これって「パワハラ」?【弁護士が答えます】
就活ノウハウ公開日:2024.12.25
「パワハラ」という言葉は、もちろん皆さんもご存じかと思います。もはや、社会の一般用語として完全に定着した言葉ですね。ただ、「パワハラ」という言葉を正確に理解しようとすると、意外に難しいと思います。実際の裁判でも、何が「パワハラ」に該当するかを判断することは決して容易ではありません。難しい問題ではありますが、この記事ではパワハラについてできる限り解説をしてみたいと思います。
「パワハラ」の定義とは?
そもそも、「パワハラ」の定義とは何でしょうか?民法や労働基準法などに定めがあるのでしょうか?
実は、法律上「パワハラ」を定義した条文は存在しないのです。法律上は、民法に定められた「不法行為」(他人の権利利益を侵害する違法行為)の一類型として処理されています。
なお、法律上の定義ではありませんが、厚生労働省が定めた「パワハラ」の定義は次のとおりです。
「職場において職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的、身体的苦痛を与えることや職場環境を悪化させる行為」
一文で理解しようとすると難しいのですが、要件を分解すると、①職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、②業務の適正な範囲を超えて、③身体的苦痛を与えることや職場環境を悪化させる行為、という3つに分けられます。
②と③は理解しやすいと思いますが、注意すべきは①です。一般的な感覚でいうと、「パワハラ」は上司から部下に対してなされるものと考えがちです。しかし、①には「人間関係などの優位性」も含まれますので、同僚同士のパワハラ、場合によっては部下から上司に対するパワハラも起こり得るわけです。たとえば、上司が部下に何らかの弱みを握られ、それを背景に部下からのイジメを受けるといった場合、部下から上司に対する「パワハラ」がなされたことになるでしょう。
「パワハラ」の具体例とは?
「パワハラ」の定義を概観したところで、実際にどのような行為が「パワハラ」に該当するのかを考えていきましょう。大まかに分けると、「パワハラ」に該当する行為の類型は次のとおりです。
①身体的な攻撃(暴行)
②脅迫、名誉毀損、侮辱、暴言など
③無視、仲間はずし
④業務上明らかに不要なこと等の強制
順番に考えていきましょう。
まず、①は当然「パワハラ」ですね。
②は、「お前はこんな仕事もできないのか!」などと言われたような場合です。業務上必要な指導をすることは当然ですが、人格否定をする必要はありません。
③は、要するにイジメですね。このようなことをされた側は精神的苦痛を受けますし、コミュニケーションが阻害されれば業務にも支障が出ます。
④は、業務命令にかこつけて嫌がらせをするような場合です。いわゆる「追い出し部屋」(ひたすら書類をシュレッダーにかける業務を命じるなど)などはこれに該当します。
まとめ
「パワハラ」から自身や周囲の人を守るために、どのようなケースが該当するのか言葉の定義や例を理解しておくことは大切です。また皆さんが社会人になり、キャリアをスタートさせた際に残念ながら「パワハラ」に直面してしまった場合は一人で抱え込まずに信頼できる人や相談窓口に助けを求めるようにしましょう。
PROFILE
定禅寺通り法律事務所
下大澤 優弁護士
退職代行、残業代請求、不当解雇、パワハラ・セクハラなど、数多くの労働問題を取り扱っています。これまでにも、発令された配転( 転勤) 命令の撤回、未払残業代の支払など多くの事例を解決しています。