1977年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。梅田・芝支店の後、本部企画、人事関係、高田馬場、築地各支店長を経て2003年3月に退行。1997年「第一勧銀総会屋事件」に遭遇し、広報部次長として混乱収拾に尽力。銀行員としての傍ら、2002年「非情銀行」で小説家デビュー。退行後、作家として本格的に活動。「失格社員」(新潮社)はベストセラーに。最新刊は「病巣 巨大電機産業が消滅する日」(朝日新聞出版)。フジテレビ「Mr.サンデー」などにも出演中。
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江上 剛作家・コメンテーター
金融ビジネスを知り尽くす元・銀行マン作家が語る、超一流のビジネスパーソン論
<第2回>2016.09.21
やんちゃさで突き抜けた面接と若手行員時代
今日の就活は活用メディアやツールが多岐にわたり、便利な半面、その情報量の多さから取捨選択が難しい面も否めませんね。僕の時代は「就活」という言葉はもちろん、スマホもPCもなく、就職活動のあり方も現在とは大きく異なるものでした。
でも、どんな時代であっても、「良い人材を採用したい」という企業側の思い、そして「自分にふさわしい会社で働きたい」という学生側の思いに変わりはありません。
僕が入った銀行業界はお堅くてまじめなイメージが強いですが、僕自身は、面接のときにしろ若手行員時代にしろ、逆に持ち前の“やんちゃ”さがはまった感があります。今回はそんな“はまった”ときのエピソードをご紹介します。
面接官への率直すぎる発言で、内定を獲得
初めての就活、そして志望動機すら用意していなかった自分にとって、予想外の展開で旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)での面接がスタートしてしまったわけです。1次面接では、「何か質問は?」と聞かれ、特に何も考えていなかった僕は面接官に「サラリーマンってつらくないですか?」という率直な質問をぶつけてしまいました。すると、これがきっかけになったのか、逆に面接官の方からどんどん話が出てくるようになり、思いがけず聞き役に回ることになりました。続く2次面接では、「僕のような不まじめな学生を採用すると、迷惑をかけることになりますよ」といった生意気な発言を連発。しかし、面接官の器が大きかったことが幸いし、僕のそうした発言にも「銀行の組織は大きいから、君のような個性的な学生が行く部署はいくらでもあるよ」といった具合に軽いジャブで切り返されました(笑)。
結果として予想外に話が弾み、留年というマイナスポイントがあったにもかかわらず、就活1社目で内定をいただくことになったわけです。採用された理由は今も定かではありませんが、「こいつ面白いな」と思わせる“個性”が頭ひとつ抜き出ていたこと。それが面接官の印象に強く残ったことは確かでしょう。
不まじめの殻を破り、真摯に仕事を全うしようと決意
これまでにも「早稲田大学政治経済学部から旧第一勧業銀行に入行」という僕の経歴を見た多くの人から、「さぞや優秀な学生さんだったのでしょうね」と声をかけていただく機会もありました。しかし実際のところ、学生時代の僕は金融業界を目指すどころか、前回連載で書いたとおり“その日暮らし”のいたって不まじめな若者だったわけです。
しかし内定をいただいてからは、それまでの生活とは縁を切り、行員として仕事を真摯に全うしようと決意しました。そうはいっても“やんちゃ”な性格は、そうそう簡単に修正できるものではありません。入行後は、失敗談とも武勇伝ともとれるエピソードに事欠きませんでした。
「なんだよ、おまえ、新人だったのか!」
入行後すぐに大阪の梅田支店に配属されたときのできごとです。まだ入寮すらしていないタイミングで、支店の先輩から「野球の支店対抗試合があるから練習に参加しろ」と声をかけられたものですから、指定された日にグラウンドに行ってみたんですね。すると、あいさつもそこそこに中学・高校時代に捕手をやっていた経験を買われ、その場で任されることに。
そこまではよかったのですが、僕は「捕手は試合の流れをコントロールするチームの中心選手」という認識でいましたから、練習中に相手構わず「何やってんだ!」「声を出せ!」「走れ!」「グダグダするな!」と檄を飛ばしたわけです。そして練習が終了し、メンバーが集まった場で「明日から梅田支店でお世話になります。よろしくお願いします」とあいさつしたところ、先輩全員が固まり「なんだよ、おまえ、新人だったのか!」と(笑)。草野球では欠員が出た場合、外部から助っ人を呼ぶことがありますが、先輩たちは僕のことを応援要員だと思っていたらしいんです。
図らずして「梅田支店にイキのいい新人が入った」というウワサは瞬く間に広がっていくことになります。これが僕の行員生活のスタートとなったわけですが、そのウワサにたがわず、配属後も指示が理解できなければ納得いくまで質問しましたし、上司であっても間違っていると思えば徹底的に反論し、決して折れることはありませんでした。
こうした僕の経験から皆さんにアドバイスするとすれば「組織が大きければ大きいほどファーストインプレッションが大事」ということでしょうか。つまり、あまたいる新入社員の一人として埋没してしまうのか、あるいは顔と名前をすぐに覚えてもらえるような差異を発揮し、いち早く自分の存在を印象づけられるか……。これが、その後の長い会社員生活の中で、非常に重要な役割を果たすことを、しっかり覚えておいてほしいです。
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