【薬学生】業界の最新動向を学ぼう|調剤薬局

業界・職種・企業研究

公開日:2023.04.03

薬学系の学生が活躍できる業界は、製薬会社をはじめ多岐にわたります。医薬品の需要増加に伴い市場が拡大しているドラッグストアや調剤薬局、ここ10年ほどで急激に成長しているCRO・SMO業界など、幅広い選択肢があるといえます。各業界の動向や今後の動きについて研究し、まずは視野を広げていきましょう。

コンビニエンスストアの店舗数を上回った調剤薬局

調剤薬局は、保険診療に基づいて医師の処方せんに従い、調剤を行う薬局のことを言います。厚生労働省の調査によると、令和2年度末時点の調剤薬局数は60,915施設。前年度に比べ約1.3%増加と報告されております。

このように、私たちの生活において非常に身近な調剤薬局ですが、増加の要因の1つとして考えられるのが「医薬分業」です。医薬分業とは、薬の処方と調剤という業務を、医師と薬剤師というそれぞれの専門家が分担して行うことを言います。日本の医薬分業は、厚生労働省が37のモデル国立病院に対して完全分業を指示した1997年以降、急速に進みました。

その後、2003年には全国の医薬分業率が初めて50.0%を超え、日本薬剤師会における2021年度の調査によると、2021年の医薬分業率は75.3%と報告されています。

医薬分業の利点は、厚生労働省が2015年に発表した「医薬分業の考え方と薬局の独立性確保」でも示されている通り、「複数診療科受診による重複投薬、相互作用の有無の確認などができ、薬物療法の有効性、安全性が向上すること」です。

さらに、調剤薬局におけるチェック機能を通して患者さんの残薬解消の取り組みにつなげ、ひいてはわが国の医療保険財政の効率化にも寄与することを調剤薬局に期待することとして挙げています。

大きく3タイプに大別される調剤薬局

調剤薬局は機能や立地などにより大きく3つのタイプに大別できます。

●門前型

特定の医療機関からの処方せんを受け取る割合が非常に大きいタイプの薬局です。大学病院などの基幹病院の前に並ぶ調剤薬局や、クリニックや医院とマンツーマンで開業している調剤薬局をイメージすると良いかもしれません。特定の医師や医療機関の処方せんを数多くみることができるので、じっくりと医師の処方意図を学ぶ機会を得ることが可能です。特定の診療科の知識を深めるために役立つと考えられます。

●面対応型

面対応型は、特定の医療機関に依存することなく、地域の商店街や駅近くに店舗を構えて、その地域で暮らす人たちがさまざまな医療機関でもらってきた処方せんの調剤に対応する地域密着の薬局です。現在、地域に根ざし、その地域住民の健康を支える「かかりつけ薬局」として活躍することが期待されており、注目が集まっています。多種多様な医療機関の処方せんに触れられるので、さまざまな薬を調剤したり、服薬指導などを経験できます。

●医療モール型

医療モール型は、複数の医療機関が集まるビルなどの施設で開局している薬局のことを言います。患者さんにとって、基幹病院に行くよりも身近で、専門性の高い医療を気軽に受けることができ、利便性が高いことから支持が集まっている医療提供のかたちの1つです。さまざまな診療科の処方せんをじっくりと学ぶことができ、スキルアップにつながる可能性があります。

全国にコンビニエンスストアの数を上回るほど存在する調剤薬局。生き残りのために、それぞれのタイプに応じた強みを生かしています。

調剤薬局業界は、成長期から成熟期への過渡期に

調剤薬局業界においては慢性的に薬剤師が不足している状況があり、採用や教育にかかる費用が高騰しています。調剤薬局業界の市場は中小零細企業が多数参入し、細分化されていることが特徴ですが、これらの中小規模の企業にとって、現在、人材の確保は大きな問題となっています。

