【薬学生】業界の最新動向を学ぼう|病院
業界・職種・企業研究公開日:2024.02.26
薬学系の学生が活躍できる業界は、製薬会社をはじめ多岐にわたります。医薬品の需要増加に伴い市場が拡大しているドラッグストアや調剤薬局、ここ10年ほどで急激に成長しているCRO・SMO業界など、幅広い選択肢があるといえます。 各業界の動向や今後の動きについて研究し、まずは視野を広げていきましょう。
わが国の医療費は45兆円を突破
団塊の世代が75歳を超える2025年、4人に1人が超高齢者となり、その人口は2,200万人にのぼります。さらにその後2040年まで高齢者の人口が増え続け、65歳以上の人口は35.3%に達すると推測されています。こうした高齢化という社会的な事情を背景に、慢性疾患や合併症を抱える高齢の患者さんが増加することから、医療へのニーズが高まっています。
それでは、医療ニーズに応えるための受け皿となる医療施設や介護施設の受け入れ体制はどうなっているのでしょうか。
厚生労働省が調査した「医療施設調査」によると、2021年10月における全国の医療施設は前年度から1,672施設増加の180,396施設。また、地域包括ケアシステムのもと、住み慣れた土地で療養を続けるための医療・介護・予防・生活支援が一体となった仕組みづくりが進められており、その一環で各地域における介護施設などが増設されています。
このように、医療施設や介護施設の数が増え、受け入れ準備が整いつつあるようにみえますが、現状のペースだと、将来、患者さんの受け入れ先が不足することが懸念されています。
事実、先述した新たに開業した施設数をみると、医療施設数は1,672施設増設と、順調に増えているように思えますが、内訳をみてみると、無床の一般診療所が1,814施設新設されたのに対し、入院施設のある有床の一般診療所は134施設、病院は33施設閉鎖しています。
普段は地域で療養をしている高齢者が、急に症状が悪化しても、いざというときに受け入れてもらえる医療施設が、まだ十分に整っているとは言えない状況です。
さらに、現在、病院をはじめとする医療業界を悩ませているもう1つの問題があります。膨らみ続けている医療費です。高齢化により1人当たりの医療費の高いさまざまな疾患を抱えた高齢者が増加していることや、医学の進歩に伴い、新しく開発された技術や新薬の使用にかかる高額な費用が医療費増加の一角を占めているとされています。
こうしたさまざまな原因が重なり合った結果、わが国の医療費は年々増加。厚生労働省の報告によると2021年度の医療費は45兆円とされています。今後の高齢化の進展による医療費の増加をいかに抑えるかが課題となっています。
病院や一般診療所に就職する薬学生は約5人に1人
厚生労働省が発表した「令和2年(2020年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、病院や一般診療所に勤務している薬剤師数は61,603人と報告されており、2018年に比べ1,647人(2.7%)増加しています。
今後、病院や一般診療所で医療従事者不足が続くことを受け、需要の高まりが予想される薬剤師ですが、病院や一般診療所において多岐にわたる業務を担っています。
まずは調剤業務です。病院や一般診療所では、外来患者さんに渡す薬を調剤する「外来調剤」と、入院患者さんに渡す薬を調剤する「入院調剤」の双方を担っています。
病院内で使用される製剤を院内で調製する「製剤業務」では、①市販薬では十分な効果が得られない場合、②市販されている剤形では治療に用いるのが困難な場合など、患者さん個々のニーズに合わせた製剤の調整を行います。また、「注射薬混合調製業務」では、抗がん剤、高カロリー輸液や、末梢静脈に使用する注射薬をクリーンベンチや安全キャビネットのなかで調製します。
医薬品を安全かつ適正に使用するための情報収集・管理してわかりやすく伝えるための加工などを行う「DI(Drug Information)業務」も欠かせない仕事です。DI業務で扱う情報には、医薬品の副作用、相互作用、投与方法、投与量などがあります。情報は、製薬メーカーから提供されるもののほか、書籍や文献などからも検索し、収集します。病院内で発生した副作用情報なども収集・蓄積されます。必要に応じて、病院内で発生した安全性に関わる情報を厚生労働省に報告する場合もあります。
また、勤務する施設が治験実施施設だった場合には、「治験業務」も行います。治験業務では、治験薬を適正に保管・管理するのはもちろんのこと、治験薬が計画書通りに投与されているかどうかのチェックも行います。ときには治験コーディネーターとして治験を円滑に進めるための支援業務を行うこともあります。
これからの薬剤師には、薬薬連携や多職種連携などの「連携」のなかで、専門性を発揮することが必須
現在、わが国では厚生労働省が掲げる地域包括ケアのもと、誰もが住み慣れた地域で最期まで暮らせるための仕組みづくりが急ピッチで進められていますが、特別養護老人ホームなどのいわゆるハコモノの増設の勢いに対し、働く人材の補給が追いついておらず、さらに薬剤師を含む医療従事者などの人材育成が急務とされています。
これからも質の高い医療を提供し続けるため、そして地域医療を支えるチームの一員として、今後の薬剤師に求められることはどのようなことでしょうか。それは、これからさらに進むであろう介護サービス施設などとの多職種連携や、保険薬局との薬薬連携で職能を十分に発揮できるよう、自分ならではの専門性を極めて専門薬剤師や認定薬剤師を目指す積極性や知識欲をもつことです。
現在、日本病院薬剤師会が認定する専門薬剤師は9種類あります。「がん薬物療法認定薬剤師」「感染制御認定薬剤師」「感染制御専門薬剤師」「精神科薬物療法認定薬剤師」「精神科専門薬剤師」「妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師」「妊婦・授乳婦専門薬剤師」「HIV感染症薬物療法認定薬剤師」「HIV感染症専門薬剤師」の9つです。
専門薬剤師になるには、その前のステップとして、まず各領域の認定薬剤師の認定を受けなければなりません。認定薬剤師は各専門領域における実務経験や実績のほか、研修や講習で知識と技能を身につけ、試験に合格することで認定されます。そのうえで、各領域の研究業績が認められると専門薬剤師になることができるのです。
専門薬剤師は、その専門性を患者さんのために生かすだけでなく、医療スタッフへの教育や指導を担う立場でもあるため、人材不足を迎える今後、ますます必要な存在となります。
なお、専門性を高めることにより薬剤師が受けられる認定には、上記の日本病院薬剤師会が認定するもののほか、日本生薬学会および日本薬剤師研修センターが認定する「漢方薬・生薬認定薬剤師」、日本糖尿病学会が認定する「日本糖尿病療法士」、日本臨床栄養代謝学会が認定する「NST専門療法士」、日本臨床薬理学会が認定する「日本臨床薬理学会認定薬剤師」などがあります。
病院や一般診療所に就職した薬学生は、まずはゼネラリストとして幅広い知識と技術を身につけることになりますが、その過程で「自分は将来、チームで頼られる薬剤師となるため、どのような専門領域を目指すのか」を見極め、学び続けていくことが必要になります。
キーワード
地域包括ケアシステム
厚生労働省が、2025年をめどに住み慣れた土地で療養を続けるための医療・介護・予防・生活支援が一体となった仕組みを確立することを目標に掲げている。そのためのシステムを「地域包括ケアシステム」と言う。
多職種連携
質の高い医療サービスを患者さんに提供するために、薬剤師、医師、看護師などのさまざまな専門職が協働すること。最近では、医療従事者という垣根を越えて、地域包括支援センターの職員、ソーシャルワーカーなどと同じ目的を目指すチームの仲間として連携することがある。