【業界を徹底解剖】官公庁・団体業界の魅力や求められる資質とは?
業界・職種・企業研究公開日:2024.09.04
官公庁・団体業界には、中央省庁、地方自治体、公社などといった、日本社会の持続的な発展や社会福祉の充実に欠かせない組織が存在します。本記事では、官公庁・団体業界に興味をもつ学生の皆さんに向けて業界の基礎知識や働く魅力などについて解説します。
そもそも官公庁・団体業界とは?
官公庁・団体業界は、公共機関や公共サービスを提供する組織群を指します。この業界には、中央省庁や地方自治体、公社、特殊法人などが含まれ、国民生活の基盤を支える重要な役割を果たしています。官公庁・団体業界は、その組織構造や役割が明確であり、安定性と公共性が高いことが特徴で、それぞれが社会課題の解決や国民生活の向上に取り組んでいます。
■官公庁
・中央省庁:
国の統治や行政を担当する機関、政策の立案や法律の施行などを担当しています。
(例:外務省や財務省、内閣府、デジタル庁など)
・地方公共団体:
各都道府県や市町村の行政機関で、地域の公共サービスを提供しています。
(例:東京都庁や各県の県庁、市役所など)
■団体
・公益法人:
法律に基づいた公益性が認定された法人を指します。公共の利益を目的に設立され、インフラ整備など、特定のサービスの提供を行います。公益社団法人と公益財団法人の2種類があります。
(例:日本医師会、経済同友会、日本教育文化財団、日本国際協力財団など)
出典:東京都 公益財団・社団法人一覧
・独立行政法人:
中央官庁から独立し、特定の行政事務や業務を行うために設立された法人です。
(例:造幣局、国立美術館など)
・特殊法人:
特定の事業を担うために設立された法人です。予算や事業計画などは主務大臣の認可が必要ですが、できる限りの自主性により運営されています。
(例:日本郵便株式会社、日本年金機構など)
出典:総務省 特殊法人一覧
・国際機関:
複数の国に横断的に存在し、国際的に活動する組織です。平和構築や保健・福祉など、地球規模の重要な課題の解決に貢献します。
(例:国際連合、世界保健機関など)
出典:出入国在留管理庁 国際機関一覧
・教育機関:
公的な教育を担う機関全般を指します。大学などは高等教育機関に含まれます。国立大学は2004年度に法人化され、職員の身分はそれまでの国家公務員から法人職員となりました。公立の学校や図書館は地方公共団体に属し、地方公務員が働いています。一方、私立学校は公的な機関ではなく、私立の法人や団体に属し、教職員は公務員ではなく、その法人の職員となります。
・非政府組織(NGO)、非営利団体(NPO):
市民が主体となり、営利を目的としないさまざまな社会貢献活動を行う団体を指します。2つの違いは法人格の有無と活用内容であり、日本では、国際的な課題に取り組む活動を行う団体をNGO、国内の課題に対して活動する団体をNPOと呼ぶ傾向があります。幅広い分野で社会の多様化したニーズに応える重要な役割を果たすことが期待されています。
(例:日本赤十字社、WWFジャパンなど)
出典:外務省 国際協力とNGO
主要な官公庁・団体と業界の動向
官公庁・団体業界は、日本社会の中核をなす重要な役割を担っています。現在、この業界はデジタルトランスフォーメーションの推進や、少子高齢化、地域活性化など、さまざまな課題に直面しています。今後の展望として、技術革新による業務効率化や市民サービスの向上が期待されています。
主要な官公庁
・厚生労働省:
医療や公衆衛生、介護、子育て支援、年金、労働、福祉など、国民生活に密着した幅広い分野の政策を担っています。少子高齢化への対応や感染症対策など、国の重要な課題の解決に中心的な役割を果たしています。
出典:厚生労働省
・内閣府:
内閣府は、内閣総理大臣の補佐・支援体制の強化を目指して2001年に設置された、内閣総理大臣を長とする内閣の機関です。行政事務を分担管理している各省より一段高い立場から、国政上の重要な政策について企画立案・総合調整などを行います。
出典:内閣府設置法
・東京都庁:
