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プロの視点

岸 博幸慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授

国を動かし、世界を舞台に活躍する仕事
元経産官僚・岸博幸がその本質を語る

<第2回>2016.08.17
業界・業態を問わない幅広い知見と、
ビジネスのダイナミズムが魅力の総合商社



進路を決める際には志望業界の研究や企業選択がとても大切ですが、学生の皆さんには「10年後、20年後に自分がどういう人間になっていたいか」という観点から、就職先選びをしてほしいと思っています。今回は、グローバル企業で働くということや、資源開発、途上国のインフラ整備といったダイナミックな仕事にひかれて総合商社を志望する学生の皆さんに向けて、その魅力を私の視点からお伝えしたいと思います。

ヒト・モノ・コトを動かして多様なサービスを創出

「ミサイルからカップラーメンまで」と言われるほど、多種多様な品目を扱うのが総合商社です。最近はガス田、鉄鉱石、銅などの市況低迷と資源安によって、苦戦する状況が鮮明になっていますが、一方で、こうした現状もプラスに転化し、「モノ」だけでなく金融、投資、資源開発などの広範な分野で事業を展開していくことができるのも総合商社ならではの魅力ではないでしょうか。

私たちの生活に密接に関わる総合商社は、成長軌道にある企業や産業のリスクテイカー的側面から金融に近しい部分も多く、マーケットでも非常に重要な役割を果たしています。加えて、産業を成長させるために人・商品・流通ノウハウといったリソースを提供する、あるいは、既存産業やサービスを支援する、昨日までなかったサービスや新業態を構築するなどといった面も、総合商社の醍醐味であり、大きな魅力とも言えるでしょう。

生活の深部にまで密接に関わる広範な守備範囲

ひと言で総合商社と言っても、各社ごとにプレゼンスが異なり、強みや活動エリアは大きく異なります。学生の皆さんはどうしても、資源・エネルギー、アグリビジネス、投資・デリバティブ取引、貿易といったグローバルな側面に目がいきがちかと思いますが、あらゆる商品・サービスを手がけ、ビジネスコーディネーターとしての役割を担う総合商社が、想像以上に私たちの生活のかなり深いところまで関わっていることをご存じでしょうか。

例えば「コンビニ」がそうです。昨今のコンビニの著しい進化も総合商社の存在抜きに語ることはできません。私たちが普段よく手に取るコンビニ弁当も、食材を扱うメーカーから、弁当の具材、容器を手がけるメーカー、そして配送業者の情報を一元化することで、スムーズな流通が実現できていると言えます。加えて、規格統一、在庫管理、売れ筋商品の把握、安全性といった側面においても、総合商社の存在が大きく寄与しているのです。

変化が速い時代にこそ、重要度が増す総合商社

このような総合商社という業態は、日本独自のものと言われています。一部には、この独特な業態がビジネスの足かせになっているという声もありますが、私は逆に、今後はそうした点がメリットになる、あるいは変化の著しい社会だからこそ、総合商社という業態が際立ってくるのではないかと考えています。

ひとつのものづくり企業を想定した場合、そのメーカーが手がける製品・商品に付随するサービス・人・流通・販売チャネルに目を配らせるためには、総合商社の真価とも言えるヨコ、ナナメの目線が不可欠です。巨大組織の敵は「部門ごとに業務が設計された縦割りの組織構造」とよく言われますが、複数の要素を内包する商品やサービスは、横断的な視点を有したプロのノウハウがないと実現できないと言えます。こうした点からも変化が速い時代にこそ、総合商社のような存在は重要度がより一層増してくるでしょう。

幅広い知見と高い専門スキルが身につく

総合商社の奥行きは深く、活躍ステージは広範です。そうした特色からも、あらゆるリソースをワンストップで提供するノウハウをはじめ、資源開発といったグローバルな仕事では、いい意味で「専門バカ」になれるスキルを身につけることができるでしょう。また、国内での新業態、新サービスの創出を手がける場合は、幅広い知見と実行力が養われることになります。

このことから、「チャレンジングな仕事がしたい」「専門性を高めたい」と考えている学生の皆さんにとって総合商社は、うってつけの活躍の舞台となるのではないでしょうか。総合商社に挑戦したいという皆さんに私からひとつアドバイスするとすれば、ぜひ、総合商社の魅力を深堀りすると同時に、10年後、20年後の自分のあり方もイメージするようにしてください。「どういった分野で専門性を高めていきたいのか」「どういうスキルを身につけたいか」といった自身の方向づけを行いながら、就職先の企業を選択することをお勧めします。


Profile

岸 博幸
Kishi Hiroyuki

1962年9月1日生まれ。一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。産業政策局、通商産業研究所を経てコロンビア大学ビジネススクールに留学し、MBA取得。復職後、通商産業省資源エネルギー庁など経て、2001年、第一次小泉純一郎内閣の経済財政政策担当大臣だった竹中平蔵氏の大臣補佐官に就任。2006年に同省退官。現在は、日本テレビ「有吉反省会」、テレビ朝日「グッド!モーニング」などの多数のTV番組に出演する一方、ビジネス情報サイト「ダイヤモンド・オンライン」でのコラム連載、『アマゾン、アップルが日本を蝕む』(PHP出版)、『ネット帝国主義と日本の敗北』(幻冬舎)など、著書も多数。