残業キャンセル界隈に見る法的リスク【弁護士が答えます】

就活ノウハウ

公開日:2026.03.04

残業キャンセル界隈に見る法的リスク【弁護士が答えます】

この記事でわかること

  • 法律上の要件を満たせば企業は労働者に対して残業を法的に命じられる
  • 残業を拒否し続けると処分の対象になる場合がある

近年、定時退社を優先する「残業キャンセル界隈」という考え方が若年層を中心に広まっています。業務が残っていても残業を拒否することは、個人の自由な価値観ですが、法的な視点から見ると常に許されるわけではありません。本記事では、弁護士目線でこれから就職する学生の皆さんが注意すべき点を解説します。

※本記事は、記事公開時点の法令・情報に基づき弁護士が執筆・解説したものです。その後の法改正や社会情勢の変化により、現在の法令や解釈と異なる場合があります。最新の法制度等については、公的機関の発表をご確認いただくか、専門家へご相談ください。

残業キャンセル界隈とは?

このところ、「〇〇キャンセル界隈」という言葉を目にします。
私のようなアラフォー世代からすると、「キャンセル界隈って何だろう?」と思ってしまうのですが、若い世代の方々には浸透している表現のようです。
その中でも特に「残業キャンセル界隈」という言葉を目にするようになりました。「残業キャンセル界隈」とは、定時になったら仕事が残っていても残業せずに帰宅する価値観を指す、SNSをきっかけに生まれた言葉です。賛否こそありますが、労働にどこまでの価値を置くかは人それぞれですから、このような考え方をもつことは全く構わないと思います。
とはいえ、「自分、残業キャンセル界隈なので!」という態度をいついかなる場合でも維持してよいものかどうか、法律的な視点から考える必要はあります。

企業が残業を「命じる」ための要件とは

そもそも、企業が労働者に対して残業を「命じる」ことはできるのでしょうか?
実は、法律上の要件を満たせば、企業は残業を命じることができるのです。
法律上の要件をざっくり示しますと、以下のとおりです。

①36協定の締結と届出
残業に関する企業と労働者との協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届出をすることが必要です。

②就業規則等の根拠
雇用契約書や就業規則において、36協定の範囲内で業務上の必要がある場合に残業を命じることができる旨を定め、それが労働者に周知されている必要があります。36協定の締結だけでなく、就業規則等の根拠が必要です。

③残業を命じる必要性があること
実際に残業を命じる必要があり、残業の内容や時間が合理的である必要があります。不当な目的での残業命令は許されません。

④残業が制限される場合でないこと
妊娠中、育児中、介護中、体調不良など、労働者が残業をすることができない事情がある場合は、残業は制限されます。

「残業キャンセル界隈なので帰ります!」は通用する?

では、先に示した①~④の要件をクリアし、適法な残業命令が出された場合、「自分、残業キャンセル界隈なので帰ります!」と言って残業命令を拒否するとどうなるのでしょうか?
この場合、労働者が、適法な業務命令を拒否することになります。適法な業務命令を拒否した場合には、企業の秩序を乱す行為として、懲戒処分の対象となり得ます。
実際に、残業命令を繰り返し拒否し、反抗的な態度をとり続けた労働者について、懲戒解雇が認められた判例も存在します。
もちろん、残業命令を一度拒否したからといって、すぐに懲戒処分を下すことは行き過ぎです。ただ、適法な残業命令を繰り返し拒否していると、譴責処分→出勤停止処分→懲戒解雇処分という具合に、段階を経て過酷な処分が下されるリスクが生じます。

おわりに

「残業キャンセル界隈」というとカジュアルで心地よい言葉ですが、その実態は業務命令違反になるリスクもあるということを覚えておきましょう。
もちろん、およそ適法とはいえない残業命令が出される事例も多々あるので、「残業キャンセルはNG」というわけではありません。自身の健康や私生活を守るために、残業を拒否すべき場合もあります。何事もルールに従って働くことが大切です。
今後皆さんが社会に出て、「残業キャンセルしちゃおうか」と考えたとき、この記事のことを思い出していただけると幸いです。

下大澤 優弁護士

PROFILE

定禅寺通り法律事務所
下大澤 優弁護士
退職代行、残業代請求、不当解雇、パワハラ・セクハラなど、数多くの労働問題を取り扱っています。これまでにも、発令された配転( 転勤) 命令の撤回、未払残業代の支払など多くの事例を解決しています。

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