出版業界を憧れで終わらせない!出版業界の動向、会社・職種理解、求められる資質を知ろう

業界・職種・企業研究

公開日:2023.10.31

こんにちは。キャリアコンサルタントの加藤田です。 出版業界は、文系学生を中心に非常に人気の高い業界です。また、採用人数が少ないため、採用倍率は100倍を超える企業が多く、就活生にとっては非常に狭き門といえます。とはいえ、出版業界については「年々市場規模は縮小」といった記事や、「活字離れが続く中で将来性はどうなのかな?」といった声を見たり聞いたりすることがあるのではないでしょうか。

出版業界は単に「本」を作る場所ではありません。文化、知識、感動が生まれる場であり、「情報の発信元」としての役割だけでなく、「ヒトやモノ・コトを繋げる」といった役割も担っています。また、近年では消費者のライフスタイルの変化に合わせ、デジタルアプローチによる新しいビジネスモデルの構築など常に変革を続け、新しい価値を生み出しています。 今回は、出版業界の仕組みや動向、大手出版社の特徴、職種や求められる資質などについてご紹介します。

出版業界の仕組み

まずは、出版業界の仕組みを理解するところから始めましょう。出版業界は、「出版社」「出版取次」「書店」という、大きく3つの関係者から成り立っています。「出版社」は書籍や雑誌などの企画・制作を行い、本を完成させ、「出版取次」は本を各書店へ流通させ、「書店」は本を販売するという流れになっています。

日本の出版業界には独特の流通形態があります。なぜなら、書店はその特性上売れる本だけを扱えば良いというわけではなく、一部の読者のみに必要とされる専門書や文化・教養分野など、売れるか否かを問わず様々な分野の本を読者に届けられるよう用意しておく必要があるためです。また、出版社が自社だけで全国の書店へ本を届けることは、膨大なコストと手間がかかります。そのため、出版取次という流通業者(出版商社)が出版社と書店との間に入って本を流通させるという仕組みになっています。これは日本の出版業界に特有の制度であり、二大取次会社である「日本出版販売」と「トーハン」が売上で業界シェアの80%近くを占めています。そして、この流通形態を維持するために重要な制度が、「委託販売制度」と「再販売価格維持制度」です。

■委託販売制度

出版社は販売活動をせず取次会社と書店に委託し、書店は一定期間内であれば、売れ残った本を返品できるという制度です。出版社側のメリットは、書店の店頭に本を並べてもらうことで、その本の宣伝効果が期待できること。一方、書店のメリットは、書物が売れ残った際のリスクがないことです。

■再販売価格維持制度(再販制度)

出版社が書物の定価を定め、書店で定価販売ができる制度です。本をはじめとする著作物は文化的な価値があるため、誰もが平等に楽しむことができる必要があります。そのため、定価販売により「全国どの地域でも同じ価格で本を購入できる」という、読者が出版物に接する公平な機会を図ります。

出版業界の動向

■過去からの傾向

業界全体の売上は、1996年をピークに20年以上減少が続きました。特に雑誌市場は、インターネットやスマートフォンの普及、少子高齢化の影響により大きく減少しています。書籍市場はベストセラーの有無で大きく変動するものの、減少幅は雑誌より少なく堅調に推移しています。一方、電子書籍は年々増加しており、売上はほぼ毎年2桁成長を遂げています。結果、出版物全体(紙媒体と電子出版の合算)も2018年以降上向きに転じ、3年連続で上昇しています。

■直近(2022年)

出版物(同上)の推定販売金額は、前年比2.6%減の1兆6,305億円で4年ぶりに前年割れとなりました。

要因は主に2点挙げられます。1つは紙出版の減少、もう1つは電子出版の成長鈍化です。紙出版は、コロナ特需の終息や、物価高の影響により購買力が低下しました。特に雑誌の落ち込みが見られます。電子出版は、前年比7.5%増の5,013億円と伸びていますが、前年までの2桁成長にはブレーキがかかりました。これは、2019年以降続いたメガヒット作品、『鬼滅の刃』(集英社)、『呪術廻戦』(同)、『東京卍リベンジャーズ』(講談社)の映像化などによる売上が一服したことがあります。

電子出版市場は、過去8年間で約4.4倍の市場に成長しています。出版市場における電子出版の割合は3割を超えており、「紙」の減少を「電子」が補う、といった状況になっています。

