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プロの視点

江上 剛作家・コメンテーター

金融ビジネスを知り尽くす元・銀行マン作家が語る、超一流のビジネスパーソン論

<第7回>2016.11.30
格好いいビジネスパーソンになるためにやっておくべきこと



会社の中で活躍している人は、周囲から見ても格好よく見えるものです。今回は、長年金融業界を見てきた経験を基に、“格好いいビジネスパーソン”になるためには何が必要かを僕なりにお伝えできればと思います。将来、みなさんが金融業界で活躍するためのヒントになるかもしれませんね。

会社に寄りかかるのではなく、自分の基盤となる考え方や信念を磨こう

僕は、第一勧業銀行(現みずほ銀行)の広報部、人事部等に在籍していたことから、さまざまな方と知り合う機会に恵まれました。しかし一方で、金融業界で名の通った方が、ある日突然退職を余儀なくされる現実を、この目でいくつも見てきました。それは本人にとって予想できないことだったでしょうし、昨日までエリートだった方がただのおじさんになってしまう現実が存在することを、まず金融業界を志す人には認識してほしいと僕は思っています。

もし自分の勤める銀行が、ある日なくなってしまうと仮定してみてください。10年ほど前には米大手投資銀行グループが一夜にして消滅し、日本国内でもこの20年間で10以上の銀行が破綻しています。僕は、銀行員という職業が安定しているとは決して思っていません。こうした事態に直面した時、いくら社会的信用度がある銀行に身を置いていた者であっても、新たな食い扶持を探す必要に迫られることも十分考えられます。銀行に無事入れたからといって安穏としてはいけません。自分の立ち位置が会社と共にあると、その会社が揺らげば自分も揺らぐことになります。

大切なのは、常に「自分は人としてどこに立っているのか?」を自問自答することです。自分がどのようなポリシーやベースの考え方を持って仕事に臨むべきかを常に意識していれば、判断に迷ったり、気持ちが揺らぐといったこともないでしょう。

私が書いた「失格社員」という短編集に「主の名を妄りに唱えるなかれ」という話があります。モーゼの十戒をタイトルに据えたこの一遍に込めたテーマは、「自分の考えを持たない人間は偉くなった時に自分の言葉がなくなってしまう」といったものです。つまり、自分の立ち位置を考えていないと、意思や信念が抜け落ちた人間になってしまうことを示唆しています。格好いいビジネスパーソンになるためには、会社だけによりかかるのではなく、絶えず自分の基盤となる「考え方・信念」を研磨することも忘れないでいて欲しいです。

「徳は孤(こ)ならず 必ず隣あり」

社会的信用度が高く、安定的な仕事に携われる点から銀行員を志す人も多いと思います。でも、サラリーマン生活が長かった僕の感想としては、組織が大きければ大きいほど「上司の言うことには逆らえない」「逆らうこと自体が面倒くさくなる」という空気が蔓延していることは否めません。

例えばメガバンクに勤めていたとして、外資が開発した保険の新商品を売り込むように会社から指示されたとしましょう。そこには、その商品がお客様にとって真に欲するものかを熟考するフェーズが抜け落ちることになります。つまり、お客様より会社の利益が優先される不可解な「正義」に出くわすことも将来的にあり得るわけです。そういった難しい状況で自分はどう行動するべきかについて、今のうちから考えておくことも必要でしょう。

僕の場合はというと、この連載でもお話ししてきましたが、若手だった頃は納得いかなければテコでも動きませんでした。そして、そうした行動が災いしてか、上司に怒鳴られることも日常茶飯事(苦笑)。でも、どうして納得いかないことに首を縦に振らなかったかと言うと、「お客様の役に立ちたいと思って銀行に入った」からです。だから、たとえ上司に嫌われようが、明日銀行がなくなろうが、お客様のためにと考える姿勢はなんらブレることはありませんでした。

とはいえ、孤軍奮闘の身では反発にも限度がありました。そんなときに思い浮かべたのが、「論語」のこんな一節です。「徳は孤(こ)ならず 必ず隣あり」。意味は、「徳のある人は孤立することはない。必ず理解者・協力者が現れる」といったところです。実際、この言葉通りに難局でも僕を理解し、助力してくれる人に恵まれました。そのおかげで信念を貫き、正々堂々と正論が言い続けられたといえます。行員時代のそうした気構えで培ったさまざまな経験が糧となり、今日の僕があるのだと思っています。皆さんも将来、苦しい場面にぶつかったらこの言葉を思い出してみてください。

格好いいビジネスパーソンになるための第一歩

これは一例ですが、まだまだ女性役員が少ない銀行業界でも、遅くとも10年後には世間の多様化の潮流によって、重要なポジションで多くの女性が活躍する日がくると僕は考えています。社会の転換期の中で、金融業界もますます競争が激化していきます。生存競争に打ち勝つためにも「この学生は骨があるな」「会社に貢献してくれそうだな」と感じさせてくれる人材を、性別問わず欲する方向性が加速していくことは間違いありません。

これから社会に出る皆さんは、こうした転換期で最も脂がのった活躍期を迎えることになりますので、今から「40代、50代の自分がどうなっていたいのか」という人生の青写真を描くことが、格好いいビジネスパーソンになるための第一歩となるはずです。

転換期にある金融業界。それは別の見方をすればチャレンジングな仕事に取り組めることを示唆していますし、皆さんの英知と行動力が、未来の銀行、そして金融業界をカタチづくっていくことになるのです。僕が行員だった当時にお客様のことを第一に考えていた気構えは、いつの世においても普遍のことです。皆さんも自分なりに磨いた気構えを基盤に、学生時代に興味がある物事をとことん突き止めながら、人間としての深みを増し、社会人となった暁には、格好いい会社員になって、新たな金融のあり方を構築してほしい……心からそう願っています。

Profile

江上 剛
Go Egami

1977年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。梅田・芝支店の後、本部企画、人事関係、高田馬場、築地各支店長を経て2003年3月に退行。1997年「第一勧銀総会屋事件」に遭遇し、広報部次長として混乱収拾に尽力。銀行員としての傍ら、2002年「非情銀行」で小説家デビュー。退行後、作家として本格的に活動。「失格社員」(新潮社)はベストセラーに。最新刊は「病巣 巨大電機産業が消滅する日」(朝日新聞出版)。フジテレビ「Mr.サンデー」などにも出演中。