上司のパワハラをこっそり録音することは適法?【弁護士が答えます】
就活ノウハウ公開日:2024.08.28
これから皆さんが社会人になった際に、残念ながら自身もしくは同僚が上司からパラハラ(パワーハラスメント)を受けたとします。その際の対処として証拠を残すために録音を考える人は多いのではないでしょうか。そこでパワハラの証拠として録音を行うことは法律の観点から問題がないのか、弁護士がお答えします。
無くならないパワハラ被害
あまり考えたくはない話ですが、世の中の会社には一定数のパワハラ事例が存在します。パワハラによる被害を報じるニュースは後を絶ちませんが、それでもパワハラが無くならないのが実情です。
パワハラ被害を受けた場合、被害者は、自身の身を守るために措置を講じることを余儀なくされることもあります。具体的には、会社が設置するハラスメント窓口に相談する、場合によっては裁判等の手続で加害者(会社も含む)の責任追及をする、といった措置です。
しかし、自衛のための措置を講じるといっても、第三者が被害者の主張を簡単に信じてくれるとは限りません。実際にパワハラがあったかどうか、第三者に事実を信じてもらうことは簡単ではありません。
そこで思いつくのが、「上司のパワハラ発言をこっそり録音してしまうのはどうか?」という方法です。録音であれば、上司からどのようなパワハラ発言があったかを説明することは容易になります。
でも他方で、「会社内での発言をこっそり録音することは違法じゃないの?」という疑問が浮かびます。上司に対し「今からあなたの発言を録音します」と宣言したのでは、パワハラの証拠を確保できる可能性が低くなりますので、どうしても「秘密録音」に踏み切らなければなりません。次に、会社内での秘密録音について、法律の観点から解説します。
裁判における証拠の「証拠能力」と「証明力」の違い
ある証拠を裁判で提出するとき、「証拠能力」と「証明力」という概念が問題となります。この二つは区別がつきにくいので、簡単に解説しておきます。
「証拠能力」とは、裁判において、その証拠を証拠として採用することができるか、という概念です。違法に収集された証拠を裁判で採用してしまうと、正義に反します。そのため、違法に収集された証拠は裁判から排除しようということになるわけです。たとえば、他人の家に忍び込んで盗んだ書類を証拠として提出しようとしたら、証拠能力は認められません。
「証明力」とは、その証拠が、ある事実を立証する上でどの程度の価値をもっているかという概念です。たとえば、人の様子をそのまま記録する録音・録画は、証明力が極めて高い証拠です。反面、日記などは、客観性が担保されていないので証明力が低いとされることが一般的です。
秘密録音は「証拠能力」の問題
前の説明を読めばおわかりいただけたと思いますが、秘密録音の適法性とは、「証拠能力」の問題です。つまり、「秘密録音は違法であり、これを裁判の証拠として採用することはできないのではないか」ということです。秘密録音には、「録音される側のプライバシーなどの利益を侵害する」という性質があります。もし皆さんの日常会話が常に録音されているとしたら、自由に会話をすることができなくなるであろうことは想像に難くないでしょう。この意味では、秘密録音には法的な問題があります。
他方で、秘密録音は、他人に暴力を加えたり、他人の物を盗んだりという行為を伴うわけではありません。外見上は、密やかに穏当に録音がなされるわけです。明らかに反社会的な手段で証拠が収集される場合とは異なります。
現在の最大公約数的な見解からいえば、パワハラの証拠を確保するためになされた秘密録音は、裁判の証拠として用いることができます(=証拠能力がある)。これは、秘密録音が明らかに反社会的な方法であるとはいえず、かつ、パワハラを立証するための代替手段が乏しいという理由に基づきます。
おわりに
今回は、いざという場合に皆さんの身を守るための秘密録音について解説をしました。ただ、不必要に会社の様子を録音することは止めておいた方がよいでしょう。不必要に継続的な録音をすると、下手をすれば懲戒処分の理由にもなりかねません。何事も、やり過ぎには注意です。
PROFILE
定禅寺通り法律事務所
下大澤 優弁護士
退職代行、残業代請求、不当解雇、パワハラ・セクハラなど、数多くの労働問題を取り扱っています。これまでにも、発令された配転( 転勤) 命令の撤回、未払残業代の支払など多くの事例を解決しています。