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1000円の着服で1200万円の退職金がゼロに?【弁護士が答えます】

就活ノウハウ

公開日:2025.07.16

1000円の着服で1200万円の退職金がゼロに?【弁護士が答えます】

この記事のタイトルを見た方の中で、「せっかく何十年も働いたのに一つの過ちで退職金がゼロになることなんてあるの?」と思われる方も少なくないかもしれません。実はそんなことが実際に起こりえることを皆さんご存じでしょうか。本記事ではどのようなケースで退職金がゼロになる可能性があるのか、弁護士が解説します。

1000円の横領で退職金支給ゼロ?

2025年4月17日、退職金に関して興味深い最高裁判決が出たのはご存知でしょうか?
かいつまんで説明しますと、勤続約30年の市バス運転手が、運賃1000円を着服し、懲戒解雇を受け、退職金約1200万円が不支給になったという事案です。
この判決に関しては、「1000円の横領で1200万円の退職金がゼロになるというのは可哀想じゃない?」という意見もあれば、「横領したんだから、退職金がゼロになるのは自業自得でしょ」という意見もあると思います。
まずはそもそも退職金とは何か、みていきましょう。

そもそも退職金とは?

「退職金」という言葉はメジャーですが、その性質については意外と知らない方も多いと思います。

退職金とは何かといえば、あくまでも会社が自主的に定めた上で、退職する労働者に支給するお金です。実は会社には、退職金を支給する法的な義務はないのです。

ただし、就業規則等で退職金の定めをした場合、会社と労働者との間で、雇用契約上の義務が生まれます。会社が退職金の支給を定めた場合には、合理的な理由なく、「やっぱり退職金は払わない」とすることはできません。
そもそも会社がなぜ退職金の支給を定めるかといいますと、その理由は大きく3つに分類されます。
1つ目は、賃金の後払い的性質です。要するに、退職金は、本来給料として支給すべきものを積み立て、退職時に一括で支払う性質だということです。
2つ目は、功労報償的な性質です。要するに「今まで会社のためにがんばってくれてありがとう。ご褒美として退職金を払います。」という意味です。
3つ目は、生活保障的な性質です。労働者は、退職後に収入を失うことになりますから、退職後の生活を維持できるよう退職金を支給するということです。

市バス運転手に下された最高裁判決は妥当なのか?

最高裁判決の論理は、「公金(市バスの運賃なので、公金です)の着服は、それ自体重大な非違行為※である。よって、懲戒免職は妥当であるし、退職金の不支給も妥当である。」というものです。
※非違行為:法律や就業規則等に違反する行為全般

論理としては明確ですが、「ちょっと待って」と思うところがあります。それは、先ほど述べた賃金の後払い的な性質に関連します。
退職金の性質には、「賃金の後払い」が含まれます。退職金には、本来であれば過去に支給されるべきであった賃金も含まれるということになります。そうしますと、公金の着服があろうと、「本来払われるはずだった賃金の部分まで不支給になるのはあんまりではないですか?」という疑問が生じます。
退職金の「功労報償的な性質」を重視すれば、公金着服によってこれまでの功労は帳消しとなり、退職金不支給はやむを得ないという判断もあり得るかもしれません。ただ、今回ご紹介したケースでは、わずか1000円の着服です。1000円であっても着服は着服なのですが、それまでの功労を帳消しにするほどの行為かというと、本件の判決の妥当性は議論が分かれそうです。
現に、最高裁判決の前に出された高裁判決では、退職金の全額不支給は行き過ぎであるという判決で出ていたのです。この高裁判決が、最高裁でひっくり返ったわけです。
なお、今回ご紹介した事案では、労働者は市バスの運転手であり、公務員の立場にありました。このように労働者が公的な立場にあったという事情は、退職金不支給を是とする判断に影響したのかもしれません。公務員ではなく民間の会社の事案であった場合、異なる判断が下される可能性もあるでしょう。

退職金は「企業からの感謝の証」。信頼を裏切ることゼロになることも

1000円でも着服は着服ですし、それで退職金を失った方も実際にいるわけですから、学生の皆さんは就職した際にちょっとした出来心で予想もしていなかったことに繋がるケースがあるということを覚えておきましょう。また企業選びの際は退職金の有無だけではなく、企業のルールや価値観、自分との相性など広い視点でみることが長く働く上でのポイントになります。そのためにもしっかり自己分析を行い、理想の就職先を見つけていきましょう。

下大澤 優弁護士

PROFILE

定禅寺通り法律事務所
下大澤 優弁護士
退職代行、残業代請求、不当解雇、パワハラ・セクハラなど、数多くの労働問題を取り扱っています。これまでにも、発令された配転( 転勤) 命令の撤回、未払残業代の支払など多くの事例を解決しています。

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