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プロの視点

岸 博幸慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授

国を動かし、世界を舞台に活躍する仕事
元経産官僚・岸博幸がその本質を語る

<第1回>2016.08.03
「課題先進国・ニッポン」
だからこそ、これからは官公庁の仕事が面白い!



進路選択の時期にある学生の皆さんにまず申し上げたいのは、本当にやる気のある学生さんこそ、官公庁に入省すべきではないかということです。国や社会のあり方を決める重要な仕事だからこそ得られる経験やスキル、やりがいが官公庁の仕事にはあるからです。

課題山積の日本の舵取りを担う官公庁

今日の日本は「課題先進国」と呼ばれ、年金、累積債務、少子高齢化、エネルギー、原発問題、地域衰退、介護、医療などの喫緊の課題が顕在化しています。いずれにおいても、一刻も早く解決の道筋をつけなければならない課題ばかりですが、国や社会のあり方をどうすべきか、国の舵をどうきっていくかなど、今後、その方向づけの重要度がより増していくことは間違いありません。こういった問題に正面から取り組むのが官公庁の仕事になります。

私は官公庁の仕事に面白さを見出し、1986年に通商産業省(当時)に入省しました。当時も国は多くの課題を抱えていましたが、現在の日本では新生児が減少し、高齢化社会に大きくシフトした少子高齢化問題を筆頭に、年金、医療、介護、教育といったさまざまな問題が発生。加えて、原発、エネルギー資源の枯渇、地球温暖化といった30年前にはなかった新たな問題が表出し、課題の規模もスケールアップしています。

ジェネラリスト養成に根ざした官公庁の仕事

省庁によって差はあるものの、入省して新たな政策を立案する場合、現状の問題の背景や理由、あるいは解決の道筋をつけるための利害関係者へのヒアリング・調整を行います。当然ながら、厚生労働省であれば社会保障だけをやっていればよいということではなく、「今どこで、どのような問題が生じているか。その問題はなぜ生じたのか」といった、経済や社会的な背景を俯瞰し、問題を総体的に把握する視点が養われていなければ、本当の意味で政策をつくることはできないのです。

そのため、官公庁の基本は、複雑困難な課題に多面的に立ち向かえる知見と実行力を有した「ジェネラリスト養成」にあります。基本的に2年ごとに異動があり、他省庁はもちろん、都道府県行政への出向のほか、海外留学や、大使館や国際機関勤務などもあります。このように、対外的なコミュニケーション能力や柔軟性、文化や風習の異なる地域や組織で多様な知見を高められるカルチャーが息づく官公庁には、活躍ステージが豊富に用意されていて、広範な経験によって広い視野が養われる土壌が整っていると言えます。

また官公庁の仕事は、人脈づくりにおいても特徴的です。例えば、国会議員をはじめ自治体の首長、民間企業、教育機関、NGO、国際機関といった各種団体・組織のキーマンと折衝できる機会を早くから持てますし、実際に、省庁勤務時代に培った人脈は今の私の財産です。今もそうした方々との意見交換を行っていますし、私自身の経験からも業界、業態を横断した人脈づくりができる点も大きな魅力ですね。

これからは官公庁の仕事が、圧倒的に面白い

私は、郵政民営化や不良債権処理など、さまざまな政策や制度づくりに20年あまり携わってきましたが、当然ながら政策や制度の立案はひと筋縄ではいきませんし、ときに困難も伴います。でも、苦労が多いのは省庁も民間も同じことだと思っています。

所管する行政の範囲を詳細まで理解する。それに付随する知識を身につける。そして、政策内容を精査したうえで立案に導く。つまり、課題の構造を精査し、問題を解決に導く政策を立案する高度なスキルを若いうちから要求される点は、ハードルが高いようにも思えますが、私自身、この点が官公庁の仕事の最大の魅力ととらえていました。

課題が山積し、いずれも待ったなしの状態に置かれている日本は、さまざまな課題を解決に導く政策を打ち出していかなければならない厳しい現実に直面しています。翻れば、官公庁の担う使命の重要性が「今」もっとも問われているのです。これらを解決に導くには、情熱やエネルギー、専門スキル、問題解決力などといった、新たな日本を切り開いていく若い皆さんの力が不可欠です。

そうした現状を、達成感ややりがいを就職先選びのコアにしている学生さんに理解してほしいですし、みすみす目前のチャンスを逃す手はありません。国(経済・社会)の方向性を決める仕事は相手にとって不足ないはず。だからこそ私は「環境の変化に準じた新しい仕組みづくりに取り組める官公庁の仕事が、これからは圧倒的に面白い」と、ぜひアドバイスしたいです。

Profile

岸 博幸
Kishi Hiroyuki

1962年9月1日生まれ。一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。産業政策局、通商産業研究所を経てコロンビア大学ビジネススクールに留学し、MBA取得。復職後、通商産業省資源エネルギー庁など経て、2001年、第一次小泉純一郎内閣の経済財政政策担当大臣だった竹中平蔵氏の大臣補佐官に就任。2006年に同省退官。現在は、日本テレビ「有吉反省会」、テレビ朝日「グッド!モーニング」などの多数のTV番組に出演する一方、ビジネス情報サイト「ダイヤモンド・オンライン」でのコラム連載、『アマゾン、アップルが日本を蝕む』(PHP出版)、『ネット帝国主義と日本の敗北』(幻冬舎)など、著書も多数。