また、企業は、「創生期」→「成長期」→「成熟期」→「衰退期」という段階を経て推移していきますが、調剤薬局業界は現在、「成長期」から「成熟期」の過渡期にさしかかっています。2022年に厚生労働省が発表した「調剤医療費(電算処理分)の動向の概要」をみてみると、2021年度の調剤医療費は7兆7,059億円で、前年度同期に対する伸び率は+2.8%。2016年度より対前年度比は、毎年増加・減少を繰り返しており、右肩上がりで成長してきた市場規模の拡大が鈍化しているようにみえます。

市場の拡大が緩やかになってきたとは言われているものの、大手チェーン薬局グループのなかには前年度に比べて10%を超える売上高の増加を示す企業もあり、順調に業績を伸ばしていることがわかります。

大手チェーン薬局グループの成長戦略

2016年の調剤報酬改定では、かかりつけ薬剤師がその職能を発揮できる薬局の機能や体制に関して「基準調剤加算」で評価されることになりましたが、一方のいわゆる大手チェーン薬局グループの門前薬局では調剤基本料が引き下げられることになりました。その結果、多くの調剤薬局で経営の転換や新たな戦略を打ち出すことが求められています。

日本調剤株式会社では、高い経営効率と質を重視した出店戦略でM&Aを進め、1店舗あたりの調剤売上高を着々と伸ばしています。

他業種と手を組むことで、顧客獲得に乗り出した調剤薬局もあります。

クオール株式会社では、コア事業であるクオール薬局に加え、「街ナカ薬局」としてLAWSON、「駅チカ薬局」としてビックカメラ、そして「駅ナカ薬局」としてJR西日本デイリーサービスネットと連携して多様な店舗形態で顧客の獲得に成功。調剤事業の業績を伸ばしています。

また、調剤薬局以外のヘルスケア事業にも目を向け、ヘルスケア業界全体を視野に入れた事業展開で成長を続けているのが、株式会社トーカイです。同社では、調剤サービスのほかにもう1つのコアビジネスとして「健康生活サービス」を確立。病院などの医療機関に対するリネンサプライや食事サービスを提供する病院関連事業や、介護用品のレンタルを行うシルバー事業の売上を堅調に伸ばしています。

今後も企業の競争力を維持するために、各社ともM&Aによる規模の拡大、他業種との提携による顧客の獲得といった動きをさらに強めることが予想されます。

調剤薬局で働く薬剤師に、今後求められること

これからの調剤薬局は、これまでの「対物業務」から「対人業務」へシフトしていくことが求められています。 そのための国策が、「かかりつけ薬剤師」であり、「地域包括ケア」です。 地域包括ケアシステムは、「団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制」のことを言います。

一方の「かかりつけ薬剤師」は、2016年の診療報酬改定で新設・評価されるようになりました。かかりつけ薬剤師の役割は、患者さんの薬物治療を一元的・継続的に把握し、患者さんに安心・安全かつ適切に薬を使用してもらうことです。

かかりつけ薬剤師になるには①薬剤師として3年以上の薬局勤務経験があること、②同一の薬局に32時間以上勤務していること、③当該薬局に12カ月以上在籍していることなど、さまざまな要件をクリアし、さらに、患者さんの合意と同意書が必要となります。

これからの薬剤師には、この地域包括ケアシステムのなかでかかりつけ薬剤師として、「患者が使用する医薬品について、一元的かつ継続的な薬学管理指導を担い、医薬品、薬物治療、健康などに関する多様な相談に対応できること」そして、「地域に密着し、地域の住民から信頼されること」を目指すことが求められています。

キーワード

かかりつけ薬剤師


2016年の診療報酬改定で新たに新設され、患者さんの薬物治療を一元的かつ継続的に管理することに対して評価されるようになった。かかりつけ薬剤師指導料は76点で、薬剤服用歴管理指導料(43点または57点)に比べて高く評価されている。

医薬分業


薬の処方と調剤という業務を、医師と薬剤師というそれぞれの専門家が分担して行うこと。厚生労働省が37のモデル国立病院に対して完全分業を指示した1997年以降、急速に進んだ。2021年度における医薬分業率は75.3%。

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