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注目記事2022.09.07

企業の価値は、非財務情報で左右される時代に

「あの人は立派な人だ」と聞いて、あなたはどんな人物像をイメージしますか? 決して「立派な人=お金持ち」ではないでしょう。誠実さや穏やかさ、度量の大きさなど、数字には表せない“人柄”について連想すると思います。

実は人間だけでなく、企業についても同様の見方が強くなっています。お金、つまり財務的なモノサシではない情報によって企業の価値が計られる時代になったのです。

サステナブルな社会を目指す流れの中で

“企業価値”という言葉をよく耳にします。文字通り、その企業全体の価値を示すもので、くだけて言うなら“企業の値段”ということになります。

“値段”ですから、企業価値は基本的にお金で示されることになります。これは事業の価値をはじめ、例えば事業以外の所有不動産などの資産も含めた数字の積み上げで計算されます。こうした数字を「財務情報」と呼びます。

人間に例えるなら、年収や貯金の額、持っているマンションやクルマの価値などを計算するようなイメージです。財務情報は財務諸表などで確かめられる“目に見える数字”です。反対に“目に見えない数字”となるのが「非財務情報」です。

実は今、この非財務情報の開示を求める動きが国際的に強まってきています。

象徴的なのがTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures=気候関連財務情報開示タスクフォース)による提言を巡る動きです。

TCFD提言とは気候変動によってどのようなリスクを受けるかを明確にする仕組みのようなもので、日本ではプライム市場の上場企業に対してその開示が義務づけられました。投資家はTCFD提言対応を投資の判断材料とすることができます。

こうした動きの背景には、ESG経営が重視されるようになってきたことがあげられます。

今世界は、環境問題や食糧問題、人権問題、生物多様性など、複雑で多様な課題を抱えています。企業が中長期的な成長を続けていくにはこれらの課題とどう向き合うかが問われており、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の要素を考慮した経営が必須となりました。

逆に言えばESG経営の意識が低い企業は、長期的な成長が期待できない企業であるという見方をされることになります。このESGへの取り組みはまさに目に見えない非財務情報そのもの。企業にとってますます重要な情報となってきています。

金融機関の存在価値が一層高まる

企業にとって非財務情報が重要なものになってくる中、金融機関の果たす意味も大きくなっています。

もちろん金融機関は工場を動かしてものづくりをすることはなく、車を走らせてモノを運ぶわけでもありません。それなのにESGの領域で大きな影響力を持つのはなぜかというと、あらゆる業界のあらゆる企業の活動を下支えする、まさにインフラとしての存在だからです。

例えば環境問題や人権問題に目を背け、自社の成長にのみ力を注ぐ企業があったら、サステナブルな社会づくりを目指す観点から、その企業が非難を浴びることは避けられません。成長力を失い、存続の危機にさえ立つかもしれないのです。

融資先がそのような状況に陥ることは金融機関にとって大きなリスクですから、金融機関は融資先に対してESG経営に力を入れ、非財務情報の価値を高めるように指導するでしょう。実際、ESG面での対策が不十分な企業に対しては融資打ち切りの可能性があることを明らかにする金融機関もあるほどです。

このように企業にとって非財務情報の重要性が高まるにつれて、金融機関の果たす役割、プレゼンスも大きなものになってきたのです。

非財務情報の価値を高めるためのサポート

もちろん金融機関の果たす役割は、先に挙げた融資打ち切りのようなネガティブなものばかりではありません。むしろ積極的にESG経営を促し、非財務情報の価値を高めていくための支援に力を入れるポジティブなものがほとんどです。その一例が、最近日本でも注目されているサステナビリティ・リンク・ローンです。

これは企業がSDGsやESGに関連したサステナビリティ経営の目標達成に向けて融資を行うというもので、例えば日本政策投資銀行(DBJ)では東急や川崎重工業に対して実行しています。

東急では、鉄道事業において、環境に配慮した設備の導入や再生可能エネルギーの活用に力を入れており、東急線全路線で実質CO2排出ゼロの電力にて電車を運行しています。一方の川崎重工業は、日本のカーボンニュートラル達成に欠かせない「水素サプライチェーン構築」に取り組んでいます。

DBJではこれらの融資を通じて企業のサステナビリティ経営の実現を支援しています。

なおDBJではESGという言葉がまだ一般的ではなかった2004年に、世界で初めて企業の環境経営度を評点化し優れた企業を選定する融資メニューである「DBJ環境格付」融資を開発したほか、2011年には、環境・社会への配慮がなされた不動産を支援する「DBJ Green Building認証」を創設するなど、この分野での先進的な取り組みを行っています。

まとめ

企業の短期的な利益を重視する風潮はリーマンショックを契機に薄れていき、代わって中長期的な成長力を重要視する考え方が強くなってきました。非財務情報の重みが増してきたのもその表れと言えるでしょう。皆さんのこれからの「どんな企業を選ぶのか」という判断にも、ぜひ非財務情報の企業価値という要素を加えてはいかがでしょうか。