仕組みから攻略する 面接対策PART4 面接(前編)
ES・選考対策公開日:2023.04.03

採用活動と面接は切っても切り離せないものです。ご存じの通り、採用活動にあたりほとんどすべての企業が面接を実施しています。つまり就職活動を成功させるということは、面接の壁を突破するということに他なりません。
それゆえ、みなさんの周りにはさまざまな面接対策情報があふれていると思いますが、それらはあまり本質的ではない情報が多いように見受けられます。
私はこれまで多くの企業の面接を設計してきましたが、企業の面接は詳細に考えられており、「こういう質問にはこう答えればOK」というように、暗記的な対応が可能なものではありません。それにもかかわらずネットの情報を見ると、面接の質問に対する回答例や、「面接官が聞きたいのはこういうことだ」といった解説がたくさん載っています。
面接を設計している立場で言うと、回答例はほとんど役に立たないように感じます。また、面接を解説しているものについても、適切な説明をしているものは多くありません。情報があふれている中、みなさんが情報を正しく取捨選択することは簡単ではないでしょう(情報収集しないよりは良いかもしれませんが)。
面接とは、トランプに例えるならば、あなたの持っているカードをすべて提示して、企業が欲しいカードと合致するかどうか、お互いに確認するような作業だと言えます。カードを操作して強く見せたりできるようなものではないですし、「こうすれば勝てる」というような考え方も適切ではありません。
大切なことは、企業がどのようなカードを欲しているのかをきちんと理解したり、自分の持っているカードをきちんと提示できるようにしておくことなのです。
では、「企業が欲しているカードを理解する」「自分が持っているカードをきちんと提示する」にはどうすれば良いのでしょうか。それらを正しく理解してもらえるように、企業が面接をどのように設計しているのか、説明していきたいと思います。
企業が面接を設計する際に重視しているポイント
企業が面接で実現したいことは何でしょうか。
ひと言で言うならば、「求める人財像」を見極めることです。
以前、企業の「求める人財像」は、さまざまな観点から時間をかけて作成されるとお話ししたのを覚えているでしょうか。
「求める人財像」を構成する観点には、例えば以下のようなものがあります。(※詳細は第1回「求める人財像とは」を参照)
「求める人財像」を構成する観点例

これらの観点の中には、実は面接で評価しやすいものと、評価しづらいものがあります。
例えば、②知識やスキルは面接ではなく、テストを実施したほうが確実です。これはみなさん学生生活で十分体験されていることと思います。⑥性格や、⑦基本処理力も同様に、面接官が面接で評価するよりも、テストを行って数値化したほうが適切な結果が得られます。性格は面接でも分かりそうなイメージがありますが、心理学のプロでもない面接官に、30分足らずで人の性格を評価させるのは設計上間違っていると言わざるを得ません。
③動機・意欲、④興味・志向、⑤価値観はどうでしょうか?
「志望動機を教えてください。」
「○○業界のどのようなところに興味を持ったのですか?」
「私どもの企業のどのようなところに共感していますか?」
といった質問は、実際に面接でよく確認されている観点だと言えます。
(巷にあふれている面接の一問一答例はこれらの観点に関するものが多いと思います。)
ただ、「求める人財像」を見極めるという目的において、③動機・意欲、④興味・志向、⑤価値観は最重要視されているものではありません。面接した結果、「モチベーションが高い順に合格にする」「興味が強いほど合格にする」「自社に共感が強いほど合格にする」というような考え方をする企業はみなさんが思うよりも少ないのです。
その理由は、主に以下の通りです。
・複数の受験者を比べてどちらが優位なのか結論を出すことが難しい
・事前に回答を用意できる質問であり、本当のところが分からない
・モチベーションや興味は面接時と入社時で変化してしまうことが多い
では最も重要な観点はなんでしょう。それは、①の行動特性です。
行動特性を評価するための面接設計
現在企業が行っている面接の設計で、最も一般的なものが行動特性を評価する面接です。これらは「コンピテンシー面接※」とか、「構造化面接」などと呼ばれています。
面接では、受験者から普段の学生生活で取っている行動(もしくは過去に取った行動)を質問して聞き出します。その回答と、自社の「求める人財像」として設定した行動特性を比較して評価を行います。
例えば、「いろいろな考え方を持った人の集団の中で何かを成し遂げなくてはいけないときに、主体的にリードし、必要な人に働きかけ、成果を出すまで行動し続ける」という行動特性が「求める人財像」だったとします。
直接的には、「いろいろな考え方を持った人の集団の中で……、最後まで行動し続けたことはありますか?」という質問になります。しかしそう質問してしまうとその場で創作して回答されてしまうので、「学生時代に最も力を入れた取り組みについて教えてください」というように質問します。
この面接手法では、面接官の役割はひねった質問や意地悪な質問をしてひらめきや反応を見ることではありません。一番大切な役割は、受験者の普段や過去の行動について、新聞記者の取材のように情報収集することです。
それゆえ、受験者が話すエピソードに対し「そのときの役割は?」「一人でやったの?」といったような確認はもちろん、「もうちょっと詳しく話してください」とか「具体的に話してください」といった指示も多くなります。
受験者が思うより詳細に確認されるので、エピソードを創作しているような場合には、チクチクとプレッシャーがかかることになるでしょう。それを、圧迫面接をされたと誤解する人もいるようです。
人は実際に体験したことであれば容易にいくらでも思い出して答えられるものです。面接官を繰り返し経験していると、創作し考えながら回答していることはその様子で分かってしまうものです。
誰もが気になる合格基準の設定方法
では受験者から「学生時代に最も力を入れたこと」を聞き出し、行動特性に関する情報を収集した後、どのように合格か不合格かを決めているのでしょうか。
合格基準を決めておくことは企業にとってとても重要です。決めておかないと、同じ回答を聞いても評価の甘い面接官と評価の厳しい面接官がいた場合に、結果が食い違ってしまうからです。
そのため企業では、面接の前に「評価項目」と「評価基準」というものを用意します。それらはもちろん、自社の「求める人財像」に沿うように作られています。
言葉で説明するとややこしいので、イメージしやすいように図にしてみました。
合格基準の設定
求める人財像(例):
「いろいろな考え方を持った人の集団の中で何かを成し遂げなくてはいけないときに、
主体的にリードし、必要な人に働きかけ、成果を出すまで行動し続ける」
「求める人財像」をそのまま評価に利用すると面接官によって結果が食い違ってしまうので、行動特性を「評価項目」として抽出。

