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大井 幸子国際金融アナリスト

ウォール街を知る国際金融アナリスト・大井幸子が語る、国際金融市場の仕組みと動向

<第10回>2017.2.8
経済と金融 資本主義の本質について

経済学は他国に先駆けて産業革命を達成した英国を背景に、アダム・スミス(※1)から始まる新しい学問です。そして、資本主義経済を支えるお金の流れという意味で、金融論もまた新しい学問です。18世紀から21世紀の今日、グローバル化の時代まで資本主義がいかに諸国に波及し富を生み出し、そして世界に拡大していったかを考えると、目を見張るものがあります。

ところが、トランプ新政権は「米国第一主義」を掲げ、反グローバリズム、保護主義的な貿易通商政策に傾き、あたかも過去300年にわたる資本主義の歴史を逆行するようにもみえます。その要因は何かといえば、あまりにも拡大した貧富の格差ではないでしょうか。世界の上位8人の超富裕層が保有する資産総額が人類の下位半分の35億人分の資産総額とほぼ同じだと言われています。

このように、グローバル化がほんの一部の富裕層を益々富まし、所得格差を際限なく拡大するならば、資本主義経済が基盤としてきた「中間的生産者層」がいなくなり、民主的な政治体制も成り立たなくなります。カール・マルクス(※2)が預言したように、「一握りの巨大資本家」と「生産手段を持たないプロレタリアート(労働者階級)」に両極分解し、階級闘争が革命を引き起こすことになります。

こうなると、資本主義を前提とした「市民社会」という共同体が壊れてしまいます。アダム・スミスが「国富論」と「道徳情操論」をワンセットにして論じたように、資本主義は市民社会のエートスを共有する人々が経済活動をすることで成り立っているのです。このまま巨大なグローバル金融資本主義が世界を覆い、富の独占が進めば、さらに、国家という枠組みが巨大な金融資本と結びつき、個人の自由(「良心の自由」やプライバシー)を侵害する事態が起こります。

人々はこうした現状を変えたいと願いますが、複雑な世界経済の状況下でどうしたら生活が良くなるのか見当がつかず、先行きに不安を感じています。そうした恐怖心につけこむのが、自国第一主義やナショナリズムといったプロパガンダです。今年はドイツ、フランスで国政選挙があり、政治体制の変化が欧州経済や金融に多大な影響を与えそうです。

金融市場は単に株や債券、通貨の取引所ではなく、そのウラには政治的枠組みや国際関係の秩序等に支えられています。前回の連載『人を助ける金融とは―貧困からの解放に向けて』では、貧民救済のための金融の仕組みについて述べましたが、最終回は地球規模で、経済・金融が人類をどう救済できるのかについて記しておきたいと思います。



市民社会を支える基盤としての経済には、「公共の富」(common wealth)という概念があります。市民は一定の倫理道徳心(common sense)を共通認識しており、社会全体の福祉向上に向けて「公共の富」を共有します。そして、「公共に反する富」(wealth against common wealth)には断固反対します。具体的には、市民的共同体にとって弊害となる麻薬や売春、武器取引など、道徳に反する経済活動による富を反社会的と見なします。

一方、歴史的に見て、地域経済としての資本主義が国民経済となり、さらにグローバル化し、国際貿易や金融取引が活発化し、さらに一国の経済的繁栄に対して周辺国が競争を挑むようになるにつれ、資本主義が域内の「良心の自由」を超えて、「エゴイズムの自由(野獣的自由)」と解釈されるようになりました。そうしないと過酷な競争に勝利し、生き残れないという理由もあります。

特に金融市場では、自己の欲望を満たすためにはどんな過激な行動も辞さないという「アニマルスピリット」が蔓延し、特権的な大手投資銀行や金融資本家が自分たちは「強欲資本主義」のゲームで自分の欲望を満たすためには何をしてもかまわないという傲慢な考え(野獣的自由)であくなき利益を追求していきます。これが度を過ぎると、リーマンショックのような金融危機が引き起こされることになり、体制そのものに大きなほころびが生じます。

また、資本主義の原型である株式会社の発生には、「互いにリスクを取る」という発想があります。大航海時代に英国やオランダが東インド会社に乗り出しとき、リスクマネー(資本)を出資し、その割合に応じてリターンを分けるという発想です。この場合、リスクをどこまで取るのかについて自己資本であれば、それなりに合理的なコントロールが効くはずです。しかし、他人資本であれば、リスクを取って損しても人のカネ、儲かれば自分のカネとなり、モラルハザードが生じます。「エゴイズムの自由」が拡大する理由はここにあるのです。

このように、資本主義の本質には、果敢にリスクを取りに行くことと、「公共の富」を守るという、相反するような二つの規範が内在しています。「エゴイズムの自由」に歯止めをかけるのが「良心の自由」です。21世紀の政治体制が「公共の富、公共の福祉」を見失えば、経済も金融も300年前までさかのぼって、資本主義の原点見直す必要がありそうです。

※1 アダム・スミス(Adam Smith)はイギリスの経済学者。経済学の父と呼ばれ、近代経済学の始まりの人である。主著は「国富論(諸国民の富の性質と原因の研究)」、「道徳感情論(道徳情操論)」がある。

※2 カール・ハインリヒ・マルクス(Karl Heinrich Marx)はドイツの思想家・経済学者。フリードヒ・エンゲルスとともに包括的な世界観及び革命思想として科学的社会主義(マルクス主義)を打ちたて、資本主義の高度な発展により共産主義社会が到来する必然性を説いた。資本主義社会の研究をライフワークとし、主著「資本論」に結実。その理論に依拠した経済学体系はマルクス経済学と呼ばれる。

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Profile

大井 幸子
Sachiko Ohi

1981年慶應大学法学部政治学科卒。85年からフルブライト奨学生としてスミス・カレッジ、ジョンズ・ホプキンズ大学院高等国際問題研究所に留学。87年慶應大学大学院経済学研究科博士課程終了後、明治生命保険国際投資部勤務。89年格付け機関ムーディーズへ転職。以降、リーマン・ブラザーズ、キダー・ピーボディにて債券調査・営業を担当。2001年SAIL,LLCをニューヨークに設立、ヘッジファンドを中心としたオルタナティブ投資に関して、日本の機関投資家向けにコンサルティング、情報提供を行う。2007年スイス大手プライベート・バンクUnion Bancaire Privee (UBP)東京支店、営業戦略取締役。2009年東京にてSAIL社の活動を再開。日米の金融、政治経済面で幅広い人脈を持ち、国際金融アナリストとして活躍中。