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注目記事2023.9.13

D&I、その歴史と背景とは

ダイバーシティ(Diversity)という言葉は、今やすっかりおなじみのものとなりました。近年ではインクルージョン(Inclusion)とセットで「D&I」というキーワードで取り上げられることが多くなっています。日本語に訳すとダイバーシティは「多様性」、インクルージョンは「包括」「包含」「一体性」。なぜ今「D&I」が重要な施策と受け止められているのか、その歴史的な背景から振り返ってみましょう。

企業価値向上の有効策として

ダイバーシティの歴史をさかのぼると、1950年代のアメリカに行き着きます。当時アメリカでは黒人差別に対するキング牧師らの公民権運動が高まっており、1964年には公民権法(Civil Right Act)が成立しました。

つまりダイバーシティは人種差別への反対から生まれたものであり、公民権法の成立によって人種差別撤廃やマイノリティへの機会平等化が徹底され、フェアな社会を築くための一歩だったとされています。

その後アメリカでは、企業価値を高めるためには、女性の活用に積極的な企業、人種や性別に関係なく誰もが活躍できる企業というイメージを打ち出すことが有効であるとの考え方が広がり、その手段としてダイバーシティ経営が重視されるようになっていきました。

さらにビジネスのグローバル化が急速に進んだことで、文化や習慣の違いを乗り越えてコラボレーションする機会が増え、ダイバーシティ環境で仕事をすることが一般的になってきたのです。

日本では新たな活力を生むために

アメリカで起きた新しい潮流は、時を置いて日本でも起きるものです。ダイバーシティも同様で、日本では1980年代から1990年代にかけてダイバーシティという考え方が広がり始めました。

当時の日本では男女の雇用差別などが問題になっていた時代。そこで差別是正のために1985年に「男女雇用機会均等法」が制定されて男女の雇用の差が禁止され、続けて1999年には「男女共同参画社会基本法」が制定されて、企業における男女の人権を尊重することが義務づけられました。

そして2000年代に入ると「育メン」「育ボス」という言葉も生まれるなど、育児や家事は女性の役割といった固定概念も変わり始めたのです。

こうした流れの背景にあったのは、日本が人口オーナス期に入ったことです。オーナスとは「負担」「重荷」という意味。生産年齢人口(15~64歳)の高い状態を人口ボーナス期と呼び、従属人口(14歳以下の年少人口と65歳以上の老年人口の合計)の比率が高い状態を人口オーナス期といいます。

日本では1990年ごろから人口オーナス期に入ったとされ、少子高齢化が顕著となり、労働力が減少しました。かつては働き手の中心だった若い男性が減少していくことは、経済的な衰退を招くことになります。そこで2010年代に入って、労働力の減少を補うために、女性のさらなる社会進出を促す流れが顕著になりました。さらに少子高齢化による人手不足が深刻化するにつれて、外国人労働者の受け入れにも積極的になっていきました。こうして日本でダイバーシティが浸透していったのです。

ダイバーシティを後追いするように広がってきたのが、インクルージョンの概念でした。多様性を持つチームや組織は、異なる視点や経験を共有・融合することで、単一的な組織にはない創造性やアイデアを生み出す可能性が高いという研究が進むにつれ、ビジネス界では組織の多様性とインクルージョンをより積極的に推進しようとする考えが強くなり、組織内外で多様性と平等の概念を強調する言葉として「D&I」が普及していきました。

組織内で異なる背景を持つ人々が尊重され、平等な環境で活躍できることを重視する姿勢が、多様性とインクルージョンの概念を支える一翼となっています。

ダイバーシティは多様な人材が集まっている状態で、インクルージョンはそうした人材が相互に機能している状態のこと。要するに、女性・外国人・障害者などの雇用を増やすだけでなく、活躍できる環境が整っていて、初めて「D&I」と呼べるわけです。

1人ひとりの違いを認め、受け入れた上で、その違いを個性として発揮できる環境や制度が整っていることが重要となります。

“名ばかり”から真のD&Iへ

最近ではエクイティ(Equity)を加えて、DE&Iを掲げる企業も増えてきました。

エクイティとは公平性のこと。異なる個性を受け入れる際は、個々の差を考慮して公平になるように調整することで、初めて個性を活かすことができるというわけです。

一方で「D&I」について言葉だけが先行しているという指摘もあります。いわゆる“名ばかりダイバーシティ”です。例えば女性の採用人数は増えているものの、業務においては性別役割分業意識が残っているようなケースも見受けられます。

こうした状況を改善するため経済産業省では、真のダイバーシティ経営への転換を促す「ダイバーシティ2.0」の考え方を打ち出し、そのために取るべき行動を定めたガイドラインも発表しました。

こうしたことから真の意味で「D&I」が浸透していくのはこれからが本番といえるかもしれません。

2022年に内閣官房が「人的資本可視化指針」を発表し、金融庁が人的資本に関する情報を有価証券報告書に記載することを求めているように、人的資産の重要性は高まる一方です。特に目に見えない商材を扱っている金融業界・企業にとって、最大の財産は人材であることはいうまでもありません。

人材のポテンシャルを最大限に引き出し、活用する上でD&Iは非常に重要であり、金融業界・企業の成長に不可欠です。D&Iの導入に意欲的な企業が金融業界で多いことも納得できます。

まとめ

「女性と外国人を採用することがダイバーシティ」と誤解された時期もありました。現在ではD&Iに対する正しい認識が定着し、企業経営の重大なテーマとして受け入れられています。金融業界を中心に、今後のさらなる浸透に期待したいところです。