企業によるSDGsへの取り組み──社会とビジネスのシナジー【第2回:事例編】
業界・職種・企業研究公開日:2023.08.22
こんにちは。キャリアコンサルタントの加藤田です。前回の記事では、【第1回:基本編】として、SDGsをはじめとするそれぞれの用語の説明や特徴、企業がSDGsに積極的に取り組む理由を解説しました。今回は、SDGsへ積極的に取り組む企業の事例をご紹介していきます。様々な取り組みを理解することで、サステナブルな社会に必要とされる企業の在り方や働き方の変革など、企業理解につながります。
持続可能な開発目標に向けた活動はビジネスの成長と密接な関係にある
持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みは、単なる社会貢献活動ではありません。長期的な視野に立って未来を見据えた、企業の生存戦略でもあります。
私たちが生きている時代はVUCAの時代と言われています。VUCAとは「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」を意味します。変化の激しい不確実な時代において、現状維持といった考え方では企業は淘汰されていきかねません。ということは、変化に対応しながら新しいビジネスを創り出していくことがどの企業にも求められているということです。
近年、グローバルな投資家は投資先企業における選定基準の1つとしてESG(環境・社会・ガバナンス)を重視しています。また、消費者は自分が購入する商品や利用するサービスがSDGsに貢献しているかをますます重視するようになっています。SDGsに取り組むことは、新しいビジネスの創出と同時に経営リスクの回避でもあります。
企業の経営は、そもそも10年先、20年先といった長期的な視点で方向性を考えていくことが重要です。何十年も先の遠い未来を予測することは難しいですが、気候変動や人権、貧困問題といった世界的かつ長期的な社会課題は顕在化しています。これが【第1回:基礎編】でお伝えした「世界規模で捉えられている課題」、SDGsです。SDGsの市場規模は2017年時点で3,500兆円以上*と言われています。
これらの課題に取り組み、ビジネスチャンスにしていくことは、企業の長期的な成長につながります。
*出典:デロイトトーマツ「SDGsビジネスの市場規模」(2017)
ステークホルダーと共に進むSDGs:持続可能なビジネス事例の紹介
SDGsへの取り組みは、ステークホルダーとの信頼関係の構築につながります。ステークホルダーとは、企業や組織を取り巻く利害関係者を指し、顧客(消費者)、取引先、社員やその家族、株主、地域社会、行政、地球など幅広く挙げられます。多様なステークホルダーからの期待や要請に応える、或いは一緒に取り組んでいる、企業のサステナビリティ活動事例をご紹介していきます。
株式会社バンダイ/株式会社BANDAI SPIRITS:SDGs
両社は、2023年にサステナビリティプロジェクト『未来・クリエイション』をスタートしています。
これまでもリサイクルプロジェクトなど環境への取り組みを行ってきましたが、サステナビリティへの取り組みをさらに強化するため、新たなプロジェクトを開始、大きな3つの目標を定めています。
主な新しい取り組みには、「CO₂排出量削減に向けたグリーン電力の導入」、「『トーマス・エジソン特別展』の開設」、「キッザニア東京へのパビリオン出展」があります。
CO₂排出量の取り組みでは、バンダイ本社は2023年よりグリーン電力を導入、CO₂排出量の実質ゼロを達成しています。BANDAI SPIRITS のプラモデル生産工場「バンダイホビーセンター」では、グリーン電力と太陽光パネル導入により、CO₂排出量が実質ゼロとなっています。
また、「『トーマス・エジソン特別展』の開設」や「キッザニア東京へのパビリオン出展」といった
取り組みでは、未来を担う子どもたちに、展示を通して新しい発想や想像力を育んでもらったり、仕
事体験を通じてサステナビリティへの関心をもってもらう機会づくりをしています。
バンダイナムコホールディングスは、2022年度にスタートしたグループ中期経営計画で『Connect with Fans』というビジョンを掲げており、ビジョン実現のための重点戦略である「事業戦略・人材戦略・サステナビリティ」をもとに、グループ各社は具体的な活動を推進しています。
株式会社資生堂:サーキュラーエコノミー
資生堂は、2030年に向け「美の力を通じて“人々が幸福を実感できる”サステナブルな社会の実現」を目指し、環境・社会領域でそれぞれ活動を推進しています。
「環境」領域では、「地球環境の負荷軽減・サステナブルな製品開発・サステナブルで責任ある調達の推進」を戦略アクションとして定めています。地球環境の負荷軽減では、CO₂排出量削減を目指し、工場の生産工程見直しや高効率設備の導入によるエネルギー効率の向上、再生可能エネルギー利用を実施しています。また、サステナブルな製品開発では、「サーキュラーエコノミー(※) 」実現を目指し、2022年にプラスチック製化粧品容器のリサイクルで積水化学工業および住友化学との協業を開始しました。
3社が互いの強みを生かし、容器の回収から再生までの新たな仕組みを構築する、企業の垣根を超えた連携で新しい循環モデルへの取り組みを進めています。そして、サステナブルで責任ある調達の推進では、パーム油や紙をサステナブルなものへ切替えを実施、紙では2022年実績で97%切替えを完了しています。