1:評価項目の設定

「評価項目」だけでは合否をつけられないので、「評価基準」を決める。

2:評価基準の設定
評価項目 | 評価基準 | ||
レベル1 | レベル2 | レベル3 | |
リーダーシップ | 支援を受けながら周囲の人を導くことができる | 周囲の人を導き理想的な結果を出せる | 周囲を動機づけ尊敬も集めつつ、理想的な結果に導ける |
働きかけ力 | 身近な人であれば働きかけることができる | 考え方や価値観が異なる人に対しても働きかけることができる | 年齢や国籍も異なる環境で、考え方や価値観が異なる人に対しても働きかけることができる |
実行力 | 必要なことについては継続できる | 多少の困難があっても最後までやり遂げる | 困難に適切に対処し最後までやり遂げ良い結果を出している |

面接では、受験者に対して、「リーダーシップが3、働きかけ力が2、実行力が3」というように各項目の評価を行い、最終的な合否を決定します。
以上が、最もオーソドックスな面接評価の行い方です。
面接に対して何を準備しておくべきか
今回説明をしてきたことをまとめると、みなさんが面接のために準備すべきことは、以下の2つになります。
- ・面接先の企業の「求める人財像」を、特に行動特性の面から理解すること
- ・その人財像に自分が合致することを面接官に理解してもらえるように、学生生活の取り組みから話すべきエピソードを選択し、そのときの行動をよく思い出し、わかりやすく話せるようにしておくこと
エピソードは、特別なものでなくてもかまいません。説明してきたとおり、エピソードの特殊性や面白さで合否が決まるわけではありません。求める人財像に主体性が掲げられていたならば、あくまで「主体的に行動したことが伝わるエピソードは何だろう」という観点で考えてみると良いと思います。
逆に、自分の話したいエピソードが認められそうな求める人財像を掲げている企業を探してみるのも良いと思います。
ごく一部の企業では、ひねった質問や意地悪な質問をして反応を見るといった面接をしていることもあるようです。そうした面接に対して、事前に何が正解かを考えることは難しく、あまり意味のあることとは言えません。
それよりもまず、今回説明した、基本であり多くの企業が採用している面接手法に対して、しっかりと対応できるようにしておくことが大切です。

PROFILE
小宮健実
株式会社採用と育成研究社 代表
米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手がけている。