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人的資本経営の鍵、DE&Iで組織の未来を拓く
年齢、性別、人種、障がいの有無、性的指向や性自認などを異にする多様な人材を受け入れて尊重し、個人の力が発揮できる環境を整える「DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)」への取り組みが、今、多くの企業で進められている。人材の多様性は、新たな価値創造の原動力にもなる。変化の激しい時代にあって、日本経済を支え続ける使命を持った金融機関でもDE&I推進は極めて重要なテーマだ。
人的資本経営
商工中金の組織風土改革
商工中金は現社長の関根氏が2018年に就任して以来、大幅な組織風土改革を行い、近年では人的資本経営に取り組んでいる。組織風土改革の契機となったのが、2016年に発覚した全店規模での制度融資に関する不正事案である。不正事案に関する第三者委員会の報告書では、「業績へのプレッシャー」「コンプライアンス意識の低下」「ガバナンス体制の欠如」といった原因が示された。当時の商工中金は良い意味でも悪い意味でも同質性が非常に高い、いわゆる上意下達の指揮系統であった。関根氏は、社員一人ひとりに問題があるのではなく、風通しの悪い閉ざされた組織体制が不正発生の原因であると考えた。
そこで「組織の風通しを良く、社員が明るく元気に、前向きに働ける環境」を目標とし、組織風土改革のためさまざまな施策に取り組んだ。例えば、本部から各営業店に割り振られる業績の数値目標(ノルマ)を撤廃し、社員同士や、社員と管理職、営業店と顧客といった対話の機会を増やすことで、それぞれの地域のお客さまに合った事業計画を立てられるようにした。また、関根氏自身も「顧客とどう向き合うか」「どうやって自分を成長させるか」といった業績以外の切り口で、毎週1,200字ほどのブログを書き、社員へのメッセージとして配信した。
その結果、外部機関によるリーダーシップに関する調査では「指示命令型」のスコアが大きく下がり、代わりに「ビジョン型」「関係重視型」「民主型」などのスコアが大幅に伸びた。現在の商工中金では、多様な形のリーダーシップが生まれたことが、堅調な業績に結び付いている。まさに、組織風土改革が人的資本経営につながったといえる。
関根正裕 代表取締役社長
人的資本経営とパーパス
商工中金では、金融機関らしく人的資本経営をバランスシート(=財務諸表の一種)で示している。成長の源泉には社員のエンゲージメントやマイパーパス(=各人の行動指針・ありたい姿)があり、成長のテコとなる部分には人財育成やリスキリング、キャリアサポートといった取り組みを置いている。
人的資本経営の実現には、「自分たちがどういう存在で、何を目指すのか。それに向けてどうあるべきなのか」を各人が行動指針として持ち、自発的に仕事に取り組むことが重要である。これを具現化したのが現在の企業理念=パーパス『企業の未来を支えていく。日本を変化につよくする。』の策定である。これは、約4,000人にのぼる社員全員が議論に参加して策定されたものだ。また、会社としてのパーパスの自分事化のため、各社員が「マイパーパス」を策定した。初年度の議論では手挙げで募った85人のファシリテーターのうち、17人が新入社員であるなど、若い世代の前向きな力に触れ、議論を重ねることができたと感じたと関根氏は話す。
企業内大学校:コミュニケーションスペース
社員が最大限力を発揮できる制度・環境の整備
さらに人的資本経営を進めるうえで、社員のWell-Beingの向上やDE&I推進を達成するため、人事部を改組し、「キャリアサポート部」と「DE&I推進部」を設立した。従来、金融機関では人事部の力が強い傾向があり、人事が社員の人生を決めていると思われるような部分もあったが、キャリアサポート部とDE&I推進部が両輪で、社員一人ひとりが自分の人生を自身で切り拓けるようサポートする体制とした。具体的には2023年4月に企業内大学校を設立し、社員の自律的なキャリア形成やリスキリングを促進しており、現在では、研修受講や人事異動も、手挙げ制度を中心としている。また、キャリア形成にあたりライフプランとの両立もサポートしており、2024年4月には大幅な人事制度改正を行った。一例として、「全国転勤を伴うコース」から「転居を伴わないコース」への移行について、配偶者との結婚や一定の年齢に達したタイミングで柔軟な変更が可能となり、さまざまな背景を持つ社員が最大限力を発揮できる環境を目指している。
「これまでは社会の中に商工中金があり、その中に自分がいるという考え方でした。それをまず、自分を基軸にして捉え直し、自分や相手の価値観を大切にしたうえで、どう企業や社会に貢献できるかを意識しながら事業を進めてほしいと考えます」と関根氏は語る。
企業理念に共感し、自ら考えて行動する人財への投資を積極的に行う商工中金の人的資本経営の取り組みは、お客さまである中小企業の未来を支え、日本を変化につよくすることにつながっていくに違いない。
記者の目 WEB限定
古くから「金融は社会の血液」と言われる。デジタル化が進み高度に進化した今日の日本社会においても、金融がビジネスを動かし、そこで生まれた商品やサービスが市民の生活を支えていることは変わらない。一方で「社会」とは何か。我々が暮らしを営む場所であることはわかるが、「社会」と一括りにしてしまった場合、目線が大きすぎて目の前の何かを見過ごしてしまいそうになる。
商工中金が「お客さまの企業価値向上のため、変革しつづける人財」を掲げ『人的資本経営』に注力するのは、目の前にあるものを大切にしているからではないか。会社として「社会」という得体のしれない大きなものを見ながら仕事をするのではなく、社員一人ひとりが目の前にいる人を大切にとらえ、コミュニケーションを重ねる。そして、そのために自らを磨く。そうした姿勢によるリアルな仕事が、今の商工中金を支えているように感じられる。
社員全員で議論して定めた「企業の未来を支えていく。日本を変化につよくする。」というパーパスも、決して大きな話ではない。「未来」「日本」という言葉はたしかに大きいが、商工中金の社員の活動は地に足がつき、中小企業を支えることにしっかりとフォーカスされている。それにより社会が活性化し、未来が日本がより良く変わっていく。社会の隅々にまで金融というソリューションを届ける同社の活動は、社会に欠くことのできない存在である。
株式会社商工組合中央金庫(略称/商工中金)
事業内容 | 中小企業への経営支援総合金融サービス |
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資本金 | 2,186億円(うち政府保有株式=1,016億円) |
店舗数 | 国内=102 海外=5 |
職員数 | 3,383名 |
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