■新たなビジネスモデルの構築 ~顧客への価値提供方法が大きく変わる~

まず、コンテンツ市場の規模*1は、世界全体で拡大しています。日本の市場規模は、2021年で約12兆9,454億円です。さらに、世界では2021年で1.16兆ドル(約149兆円)、2025年には1.31兆ドル(約183兆円)に拡大すると推計されており、市場にはビジネスチャンスが広がっているといえます。

また、近年は日本の出版業界はテクノロジー活用により、デジタルメディアの強化、電子書籍の展開、ネットと映像、書籍やアニメとゲームの融合など、新たなビジネスモデルの構築を進めています。例えば、KADOKAWAはメディアミックスの進化によるIP*2創出力の強化や、多様なプラットフォームを構築し、「つくる」だけでなく「届ける・楽しむ」まで創造することを目指し、海外展開も積極的です。講談社では、2020年ソフトバンクと協業し、運営施設「ミクサライブ東京」で、5Gを活用した新たなLIVEエンターテインメントコンテンツを発表しています。集英社は2019年、DeNAと一緒にエンターテインメント事業の開拓に乗り出しています。光文社では雑誌のWEBメディア化により、SNSに写真などの一次情報をアップしてからWEB上で記事化するアプローチを展開しています。

このように、市場の規模拡大や変化、消費者のライフスタイルの変化に合わせて、『顧客への価値の提供方法の変革』が大きく進んでいます。

※1:市場規模:ゲーム・出版・オンライン広告・音楽・ラジオ・映像を含む)
※2:IP(Intellectual Property):知的財産と訳される概念。クリエイティブな活動によって創作されたアイディアや表現、商業上有用になりうる情報など、知的財産として価値をもつものを指す。
参考:出版科学研究所  『出版月報』 2023 年1 月25日
参考:経団連ポリシー「Entertainment Contents ∞ 2023」(二次利用、2023年4月11日)

大手出版社の特徴

ここからは、出版業界の中でも出版社について掘り下げます。この記事では、出版大手4社、KADOKAWA、集英社、講談社、小学館の特徴をご紹介します。

KADOKAWA
出版、映像、ゲーム、WEBサービス、教育、IP体験施設運営など、幅広い事業を展開する総合エンターテインメント企業です。出版では年間約5,000タイトルにおよぶ新作を発行、文学・漫画・ライトノベル・エンターテイメント・学術など幅広いジャンルのIPを創出しており、ライトノベル分野ではトップクラスのシェアで多くのヒット作品を生み出しています。中期経営計画では、優れたIP創出力とテクノロジー活用により、さまざまな形で世界に届ける『グローバル・メディアミックスwith Technology』の推進を基本戦略に掲げており、2023年3月期は売上高、営業利益ともに過去最高を達成しています。

集英社
小学館の娯楽誌出版部門として分離して発足し、現在はコミック誌やファッション誌など幅広いジャンルを手掛ける総合出版社です。『Myojo 明星』や『週刊少年ジャンプ』など長寿雑誌を多く抱えています。また、漫画『ONE PIECE』や、直近では『鬼滅の刃』『呪術廻戦』がメガヒットを記録しています。さらに、漫画作品のキャラクターがクロスメディア展開されることがあり、編集力とマーケティング戦略を組み合わせてヒット作品を生み出すことが得意と言えます。小説やビジネス書なども幅広く手がけており、ジャンルの広さが特徴ともいえます。

講談社
2024年に創業115周年を迎える老舗の総合出版社です。『おもしろくて、ためになる』というキャッチフレーズを編集方針とし、多様なジャンルの出版物を手がけており、特に文学や漫画分野で強みを持っています。2015年以降はデジタルシフトを加速、ビジネスモデルの再構築を進める中、IPを中心とした総合エンターテイメント企業に変貌を遂げています。また、文化事業にも積極的で、文学賞の主催による人気作家の輩出や、読書推進活動などにも取り組んでいます。

小学館
2022年に創業100周年を迎えた総合出版社です。小学生を対象とした学年別学習雑誌を発行する教育専門出版社から始まりました。現在は、幅広い年代向けの雑誌・書籍・コミックを発行していますが、その成り立ちから特に、図鑑や辞典、百科事典などの教育関連出版物や幼児向け書籍を得意としています。また、教育へのコミットメントが強く、書籍と連動した体験型施設運営や親子向けのコンテンツも展開し、家庭と学校の連携を支援しています。

