労働者の転職を制限する「競業避止義務」とは?【弁護士が答えます】

就活ノウハウ

公開日:2025.01.22

競業避止義務のルール化は実現するのか

あなたが就職する際、もしくはインターンシップに参加する際に渡される契約書の中に「競業避止義務」という言葉を目にする機会があるかもしれません。本記事ではなぜ企業がこのような条項を設けるのか、また学生の皆さんにはどのような影響があるのか、弁護士がお答えします。

競業避止義務とは何?

いきなり競業避止義務と言われてもピンと来ない方もいらっしゃるでしょうから、まずは用語解説をします。競業避止義務とは、「労働者が、使用者と競合する企業に就職したり、自ら開業したりしないようにする義務」を意味します。要するに、「ウチの会社を辞めた後、ライバル企業に転職したり、ライバル企業を自分で立ち上げたりしないでね」という約束です。

前提として憲法によって「職業選択の自由」は保障されています。そのため退職後にどんな仕事に就こうと問題はありません。しかし使用者(会社)の立場からすれば、自社のノウハウや顧客がライバル企業に渡ってしまうことは重大な不利益となり得ます。このようなリスクを防ぐため、あらかじめ、労働者に競業避止義務を負わせておこう、となるわけですね。

競業避止義務についての新たな動き?

新聞を読んでいたら、この競業避止義務について興味深い記事がありました。こんな記事です。「競業避止義務については、内閣府の規制改革推進会議でも議論が進められている。2024年4月17日の作業部会は、公正取引委員会、厚生労働省、経済産業省と民間有識者からヒアリングを行った。

経産省は、一定の条件を満たせば、競業避止義務契約の有効性自体は認められると指摘した。条件の例として「義務契約期間が1年以内」「業務内容や職種等で限定する」「高額な賃金など代償措置の設定」などを挙げた。(2024年6月30日の読売新聞オンライン記事から引用)

タイムリーな話題なので、少し解説を加えてみたいと思います。

労働者にとってのデメリット

競業避止義務が会社にとってメリットのあるものであることは明白です。たとえば企業の機密情報やノウハウの流出を防せぐことにより、企業の競争力を維持するなどさまざまなメリットがあります。

ただ労働者にしてみれば、せっかく身につけた仕事のノウハウなどを転職先で活用することができなくなってしまいます。競業避止義務に違反しないように転職するなら他業種を探すことになるわけですが、制限が発生することで転職の幅を狭めてしまう可能性があります。引用した新聞記事で指摘されているのは、まさに上記の問題意識です。要するに、「競業避止義務」とは名ばかりで、労働者の囲い込みに利用されているのではないか、という話です。

競業避止義務を定めた法律はない

実のところ、競業避止義務について法律に定めはありません。競業避止義務に関する問題は、法律によるルール化ではなく、司法の(裁判上の)解釈によって解決されてきたものです。問題になる事案があれば、その都度裁判所に訴えて、競業避止義務の正当性を判断してきたわけです。

しかし、問題になる都度司法の判断を仰ぐのでは、どうしても基準にブレが生じます(言い換えれば、事案に応じた柔軟な解決ができるということなのですが)。ここで一度、競業避止義務に関するルールを明確にしておきませんか、ということになっているわけです。

新聞記事によれば、競業避止義務ルールの明確化について、経産省は積極派、厚労省は消極派(これまでどおり司法で解決することが適切)という立場のようです。このあたりは、各省のポジションがあるようで興味深いですね。

今後の動きは不透明

競業避止義務に関するルールが明確化されるか否か、現時点では不透明です。今後の議論を待つしかないでしょう。ただひとつ言えることは、ルールが明確化されていない現状、皆さんも競業避止義務の有無についてきちんとチェックしておいた方がよいということです。

競業避止義務のリスクが顕在化するのは会社を辞めるときなので、入社する段階ではどうしてもチェックが甘くなりがちです。転職を考えたときに「こんなはずじゃなかった…」とならないように、きちんとチェックすることをおすすめします。

PROFILE

定禅寺通り法律事務所
下大澤 優弁護士
退職代行、残業代請求、不当解雇、パワハラ・セクハラなど、数多くの労働問題を取り扱っています。これまでにも、発令された配転( 転勤) 命令の撤回、未払残業代の支払など多くの事例を解決しています。

この記事のタグ

関連記事

最新記事

編集部のおすすめ記事

公式アカウントで最新情報を配信中!