よく聞く年俸制とは?残業代やボーナスは出るの?【弁護士が答えます】
就活ノウハウ公開日:2025.05.07

新卒の皆さんが就職活動をする中で、「年俸制」を導入している企業を目にしたことがあるのではないでしょうか。本記事は月給制に比べてあまり理解されていない年俸制の特徴、残業代やボーナスの有無について弁護士がお答えします。
そもそも年俸制とは?
そもそも年俸制とは何を意味するのでしょうか?
少し小難しく表現しますと、年俸制とは、賃金の全部または相当部分を労働者の業績等に関する目標の達成度を評価して年単位に設定する制度を意味します。
重要なのは、 ①1年単位で賃金の額を決定すること、②賃金額は労働者の成果を評価して決定されること、の2点です。
「年俸」と聞くと一番にイメージするプロ野球選手も、結果を出せば翌年の年俸が上がり、逆に結果を出せなければ翌年の年俸は下がりますよね。プロ野球選手ほど極端な成果主義ではないものの、サラリーマンの年俸制も成果主義を前提としたものだということです。
年俸制のメリット・デメリット
年俸制にはメリットもありますし、もちろんデメリットもあります。
労働者から見た場合のメリットは、成果に応じた賃金を受け取りやすいということです。年功序列の月給制とは違い、がんばって結果を出せば、相応の賃金をもらうことができます。がんばった分だけ賃金がアップするのなら、働く側にもやる気が出ますよね。そのためキャリアアップのモチベーションに繋がりやすくなるのも年俸制のメリットです。
しかしデメリットは、翌年以降も現在の賃金額が支払われる保障がないことです。これはメリットの裏返しですが、結果を出せず、人事査定が下がると、翌年の年俸額も下がる可能性があるということです。
年俸制の場合、残業代やボーナスは出るの?
年俸制における残業代の有無
「年俸制だと残業代は支払われないのでは?」という誤解も生まれがちです。
実は、
年俸制を採用した場合でも残業代は発生します。年俸として定められた賃金額は、あくまでも労働基準法所定の労働時間(1日8時間、週40時間)の範囲内を前提としたものですから、これを超過して働けば残業代は発生するのです。
なお、応用形として、年俸制に固定残業代制を組み込むこともできます。「年俸額には、月〇〇時間分の時間外手当として△△円を含む」といった定め方です。このような制度を採用することはできますが、労働者が固定残業時間を超えて時間外労働を行った場合、会社はその分の残業代を追加で支払わなければなりません。
年俸制は「定額働かせ放題」の制度ではありませんから、誤解のないようしっかり理解してください。
年俸制におけるボーナス(賞与)の有無
年俸制の場合にボーナスが支給されるかどうかも、わかりにくいポイントかと思います。
そもそもボーナスに関しては、法律によって支給が義務付けられているものではありません。月給制だろうと年俸制だろうと、ボーナス制度があれば支給を受けられるし、制度がなければ支給は受けられません。
企業によっては「年俸額+業績に応じたボーナス」という方式もあり得ますし、「年俸額にボーナスを含める(別途ボーナスは支給しない)」という方式もあり得ます。
年俸制における退職金の有無
「年俸制だと、会社を辞めるときに退職金が支給されないのでは?」と思う方がいらっしゃるかもしれません。
ただ、実のところ、年俸制だから退職金が貰えないというものではありません。退職金をもらえるかどうかは、「会社が退職金に関する定めを置いているかどうか」によって決まります。退職金の制度がない会社であれば、月給制だろうと年俸制だろうと退職金はもらえません。他方で、退職金の制度がある会社ならば、年俸制であっても退職金はもらえます。ボーナス同様に企業が制度として設けているか否かが重要な点になります。
年俸制についてよくある質問
■Q:年俸額は定期的に変更される?
A:はい、変更されます。
年俸制の場合、一定のスパンで年俸額の見直しが行われます。
年俸が上がる場合には労働者としてはウェルカムですが、逆に下がる場合、大きな不利益となります。会社が年俸の減額を考えた場合、やりたい放題に減額ができるわけではありません。年俸制を採用する以上は一定の評価基準が存在するはずですから、その評価基準が適切かどうか、基準にしたがって労働者に対して、なされた評価が適切かどうか、といった点を吟味し、年俸減額の適切さを判断することになります。
■Q:欠勤した場合、年俸は減額される?
A:この答えは、欠勤した場合の賃金減額の定めがあるかどうかによって変わります。就業規則などに、欠勤した場合の賃金控除の定めがあれば、その定めにしたがって年俸が減額されます。逆に特に定めがなければ、欠勤をしても年俸額は減額されないと解釈すべきです(もちろん、欠勤が多くなれば評価が低くなり、結果として年俸額が下がることはあるのですが)。
ただし、一般的には風邪などで休む場合、年次有給休暇(有休)を消化するため欠勤扱いにはならないことがほとんどです。有休の付与日数は法律で決まっており、年俸制でも有休を取得できますので、多くの方は減給の心配はしなくても大丈夫でしょう。ただし、有休が残っていない場合や細かいルールに関しては会社ごとに異なるため、心配な場合は採用担当者に確認しておくと安心です。
年俸制をしっかり理解すれば心配することはない
年俸制を採用する会社に入社しようと考えている方は、評価基準は特に確認しておいた方がよいでしょう。
年俸制には、労働者にとってのメリットもあります。ただしそれは、適切な評価基準が存在し、その基準に従って適切に評価がなされてこそ成り立つものです。企業にとっても労働者にとってもシビアな面はありますが、きちんと運用することができれば労働者使用者の両方にとって魅力的な制度であるといえるでしょう。本記事を参考に、不明点があれば解消して満足のいくキャリアを見つけましょう。

PROFILE
定禅寺通り法律事務所
下大澤 優弁護士
退職代行、残業代請求、不当解雇、パワハラ・セクハラなど、数多くの労働問題を取り扱っています。これまでにも、発令された配転( 転勤) 命令の撤回、未払残業代の支払など多くの事例を解決しています。