※サーキュラーエコノミー:「循環型経済」。経済活動の中で廃棄されていた製品や原材料などを「資源」と考え、リサイクルや再利用などで活用し資源を循環させる、新しい経済システム。
「社会」領域では、「ジェンダー平等・美の力によるエンパワーメント・人権尊重の推進」を戦略アクションとして定めています。日本国内では、ワークライフバランス支援、メンタリングや女性リーダー育成プログラムなど、女性活躍推進に向けて取り組んでいます。また、グローバルでは、女子教育支援や経済的自立支援に取り組んでいます。さらに、美の力を通じて様々な悩みや困難を抱える人のウェルビーイングを実現する活動や、がんとの共生を目指したがんサバイバー支援を強化しています。
NHK(日本放送協会):再生可能エネルギー
NHKは、放送サービス業として、放送やイベントなどを通じて視聴者に環境経営に関する情報発信をすると同時に、自らも「NHK環境経営アクションプラン」を推進しています。
二酸化炭素等の削減に向けた取り組みでは、エネルギーを「減らす・選ぶ・作る」として、職場の使用電力削減、再生可能エネルギーの利用による二酸化炭素排出量の削減、全国の放送センターにおける太陽光発電を取り入れた自ら使用電力を作る取り組みを強化しています。
これらの取り組みにより、2025年度末までに、東京・渋谷放送センターの電力使用による二酸化炭素排出量相当分ゼロ、2050年までにNHK全体で温室効果ガス排出ゼロ実現を目指しています。
番組制作においても、美術セットや小道具の再生可能な素材の探求や効率的な構造開発、制作過程で生まれる廃材をできる限り減らすための3つの“R”「Reduce(ごみを減らす)」「Reuse(繰り返し使う)」「Recycle(廃材をリサイクルする)」など、環境に配慮した活動を進めています。
江崎グリコ:サステナブルフード
Glicoグループは、「食品を通じて、人々の健康の役に立ちたい」という創業の想いを受け継ぎ、お客様の「すこやかな毎日、ゆたかな人生」の実現を目指しています。2021年には『Glicoグループ環境ビジョン2050』を策定し、「気候変動への対応・温室効果ガスの削減」「持続可能な水資源の活用」「持続可能な容器包装資源の活用」「食品廃棄物の削減」の重要課題にさらに取り組んでいます。
サステナブルフードとは、「環境や社会に配慮した持続可能な食品」を意味し、自然環境に配慮された食品や、生産者の人権や生活に配慮した食品なども当てはまります。
例えば、消費されなかった「余剰いちご」を有効活用した製品を販売することで、食品ロス削減を通し生産者の生活に貢献しています。また、自社では、製造工程での廃棄物削減、需給予測の精度向上による過剰在庫を持たない仕組みづくり、サプライチェーンの効率化、微細な欠けなど品質に問題のない商品の「ふぞろい品」としてのアウトレット販売など、あらゆる過程での食品ロス軽減に取り組んでいます。さらに、保存や持ち運びのほか備蓄面でも優れた「乳児用液体ミルク」を日本で初めて製品化し、子育ての多様性をサポートしています。
このように、多様な社会や環境に配慮しながら、「おいしさと健康」を両立させた商品で、あらゆる世代や国の人たちの「食を通じた生活づくり」に貢献しています。
ここまで、いくつかの事例をご紹介しました。SDGs取り組みにおける重要課題は、多くの企業が自社のパーパス(※)やミッション、ビジョンをもとに、多様なステークホルダーからの期待や要請などを様々な視点で社会課題を抽出し、自社事業との関連性や重要性を検討して特定しています。
つまり、SDGsへの取り組みは、自社の企業理念に基づいた、「ステークホルダーと信頼関係を構築するための共通言語、共通認識である」といえます。
※パーパス:ビジネスにおいて、企業や組織の「存在意義」を意味する言葉。
SDGs×ビジネスの親和性 ─ 解決策への取り組みが企業の成長につながる
SDGsへの取り組みは、多くの企業が経営上の重要な戦略と位置付けています。社会課題への取り組みに対し、コストではなくビジネスチャンスと捉えて解決策を模索することは、ビジネスにおけるイノベーションの促進、企業イメージ向上への寄与、ひいては長期的な企業価値最大化の源泉になります。
同時に、SDGsの達成は国際社会や投資家からの期待や要請でもあり、大規模な資源や影響力を持っている企業の活躍が欠かせません。SDGsはビジネスと親和性が高く、企業の持続的な成長への道しるべといえます。
今回は、SDGsへ積極的に取り組む企業の事例をご紹介しました。
SDGsへの取り組みは、サステナブルな社会に必要とされる企業の在り方、経営の方向性、働き方の変革などを理解する助けにもなります。志望企業の研究や業界理解につながるため、ぜひいろいろな企業を調べてみてくださいね。
\大手・有名企業のサステナビリティな取り組みをキャリタス就活が徹底取材/
PROFILE
加藤田綾子(2級キャリアコンサルティング技能士・キャリアコンサルタント)
新卒で野村證券株式会社に入社、国内リテール部門で営業に従事する。その後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社(旧:東京三菱証券)に入社。投資銀行部門で、主にカバレッジバンカーとして上場企業の資金調達やアドバイザリーなど資本政策案件に携わる。現在は独立し、企業研修、大学での就職支援講座や非常勤講師として授業も行う。カウンセリング実績は9,000人以上。米Gallup社認定ストレングスコーチ、一社)アンコンシャス・バイアス研究所認定トレーナー、日本コミュニケーション能力認定協会本部トレーナー。