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プロの視点

伊藤 元重東京大学名誉教授/学習院大学 国際社会科学部 教授

“ウォーキング・エコノミスト”が語る、
世界経済・日本経済のこれから

<第5回>2016.09.28
資産運用と人生設計

若者にこそ関心を持ってほしい

職業柄、資産運用のセミナーで講演を依頼されることがある。資産運用の手法について話すというよりも、マクロ経済の見通しについての話を依頼される。そうしたセミナーでは、聴衆の多くはシニアの方々である。シニアの方のほうが資産を持っているので当然ではある。ただ、もっと若い人に来てもらえればと常々思っている。資産運用の人生への影響という意味では、若い人への影響のほうが大きいからだ。

なぜ、たいした資産も持っていない多くの若者にとって、資産運用に関心を持つことが重要なのだろうか。その最大のポイントは、資産運用はその期間が長くなるほど、運用の巧拙の結果が大きな意味を持つからだ。私の学生にときどき言っていることだが、資産運用についてきちっと考えているか否かは、その人の人生に多大な影響を及ぼす。

どれだけの資産が貯まるのか

お金の計算で申し訳ないが、少し具体的な数字で考えてみたい。若者がこれから30年間働き続けて、毎年一定の金額を貯蓄することを考えてほしい。毎年10万円でも、100万円でもよいので、その金額を積み上げていき、それに利子がつくという計算だ。それで30年後にどれだけの貯蓄が貯まっているのかを計算しようというのだ。

手元の電卓を使って計算したので、概算しかできなかったが、それでも正確な計算結果とそれほど違わない結果になるだろう。金利(利回り)が0.1%、1%、3%、5%、10%で回したとき、それぞれ30年後にはいくらになっているのかという計算だ。

0.1%という利子は非常に低いように見えるが、いま預貯金に預けても、その程度の利子しか得られない。この低金利ではほとんど利子はつかない。毎年100万円貯蓄しても、30年後には3,000万円にしかなっていない。

それでは1%ならどうだろうか。毎年100万円ずつ30年間貯蓄し続ければ、金利分を合わせて3,513万円になることが分かる。0.1%と1%ではたいした違いがないように思えるが、30年後には500万円の違いとなっている。金利が複利で増えていく法則があるため、30年という長い人生で見れば、最終的には大きな違いとなって出てくる。

ついでに金利をもう少し上げて、3%、5%、10%で計算してみよう。3%なら4,930万円、5%なら6,800万円、10%なら1億8,130万円になることが分かる。具体的な金額についてどうこうということはないが、金利が上昇するにつれて、資産運用の成果としての老後資金が急速に増えることが分かるはずだ。

わずかな利回りの差が大きな違いに

いまの普通預金の金利に近い0.1%の金利では、30年貯蓄を続けていても、30年分しか貯まらない。それが1%の金利になるだけで、30年で35年分が貯まることが分かる。利子だけで5年分稼げるのだ。5%なら、30年の貯蓄で68年分となる。つまり、30年の貯蓄で、利子だけで38年分稼げることになる。

誤解がないようにしたいが、より高い利子を求めればよいということではない。高い運用益を上げようとすれば、それだけリスクの高い資産に投資しなくてはいけない。過度なリスクは好ましくない。リスクとリターンはトレードオフの関係にある。ただ、リターンを気にしないでゼロ金利に近い預貯金だけに甘んじるのも、あまりに思慮がない人生設計であるように思える。

これから社会人になろうという若い皆さんは、資産運用も人生設計の重要な部分であるということを認識してほしい。お金のことを話すのははしたないという人もいるが、自分の人生を、そして将来の伴侶や家族の生活を守るためにも、資産運用に関心を持ってもらいたいものだ。また、自身で資産運用することで、金融市場や経済に対する意識や感度も高くなるので、金融に対する知識を増やすために考えてみるのもいいだろう。

Profile

伊藤 元重
Itoh Motoshige

1974年東京大学経済学部卒業。1979年米ロチェスター大学大学院経済博士号取得。専門は国際経済学。東京大学大学院教授を経て2016年4月より学習院大学国際社会科学部教授。6月より東京大学名誉教授。税制調査会委員、復興推進委員会委員長、経済財政諮問会議議員、社会保障制度改革推進会議委員、公正取引委員会独占禁止懇話会会長などの要職を務める。ビジネスの現場で、生きた経済を理論的観点を踏まえて鋭く解き明かす「ウォーキング・エコノミスト」として知られ、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」などメディアでも活躍中。「入門経済学」「ゼミナール国際経済入門」「ビジネス・エコノミクス」「ゼミナール現代経済入門」など著書多数。