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プロの視点

岸 博幸慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授

国を動かし、世界を舞台に活躍する仕事
元経産官僚・岸博幸がその本質を語る

<第3回>2016.08.31
国家・金融・経済・産業を横断して活躍できる、
政府系金融機関の仕事



政府が出資する金融機関である政府系金融機関は、国益の確保、有事の際の支援、国民生活の安定など、民間金融機関が融資を行うことが困難な分野に介入する役割を担っています。一部の学生さんには「政府系金融機関」という名称のイメージから、「お金を勘定する仕事」というイメージを抱く人もいるようですが、それは大きな誤解です。その活躍ステージの広範さゆえ、「金融の世界に関心がある」「スケールの大きな仕事がしたい」「幅広い人脈を得たい」といった目標意識の高い学生さんにとっては魅力ある志望先のひとつなのです。

大規模災害後の復興を支える政府系金融機関

ここ10年だけを見ても、地震、津波、噴火、洪水、豪雨、台風、竜巻など、自然災害が日本では多発しています。2011年に起きた東日本大震災時も、先の2016年熊本地震時も、個人の方はもちろん中小企業・小規模事業者、農林・漁業者など非常に多くの方が被災されました。しかし、自然災害時といえども、すでにローンを組んでいて担保もないといった案件に、基本的に民間の金融機関はまず融資を行いません。これでは復興もままなりません。

こうした際に既往債務の条件変更や返済猶予など、民間の金融機関の手が届かないハイリスクな融資を弾力的にサポートするのが政府系金融機関の役割です。自力再開・再建を支援する制度や機関は、何より「災害大国・ニッポン」にとって非常に大きな役割を担っていることになります。

金融危機、大規模プロジェクトを補完

政府系金融機関が果たす役割は自然災害に限ったことではありません。世界規模の経済危機や、経営破綻・不振に陥った巨大企業の支援、株式や債券市場低迷時にも政府系金融機関は大きな存在意義を発揮します。

例えば、2008年に起きたリーマン・ショックもそのひとつです。ショックに端を発した世界金融危機によって金融市場が冷え込んだことで、メガバンクも巨額赤字を計上しました。企業の資金繰りを下支えする銀行本来の業務がままならない中、金融円滑化法ならびに緊急保証制度といった時限的な中小企業金融支援策を行ったのが政府系金融機関でした。このように「景気対応緊急保証制度」「東日本大震災復興緊急保証制度」「セーフティネット保証」など国の指針に伴うスピーディーな対応にいち早くうって出られる点も、政府系金融機関の大きな特色なのです。

さらに、IT技術の進歩により、世界規模で経済、産業、社会、環境が密接につながっている今日、途上国や経済移行国のインフラ整備、地球環境ファシリティ、資源開発や都市再開発にも拍車がかかっています。これらのビッグ・プロジェクトを補完する役割を担っているのが政府系金融機関であり、資金供給主体としての政府系金融機関の重要性が、今後これまで以上に高まっていくことは間違いないでしょう。

ガバナンスの確立・強化による民営化の流れ

政府系金融機関に関しては「議員の口利きがあれば融資する」「回収のメドが甘くても融資する」といった事例が過去に取り沙汰されたこともありました。しかし、それはあくまで過去の話。ガバナンスが強化された今はそうした事実はありませんし、政府系機関が株式会社化する動きが加速しているのも、その一環と言えます。

民営化の流れは先述した過去のルーズな流れを払拭する目的と、政府の一機関という立ち位置を明確化することに根ざしますが、民間銀行で確立されている規律やガバナンスが、今以上に政府系機関に求められることは明白ですし、仮に損失が発生すれば、それは国の負担となります。そうしたリスクを軽減するためにも政府系機関の民営化は非常に意義あるものと言えますし、特にルールメイキングに興味がある学生さんにとっては、非常に興味深い点ではないでしょうか。

国家・金融・経済・産業を横断した業務

資金回収に数十年を要する超長期プロジェクトから、世界規模の経済変動に則した対応、そして有事の際の弾力的支援など、政府系金融機関で働く人の活躍ステージはいずれも規模が大きく、それだけにあらゆるスキルを求められることになります。

一方で、国家・金融・経済・産業を横断した幅広い分野で仕事ができるため、「金融業界にも、国の仕事にも興味がある」「メガバンクや官公庁を志望先に考えている」という学生さんにとって、政府系金融機関はまさに「いいとこ取り」と言えるかもしれません。やりがいとしても申し分ないので、政府系金融機関の魅力を深堀りしてみる価値は大いにあるでしょう。


Profile

岸 博幸
Kishi Hiroyuki

1962年9月1日生まれ。一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。産業政策局、通商産業研究所を経てコロンビア大学ビジネススクールに留学し、MBA取得。復職後、通商産業省資源エネルギー庁など経て、2001年、第一次小泉純一郎内閣の経済財政政策担当大臣だった竹中平蔵氏の大臣補佐官に就任。2006年に同省退官。現在は、日本テレビ「有吉反省会」、テレビ朝日「グッド!モーニング」などの多数のTV番組に出演する一方、ビジネス情報サイト「ダイヤモンド・オンライン」でのコラム連載、『アマゾン、アップルが日本を蝕む』(PHP出版)、『ネット帝国主義と日本の敗北』(幻冬舎)など、著書も多数。