仕組みから攻略する 面接対策PART2 採用広報

ES・選考対策

公開日:2023.04.03

前回、企業が人を採用する時には「求める人財像」を作成し、選考時の評価やその後の育成にも使用しているという説明をしました。


今回は「求める人財像」を作成した後に行われる広報活動の話をみなさんにしたいと思います。
採用活動に伴う広報活動は、一般に「採用広報」と呼ばれています。

企業の採用担当者には、人を選ぶだけではなく、自社の魅力を学生に伝えるという仕事もあります。優良企業であっても学生に知られていなければ応募してもらえません。そこで採用広報によって応募者を集めることがとても重要になるのです。

企業の採用戦略によって変わりますが、一般的な採用広報としては、自社ホームページや就職情報サイトへの採用情報の掲載、パンフレットの作成、説明会の開催などがあります。

私が企業で採用担当者をしていた2000年頃は、人目をひく広報活動を行うことでたくさんの人に選考に参加してもらい、比例して増えるであろう優秀な人を採用するという戦略が一般的でした。グッズを作ったり、派手な演出を施したセミナーも数多く実施されていました。人気企業ランキングは今より注目され、結果に一喜一憂するような状況でした。

このようなコマーシャル要素の強い採用広報は、多くの応募者を集めることには適していましたが、一方で多くの応募者を落とすという非合理的な構造も生み出しました。厳しい競争を勝ち抜いて入社しても、仕事や社風に対してミスマッチが生じることもありました。

しかしその後、リーマンショックにより景気が後退し、過剰な採用広報を控えるようになったことや、3年で3割の新入社員が退職するといったデータが社会的にネガティブな認知をされたことで、採用広報は人気を重視したものから、徐々にマッチングを重視したものに変化しました。

こういった経緯から、現在企業が行っている採用広報には、「自社を多くの学生に知ってもらい魅力的に感じてもらうこと」と「自社が求める人財像をしっかりと伝え、共感してくれた学生に応募してもらうこと」の2つの目的が重要であると言えます。

特に後者については、情報を受け取るだけでなく、みなさんに考えてもらうことも必要になります。初回にも書きましたが、就職活動のゴールは入社ではなく、入社後に活躍することです。そのためには自分が「求める人財像」になるイメージをしっかりと持って応募すべきです。

企業が採用広報をつくるときの3つのポイント

みなさんは「企業研究をしなさい」と言われたら、まず何から調べるでしょうか?
企業についてはさまざまな情報があるので、いろいろな角度から見ることができると思います。

自分なりの視点を持つことも大切ですが、採用広報は先ほども述べた通り2つの大きな目的のもとに実施されています。みなさんが採用広報から本当に大切な情報を受け止めることができるようになるために、企業がどのように採用広報を作成しているかを3つのポイントに分けて説明したいと思います。

1:自社のビジネスの本質を伝えられているか

「自社を多くの学生に知ってもらい魅力的に感じてもらうこと」という1つ目の目的を達成するためには、「自社のビジネスの本質を伝える」ことが必要になります。

以前、ある自動車メーカーのホームページを閲覧したところ、「私たちの関心は車ではなく、モビリティ(移動)だ」というタイトルの記事が書かれていました。自動車にあまり興味がなかったのですが「社会全体の交通流動の理想を実現する」という、車というものをはるかに超えた概念に触れ、その会社に興味を持ちました。まさしくその企業が社会に創出している価値について、私の見方が変わったからだと思います。

自社がつくっている製品をそのまま説明しても「ビジネスの本質」を伝えられるとは限りません。ビジネスの本質を伝えるためには、「自社が社会にどのような価値を提供しているのか(どのような社会の課題を解決しているのか)」を伝えることが大切なのです。

そこで私が企業の採用活動を支援するとき、以下の図を用いて採用広報のストーリーを整理してもらっています。

自社ビジネスの本質をことばにするには

企業が学生のみなさんにビジネスの本質を理解してもらうには、広い視野、高い視点で自社を見てもらうことが必要です。
そのために何度も検討を重ね、多くの時間を費やしています。

