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大井 幸子国際金融アナリスト

ウォール街を知る国際金融アナリスト・大井幸子が語る、国際金融市場の仕組みと動向

<第5回>2016.11.16
金融サービス業のあり方

ある自動車メーカーの方とお話する機会がありました。「車は大変ですよ。少しでも欠陥があって消費者に被害が及べば製造物責任(PL)法で訴えられますからね。それに比べて金融はいいですね。投資に失敗しても投資家責任です。もともと欠陥商品を作って販売したって投資家には分からないでしょうからね。」



金融サービス業に携わる者として、この種の苦言は正直、耳が痛いです。たしかにモノづくりに携わる方々にとって、欠陥商品はお客様の命に関わります。ブレーキが不具合だという理由でメーカーは何十万台もリコールされ、また、エアバック・メーカーは米国で集団訴訟を起こされ、数億ドルもの制裁金を科されるなど、消費者や監督局からは常に厳しいチェックを受けています。



メーカー(生産者)は一般消費者よりも圧倒的な情報を持ち、強い立場にあります。だからこそ、消費社会ではお金を払ってサービスを買う人の立場こそ最も尊重されるべきです。



しかしながら、命の次に大事なお金については「損をしても投資家責任」が基本です。金融商品を作って売るいわゆるメーカー(セルサイド)はリスクを開示し、説明を徹底して行うよう監督局から指導されていますし、もちろん損失補填は違法です。しかし、日本の金融サービス業においては、販売側(セルサイド)と金融商品に投資し、運用する投資家(バイサイド)の間には情報の格差があります。特に個人投資家において、その格差は圧倒的です。



一般に、セルサイドは利幅の高い商品を販売し、売上を伸ばしたいと考えます。自分のニーズに見合う商品を買いたい投資家と販売手数料で収益を上げたいセルサイドの間には、常に利益相反があります。しかも、情報弱者である個人投資家は不利な立場におかれます。

私は20年近く米国の金融界で働きましたが、日本の資本市場とは大きな違いがあります。米国は資本家(Capitalist)を尊重する市場システムです。自らの判断でリスクを取って自己資金を投下し、運用する投資家のための資本市場であり、セルサイドも規制当局も投資家のために奉仕(Serve)する役目があるのです。

日本では敗戦後、復興のための資本が枯渇し、資金繰りには大変苦しい思いをしました。当時の大蔵省(現財務省)は過小資本・資源をいかに有効活用するか苦心しました。そのため、規制当局は限られた予算を配分するという強い権限を持つようになりました。大蔵省は「護送船団」方式で金融機関を保護すると同時に監督下に置き、資本市場をコントロールしてきました。

こうした体制は日本経済が国際競争力を取り戻すためには必要な措置でしたが、日本が高度成長を遂げると、米国との貿易摩擦が問題となり、1980年代半ばからは日本に金融市場の国際化が求められました。プラザ合意以降、日本はバブル経済へと突入して行きました。1989年に日経平均はピークを打ち、バブル崩壊後は株式市場も厳しい状況が続きました。



2013年アベノミクス効果で、株式市場も少し活気を取り戻しました。これからは少子高齢化で労働人口が減り、年金生活者が増えることから、今あるお金を守り、増やしながら賢い運用を心がける投資家が増えることと思います。そうした日本の投資家のニーズに応えるために、私は「投資家のための、投資家による、投資家の資産保全」を日本で実現すべく、投資助言業者としてポートフォリオ・アドバイスという新事業を展開することを決心しました。

ところが、2年ほど前に投資助言代理業者の登録を金融庁関東財務局に申請に行った際、担当者に「助言業務は投資家から助言料をとりますが、日本では投資家はフィーを払いませんよ」と言われました。セルサイドからタダの情報があるのだから、敢えて手数料を払ってまで投資アドバイスを受けないのが現状だというのです。つまり「あなたの商売は成り立ちませんよ」という意味なのです。



米国で、私はヘッジファンドに投資するファミリー・オフィスや財団基金とも親しくしてきました。彼らの側には、必ず優れたゲートキーパーとも呼ばれ、投資家の立場に立って資産運用・保全に関する助言する専門家がいます。こうしたプロが顧客の運用ポートフォリオにふさわしい金融商品を選別しています。そうしないと、投資家はおつきあいやしがらみで証券会社からいろいろな商品を買わされ、自身のポートフォリオは自律性を失い、いつのまにか損失が膨らんでしまうのです。

日本でも事業を興し、成功する人はたくさんいます。問題はその先です。一代で築いた富を持続させるためには、独立・中立の立場から、ホンモノの情報、教育、分析などきちんとした資産保全サポートが必要です。米国ではバイサイドための優れたサービスがあります。富裕層でなくてもある程度の収入のある人は、普通にフィナンシャル・プランナー(FP)を雇い、ホームドクターのように定期的に接してはポートフォリオの入れ替えや保険商品などの相談をしています。



一方日本では、投資顧問やファイナンシャル・プランナーなどを個人で雇う方は富裕層の一部にいる程度でまだまだ一般的ではありません。

しかし、超低金利時代が続く日本で資産を増やしていくためには、投資家自身が投資についてしっかり学んで金融リテラシーを高め、必要な部分はアドバイザーやファイナンシャル・プランナーといったプロを賢く使うことが重要になります。金融業界には、投資家向けの良質な情報提供やサービス提供が求められます。これからの金融業界を志す皆さんは、セルサイドだけではなく、バイサイドの立場でサービスやマーケットを見る力を養っておくことが重要です。

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Profile

大井 幸子
Sachiko Ohi

1981年慶應大学法学部政治学科卒。85年からフルブライト奨学生としてスミス・カレッジ、ジョンズ・ホプキンズ大学院高等国際問題研究所に留学。87年慶應大学大学院経済学研究科博士課程終了後、明治生命保険国際投資部勤務。89年格付け機関ムーディーズへ転職。以降、リーマン・ブラザーズ、キダー・ピーボディにて債券調査・営業を担当。2001年SAIL,LLCをニューヨークに設立、ヘッジファンドを中心としたオルタナティブ投資に関して、日本の機関投資家向けにコンサルティング、情報提供を行う。2007年スイス大手プライベート・バンクUnion Bancaire Privee (UBP)東京支店、営業戦略取締役。2009年東京にてSAIL社の活動を再開。日米の金融、政治経済面で幅広い人脈を持ち、国際金融アナリストとして活躍中。