1977年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。梅田・芝支店の後、本部企画、人事関係、高田馬場、築地各支店長を経て2003年3月に退行。1997年「第一勧銀総会屋事件」に遭遇し、広報部次長として混乱収拾に尽力。銀行員としての傍ら、2002年「非情銀行」で小説家デビュー。退行後、作家として本格的に活動。「失格社員」(新潮社)はベストセラーに。最新刊は「病巣 巨大電機産業が消滅する日」(朝日新聞出版)。フジテレビ「Mr.サンデー」などにも出演中。
- Columns
- プロの視点
江上 剛作家・コメンテーター
金融ビジネスを知り尽くす元・銀行マン作家が語る、超一流のビジネスパーソン論
<第1回>2016.09.07
こうして、不まじめだった僕は
金融の世界に足を踏み入れた
僕の大学時代というと、かれこれ40年以上前のことになります。当時を振り返ってみると、アルバイトや読書に明け暮れていて、授業にきちんと出なかったものだから見事に留年。ふがいない毎日を過ごしていました。
金融業界を志す学生の皆さんの中には、そんな不まじめだった僕が、なぜ旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)に就職できたのかと、不思議に思う人も多いことでしょう。
この連載では、若かりし頃の僕のエピソードを交えながら、金融業界のことや、社会人として働くということに対する僕なりの考え方をお伝えしようと思います。これから社会に出る皆さんに、少しでも“気づき”を提供できればうれしいです。
不まじめを絵に描いたような大学時代
まずは、僕が郷里の兵庫から上京し、早稲田大学政治経済学部に入学した頃の話から始めましょう。当時の僕は、高校時代の成績が優秀だったこともあり、「大学生活も就職もなんとかなるだろう」と甘く考えていて、とても不まじめな気持ちで大学生活をスタートさせました。
当然、世の中はそんなに甘くありません。まじめに授業に出なかったことがたたって見事に留年し、お正月やお盆にも実家に帰れないというふがいない学生になってしまったのです。普通であれば、留年した時点で罪悪感や焦りを感じて襟を正すものなのでしょうが、僕の場合は不撓不屈の不まじめぶり(笑)。5年次になっても就職活動はおろか、就職する気さえまったくなかったのです。
僕が大学生だったのは1970年代前半。今の学生さんには想像できないでしょうが、その頃は携帯電話もパソコンもコンビニもなく、読書といっても手頃な文庫本などなく、主流は価格が高めのハードカバー本。本が読みたくても手が出ない僕に救いの手を差し伸べてくれたのは、下宿近くで書店を営んでいた店主の方でした。その方から「出世払いでいいよ」と提供していただいたバルザックやドストエフスキーといった文豪の全集を、下宿にこもって読みふけっていたものです。
まともに就活をしていない状況で、銀行の面接へ
本ばかり読んでいては当然生活に困窮します。そこで僕はあらゆるバイトに精を出すことになるのですが、それまでにかなりの時間を読書に費やしたこともあって、どうせなら活字に触れる仕事がしたいと考えました。あまりおおっぴらには言えないですが、ストリップ業界紙の記者など、一風変わったアルバイトにいそしんで生活費を工面していました。
そんなある日、同級生から「第一勧銀で働く先輩から“誰かいい人いない”って言われているんだけど」と声をかけられたんですね。ここで言う“先輩”とは、今で言うリクルーターでしょうか。1970年代はオイルショックの影響もあって就職難の真っただ中でしたし、銀行の初任給はだいたい8万円くらい。アルバイトでそれ以上の収入があった僕としては、就職しなくても生きていける自信がありましたし、ましてや留年した自分が銀行に入れるとは到底思っていませんでした。軽い気持ちで「とりあえず面接だけ行ってみよう」と返事をしたことが、僕の人生が動き出す“事の始まり”になったのです。
それで、指定された土曜日に丸の内本店に行ったものの、到着したのは昼過ぎ。当時の銀行は土曜日も営業していたのですが、営業は昼まで。もう時間は過ぎてしまっているし、とりあえず近くまで来た証拠を残すためにも、紹介してくれた人に義理を果たすためにも、東京駅から電話をしておこうと思い、慣れないスーツに窮屈さを感じながら公衆電話から電話してみたんです。すると、案に相違して「こちらに来てください」と。断るすべもなく本店に到着したところ、あれよ、あれよという間に面接が始まってしまいました。
── 結果として、金融業界はおろか、就職さえまともに考えていなかった僕が、わずか1社目で第一勧業銀行から内定を獲得。1977年の入行以来26年にわたって銀行員としての生活を送ることになるわけです。就活はもちろん、若手行員時代も型どおりでなかった僕の経験を通して、これから社会に出る皆さんに、さまざまな“気づき”を提供できればと考えています。なぜかうまくはまってしまった面接のエピソードは、<第2回>の連載でご紹介します。
Profile
- 江上 剛
- Go Egami