地方公共団体である東京都の行政機関です。約1,400万人の人口を抱える日本の首都・東京の環境や経済、福祉・保健医療、教育、都市づくりなど、多岐にわたる分野の政策を担っています。市区町村を越えた広域的な事務や、国との調整業務などを行います。
出典:東京都職員採用ページ
主要な団体
・日本赤十字社:
国内外における災害救護をはじめ、苦しむ人を救うために幅広い分野で活動しています。世界中で戦争・紛争犠牲者の救援をはじめ、災害被災者の救援、医療・保健・社会福祉事業などを行っています。日本でもボランティア活動を積極的に展開しています。
出典:日本赤十字社
■官公庁・団体業界の動向
・デジタルトランスフォーメーション:
行政手続きのデジタル化が進行中で、多くの自治体や団体が業務の効率化やサービスの質向上を目指しています。現在、マイナンバーカードを利用して住民票の写しなどをコンビニエンスストアで取得できるサービスや、確定申告をオンラインで完結できる仕組みが導入されています。また、一部の自治体では、窓口業務をAIの自動応答やチャットボットに置き換え、職員の負担を減らしながら住民サービスの質の向上を目指す動きも進んでいます。
出典:
総務省 マイナンバー制度とマイナンバーカード コンビニ交付
川崎市 川崎市AIチャットボットシステムについて
・少子高齢化への対策:
人口減少と高齢化社会への対応とともに、福祉や医療サービスの充実が求められています。2050年の日本の高齢化率は約40%になると予測されています。また、少子高齢化や都市部への人口流出により、全国の自治体の4割が将来的に消滅する可能性が指摘されています。この中で、少子化対策や高齢化に伴う福祉や医療サービスの需要の増加への対応などが大きな課題となっています。現在、要介護状態となっても住み慣れた地域で最後まで自分らしい暮らしを送れる社会を目指す「地域包括ケアシステム」の構築が全国的に進んでいます。また、過疎地に住む高齢者の交通手段としてライドシェアや乗合タクシーの導入が注目されています。
出典:
総務省 市町村合併の推進状況について
厚生労働省 地域包括ケアシステム
・地域創生と移住促進:
地域経済の活性化や地方創生に向けた取り組みが進行中です。官公庁が行う取り組みとしてはふるさと納税制度や都市部からの移住を支援する地域おこし協力隊、団体が行う取り組みとして地域の特産品のブランド化や観光振興などが挙げられます。官民が協力して動画やSNSを通じて地域の魅力をPRする取り組みも進んでいます。最近ではリモートワークが定着したこともあり、首都圏から地方への移住を促す動きが活発化しています。また、地域の伝統産業の維持・発展をサポートする役割を地方自治体が担う例も多くみられます。
出典:
内閣官房・内閣府
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・脱炭素社会への挑戦:
持続可能な社会を目指し、環境保護やエネルギー政策の強化が行われています。日本政府は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という目標を掲げており、公的な機関には目標に向けた政策の推進とともに、率先して環境対策を行うことが期待されています。取り組みの例としては、東京都の太陽光発電システムの設置などを促す「ゼロエミッション東京」や、札幌市の冬季に集めた雪を夏季の冷房に利用する雪氷熱利用などが挙げられます。
出典:
経済産業省 我が国の地球温暖化対策に関する最近の動向
東京都 環境局 ゼロエミッション東京
・人材の確保:
公共サービスを支える公務員のなり手不足が指摘されています。国内外で多様な職業選択が可能となる中、国家公務員の申込者数は10年前に比べておよそ3割減少し、若い職員が離職するケースも増えています。地方公務員も、民間企業との人材獲得競争の中で特に専門職のなり手不足が指摘されています。優秀な人材の確保が急務となっていて、一部の業務をデジタル化するなど効率化の模索が続いています。
官公庁・団体業界で働く魅力
官公庁・団体業界は社会問題の解決や公共の質向上など社会の基盤を支えるやりがいのある仕事です。以下にそのほかの具体的な魅力を挙げていきます。