出版業界は社歴が古くかつ非上場の企業が多い業界であり、上記大手4社もKADOKAWA以外は非上場です。それぞれ異なる分野やジャンルで強みを持ち、多彩なコンテンツを提供しています。各社ホームページの「歴史・沿革」などからもその特徴などを読み解くことができるので、広く深く情報を収集することをおすすめします。

出版社で活躍する主な職種と求められる資質

出版社における職種は、「編集、WEBディレクター(デジタル)、営業、版権管理、広告宣伝、デザイナー・フォトグラファー」など、非常に幅広くあります。今回は、出版社の代表的な職種をいくつかピックアップしてご紹介します。

■編集 
主に、出版物の企画、著者への執筆依頼や打合せ、編集・制作を行います。扱うジャンルで仕事内容は変わってきます。例えば、コミックでは新人作家の発掘と育成、作品のアニメ化・映像化やキャラクターグッズの監修、ファッション誌では、WEBサイト、SNS・動画などの編集・作成、取材交渉、モデルやカメラマンの手配や調整、スタイリストとのコーディネートチェックなども行います。編集は、作品に関わる全ての業務を行うプロデューサー的な役割を担っているともいえます。
求められる資質:旺盛な好奇心や柔軟な発想、企画力、調整力、コミュニケーション力、文章力など。

■WEBディレクター(デジタル制作・デジタル戦略)
電子書籍や電子コミック、Webメディアの企画・制作、編集や配信、販売促進や運営など、デジタルコンテンツビジネスに関わる業務を行います。また、通販サイトの企画や運営といった、ネットビジネス開発なども行います。特に、デジタル戦略は出版業界にとって最も重要な課題といえ、テクノロジーを活用して紙メディアとの相乗効果を図る仕掛け作りや新しいビジネス構築など、経営的な視点も求められます。
求められる資質:戦略的思考、情報感度の高さや情報収集力、旺盛な好奇心、企画力、コミュニケーション力など。

■営業
「書店営業」と「広告営業」の2種類があります。書店営業は、書店に対し、販売促進プランやフェア開催といった企画提案などを行います。また、担当編集者と全国の書店に営業をする場合もあります。営業のミッションは、「自社作品の売上を伸ばすことで担当顧客の売上最大化に貢献する」ことといえます。また、広告営業は、雑誌や書籍の中身に設ける広告枠を、企業に宣伝し掲載してもらうことで広告収入を増やします。
求められる資質:データを読み解く力、企画力、発想力、コミュニケーション力、挑戦心など。

■版権管理
主に著作権に関連した業務を行います。例えば、書籍やコミックのアニメ化や映画化、テレビドラマ化やゲーム化、舞台化の際、著者から委託された「権利」をもとに、複製や販売、契約や出資交渉などを行います。“コンテンツの価値を最大限に高めていく“ことがミッションといえます。また、企業や自治体とのコラボ企画、海外での出版や販促などを行う場合もあります。
求められる資質:企画力、戦略的思考、情報感度、コミュニケーション力など。

出版社の新卒採用は、職種別ではなく総合職一括採用が多い傾向です。研修期間の中で適性を判断し、配属を決定します。その職種に「より適性が求められる」資質もあれば、どの職種にも「共通して求められる」資質(=出版社全体が求める資質)もあります。それぞれの職種や仕事内容を理解することで、出版社全体が、前例がない取り組みにも積極的に取り組む挑戦心や情熱、新しいものに挑戦することを面白いと思えるマインド、こだわりぬく力、相手と信頼関係を構築できるコミュニケーション力、などが求められることはおわかりいただけると思います。

まとめ

ここまで、出版業界について解説してきました。いかがでしたか?業界のイメージが少しでもつかめたなら嬉しいです。

出版業界の仕事は、新しいものを創り出し、周囲と協力しながら世の中に届けていく面白さがあります。また、出版業界は、伝統的な紙出版の本だけにとどまらず、どんどん変革を続けています。ぜひいろいろと調べてみてくださいね。

PROFILE

加藤田綾子(2級キャリアコンサルティング技能士・キャリアコンサルタント)
新卒で野村證券株式会社に入社、国内リテール部門で営業に従事する。その後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社(旧:東京三菱証券)に入社。投資銀行部門で、主にカバレッジバンカーとして上場企業の資金調達やアドバイザリーなど資本政策案件に携わる。現在は独立し、企業研修、大学での就職支援講座や非常勤講師として授業も行う。カウンセリング実績は9,000人以上。米Gallup社認定ストレングスコーチ、一社)アンコンシャス・バイアス研究所認定トレーナー、日本コミュニケーション能力認定協会本部トレーナー。

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