みなさんにはぜひ上の図を参考に、企業を理解しようと努めてもらえればと思います。
今まで気づかなかった企業の魅力に触れられるかもしれません。

2:「求める人財像」を理解し共感してもらえるか

もう1つの目的である、「自社が求める人財像をしっかりと伝え、共感してくれた学生に応募してもらう」ために、企業がどのように採用広報を作成しているか説明しましょう。 「求める人財像」については前回、次のような体裁でまとめられるとお話ししました。

言葉としては難しくありませんが、このままではあまり人間味を感じないのではないでしょうか。そこで、このような人財像を採用広報として発信していくために、実際に働いている社員の体験談として伝えることが必要になってきます。

体験談では、仕事のリアルなエピソードを通じて、その仕事のやりがいや、お客さまや社会にどのような価値をもたらしているのか説明します。そして、そのような成果を上げていきいきと活躍している社員を「求める人財像」と重ね合わせて伝えます。
図示するとこのようなイメージです。

社員の体験談を採用広報に用いるための観点整理

企業は採用広報を通じてみなさんに「自分がこの仕事に合っているかどうかきちんと考えてもらう」ことを期待しています。面接の場で「説明会で聞いた○○さんの話に感銘を受けて御社に入社したいと思いました」と話す応募者がよくいます。もしかすると、採用広報にあった情報をそのまま話すことが、優等生的な発言だと思うのかもしれません。 しかし、企業は採用広報からもう少し深く読み取ってもらうことを期待しているのです。

情報を無条件で受け取り、ただ礼賛するのではなく、その情報をあくまで自分のキャリア感に照らし合わせてとらえ直し、「私は何がしたいのか」「私はどのようになりたいのか」というように、自分ごととして考えてほしいと思います。そのための材料として採用広報はあるのです。

3:効果的な手段で情報を伝えられているか

最後に、企業が採用広報を行う手段をどのように考えているかお話しましょう。

基本的には、求める人財像に近い学生(ターゲット)の属性(例えば文系・理系・留学経験があるなど)を考え、そのターゲットに対してどのような伝達手段が適切か検討します。

ほぼすべての企業が行っているのは採用ホームページや就職情報サイトへの参加や説明会の実施です。もちろん、あらゆる媒体に広告を出し、説明会を何回も開催できればそれに越したことはないのですが、採用広報には当然予算があるので、手段を厳選しなくてはいけません。そのため、紙のパンフレットの作成や合同企業説明会へ参加するかどうか、そのほかのイベントやセミナーに参加するかどうかといったことは企業で判断が分かれます。

最近では、イベントやセミナーのようなリアルに学生と接触できる場が多様化し、エンジニア志望の学生、ビジネス創出がしたい学生など、参加する学生の属性を設定することがあります。また、以前の採用広報の場は企業が参加者に自社を知ってもらう一方通行の場であったのが、企業も参加者のことを知ろうという場になっていることが増えてきました。これはその場で学生を評価しているのではなく、お互いによく知ろうとすることで、マッチングの質を高めようという考えによるものです。

このような採用広報におけるターゲットの細分化や双方向に知ろうという設定は、今年以降もますます進むと考えられます。

では、学生のみなさんは何を意識しておくと良いでしょうか。

最も心がけるべきことは、自分が学生時代をどのように過ごしてきたかをしっかりと振り返っておくことだと思います。マッチングの質を高めるために最も大切な情報は、あなたが過ごしてきた過去の事実だからです。
「振り返っても人に言えるような特別な事実は何もない」と思う人もいるかもしれません。特別な事実じゃなくても構いません。人と比べてではなく、自分の中で、「自分は何を頑張ってきたのか」言えるようにしておくことが大切です。

PROFILE

小宮健実
株式会社採用と育成研究社 代表

米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。人事にて採用チームリーダーを務めるかたわら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を行う。さらに大学をはじめとした教育機関の講師としても活躍。2005年首都大学東京チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続するなど多方面で活躍。2008年3月首都大学東京を退職し、同年4月「採用と育成研究社」を設立、企業と大学双方に身を置いた経験を生かし、企業の採用活動・社員育成に関するコンサルティングを実施。現在も多数のプロジェクトを手がけている。

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