退職代行サービスを利用するリスクご存じですか?【弁護士が答えます】
就活ノウハウ公開日:2024.08.07
これから社会人になろうとしている皆さんにとって縁起でもない話ですが、「会社を辞めたい」と思ったときに使うかもしれない「退職代行サービス」。便利なサービスですが利用リスクについてはあまり知られておりません。本記事では近年、注目を浴びる退職代行サービスの利用リスクについて弁護士が解説します。
退職代行サービスとは
会社を辞めようと思ったとき、正攻法でいえば、会社に対し、労働者自身が退職の意思を伝えることになるでしょう。しかし、現実には、退職をする際に会社から圧力をかけられることなどを恐れ、「自分で退職の意思を伝えるのは嫌だな…」と思うこともあります。このような労働者の感情に着目し、近年、「退職代行サービス」というビジネスが運用されています。
退職代行サービスとは要するに、「あなたに代わって、退職の意思を会社に伝えます」というビジネスです。多少の費用がかかっても自分の代わりに退職の意思を伝えてほしいという需要は多いようで、東京商工リサーチが企業を対象に行ったアンケート※によると、9.3%の企業が「社員が退職代行サービスを利用した退職」を経験しています。
※出展元:東京商工リサーチ『2024年 企業の「人材確保・退職代行」に関するアンケート調査』
退職代行サービスの仕組み
退職代行サービスは、サービス業者が労働者の代わりに退職意思を伝えるものです。ここで注意しなければならないのは、「代わりに退職意思を伝える」という行為の法的な意味です。
「ある人の代わりに意思を伝える」という行為を考えるとき、法的には二つの分類が存在します。ひとつは「代理」、もうひとつは「使者」です。
「代理」とは、本人の代理人として、本人の代わりに意思を伝える行為を意味します。「弁護士が代理人として訴訟を提起する」といった場合が典型例です。対価を得て他人の代理人となることができるのは、原則として弁護士のみです。
「使者」とは、本人の意思を、いわばメッセンジャーとして伝える行為を意味します。使者として本人の意思を伝えることは、弁護士でなくとも可能です。
退職代行サービス業者は、「本人の代理人としてではなく、使者として退職の意思を伝えている」という仕組みのもと、弁護士でなくともビジネスを成立させています。たしかに、この仕組みであれば、ビジネスとしての違法性は回避できるかもしれません。
しかし、法律的にみると、退職代行サービスにはリスクも潜んでいます。
退職代行サービスのリスク
退職代行サービスには致命的なリスクがあります。それは、「退職代行サービス業者が使者として伝えた退職意思を、会社側が素直に受理するとは限らない」というリスクです。
よく考えてみましょう。仮にあなたが人事担当など会社側の立場として、ある日突然、退職代行サービスから退職のメッセージが届いたとします。そのとき、「この退職意思はたしかに労働者本人のものである」という事実をどのように確認すればよいのでしょうか?
会社としては、「労働者本人のものか確かでない退職意思を受理することはできない。本人に直接意思確認をしたい。」と考えるかもしれません。そうなった場合は、せっかく退職代行サービス業者を利用したのに、結局会社と直接話をしなければ手続が進みません。
「退職代行サービス業者を通じて退職意思を伝えたのだから、会社と直接話をする必要はない!」と割り切ってしまう考えもあり得るでしょう。しかしその場合、会社は、「本人の意思確認ができない以上、退職は受理できない。今後出社しないのであれば、無断欠勤として扱う。」という態度に出ることもあり得ます。無断欠勤状態が続けば、いずれは解雇ということに…。
「解雇でも辞められるならいいや」と思う方がもしいるなら、考え方を改めましょう。そもそも自己都合による退社は文字通り、自身の判断で退職したことを意味し、解雇は会社の都合や判断によって従業員の意志に関係なく、退職させることを指します。会社を辞めるということは同じでも、この二つは大きく異なります。解雇の場合、再就職をする際に理由によっては採用に不利な印象(「この人、前の会社で何か問題を起こして解雇されたのでは?」などと考えられる)を与える可能性もあります。
どうでしょう?法的なリスクを分析してみると、結構怖いですよね。
もちろん実際には、法的な処理が深く検討されないまま、退職代行サービスを利用して退職したケースが多いのだと思います(そうでなければビジネスとして成立しないでしょう)。ただこれは、結果オーライに過ぎません。
退職代行サービスの利用は、くれぐれも慎重に検討しましょう。
PROFILE
定禅寺通り法律事務所
下大澤 優弁護士
退職代行、残業代請求、不当解雇、パワハラ・セクハラなど、数多くの労働問題を取り扱っています。これまでにも、発令された配転( 転勤) 命令の撤回、未払残業代の支払など多くの事例を解決しています。