綻と同義のハイパーインフレではなく、数パーセントの穏やかなインフレだ。ただし、大前提として財政赤字はなくす必要がある。そのための歳出抑制も増税も必要だろう。ただ、財政黒字を出すほどまでに財政をしめなくてもよい。赤字さえなくなれば、債務がさらに増えることにはならない。

その上で2%から3%のインフレが続くとしてみよう。成長率がどの程度であるかにもよるが、物価上昇を織り込んだ名目GDPが3%で増えれば、現在500兆円のGDPは、30年後にはおおよそ1250兆円となる。1000兆円の債務が増えなければ、債務のGDPに対する比率は200%から85%程度にまで下がることになる。

そうは言っても、インフレ化が進めば、個人の資産や所得の価値が相対的に下がっていくことになる。ほんとうにそうしたインフレになるかどうかは分からないが、若い人にはあえて言っておきたい。「5年後、10年後のインフレには注意しよう」と。

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Profile

伊藤 元重
Itoh Motoshige

1974年東京大学経済学部卒業。1979年米ロチェスター大学大学院経済博士号取得。専門は国際経済学。東京大学大学院教授を経て2016年4月より学習院大学国際社会科学部教授。6月より東京大学名誉教授。税制調査会委員、復興推進委員会委員長、経済財政諮問会議議員、社会保障制度改革推進会議委員、公正取引委員会独占禁止懇話会会長などの要職を務める。ビジネスの現場で、生きた経済を理論的観点を踏まえて鋭く解き明かす「ウォーキング・エコノミスト」として知られ、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」などメディアでも活躍中。「入門経済学」「ゼミナール国際経済入門」「ビジネス・エコノミクス」「ゼミナール現代経済入門」など著書多数。