・安定性:
官公庁・団体業界は、経済の影響を受けにくくリストラなどの失業リスクの低さが特徴です。非営利団体も営利団体に比べると雇用が安定している傾向にあります。また、公務員は昇進や昇格の基準が明確なため、自身のキャリアパスや給与を想定しやすいという利点があります。
・人々の暮らしを支える公共性:
国民や地域住民の生活を支える業務に従事することで、大きなやりがいと達成感を得られます。特に地方自治体では、地域住民と密接に関わりながら地域の課題解決に取り組むことが多く、地域への貢献を実感できます。
・ワークライフバランス:
労働時間の管理が明確で、他業種と比べてさまざまな休暇制度が整っている傾向があります。育児休業も、子供が3歳になるまでの間、1人の子供につき原則2回まで取得することができます。
・社会的な信頼性の高さ:
特に公務員は、公的な仕事に従事するにあたり厳しい学科試験を経て採用されることが多く、その職業に従事していることが社会的な信頼につながります。また、雇用や収入が安定していることから、住宅ローンなどの審査も通りやすい傾向にあります。
・後世に残る仕事ができる:
公共事業や公益性の高い事業に携わり、多額の予算を伴う大きなプロジェクトにかかわる機会があるのも特徴です。自身の能力や経験を生かし、国や地域の未来を形作る重要な取り組みに貢献することができます。
官公庁・団体業界で働く人に求められる資質
官公庁・団体業界で求められる資質は多岐にわたります。これらの組織で成功するためには、以下のような資質が必要とされます。具体的に説明していきましょう。
1.責任感:
公共の利益を第一に考え、責任をもって業務を遂行する力が必要です。たとえば、政策の実施や公共サービスの提供においては、結果に対して強い責任感をもつ姿勢が求められます。
2.問題解決能力:
複雑な課題に対して、データや情報を適切に分析し、問題の原因を特定し、根拠に基づいた適切な判断や適切な解決策を見いだす能力が求められます。
3.法的知識やルールの遵守:
公共の利益を守るために、厳しい倫理観が必要で、不公正な行為は禁止されています。特に公務員には、国民が納めた税金で給与が支払われている自覚をもった行動が求められます。
4.専門知識や技術:
業界内には、土木や建築、公衆衛生などの専門知識が求められる職種も多く存在します。専門的な知識や技術を磨き続けながらスキルアップすることが求められます。
5.コミュニケーション能力:
多様な関係者と円滑にコミュニケーションを図り、具体的な成果につなげる能力が必要です。政策の策定や実施において、多くの関係者との協議が必要となります。その中でチームワークやリーダーシップも必要になります。
まとめ
官公庁・団体業界への就職を目指す皆さんには、業界の仕組みや現状を理解し、自分がどのように貢献できるか、どのような世の中にしていきたいかを考えることが重要です。官公庁・団体業界は、日本社会の基盤を支える重要な役割を担っており、その魅力は安定性や公共性にあります。この業界で働くことで、社会の課題解決に直接関与し、多くの人々の生活を支えることができるでしょう。
PROFILE
小柳 眞理
ジャーナリスト/キャリアコンサルタント
大学卒業後、25年にわたり日本とアメリカの新聞、テレビ、Web、雑誌で報道記者・編集者として取材・執筆・編集に従事。政治、外交、地方行政を中心に、のべ2000人以上にインタビューを行う。2015年に子供を出産後、全国転勤をしながら仕事と子育てを両立。育休復帰後の働き方に悩んだ経験から女性のキャリア支援を志し、2023年、国家資格キャリアコンサルタント、CDA(キャリア・ディベロップメント・アドバイザー)資格を取得。同時期、記者として得た知識を深めるため大学院に入学し、20代の仲間たちとともに国際関係論を学ぶ。上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科国際関係論専攻博士前期課程修了(国際関係論修士)。海外留学中の学生を含む大学生・大学院生のキャリア支援や、さまざまな業種で働く女性へのキャリアコンサルティングを実施している。