企業のSDGsへの取り組みを加速させる上で、大きな鍵を握るのは金融機関だ。金融機関は全産業と接点を持ち、企業の事業活動、とりわけ海外展開においてSDGs推進を投融資の一指標とすることで、SDGsがグローバルに広がることになる。その意味からも、国際経済・国際金融に特化した政策金融機関である国際協力銀行の役割と使命はますます大きなものとなっている。
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- JBICが取り組む4つのミッション
JBICは、民間金融機関が行う金融を補完することを旨としつつ、4つのミッションにおいて、日本のみならず国際経済社会の健全な発展に貢献する業務を行う、日本政府が全株式を保有する政策金融機関である。
JBICの1つ目のミッションは「日本にとって重要な資源の海外における開発および取得の促進」。エネルギー資源やさまざまな鉱物資源に対する、日本企業の海外での権益取得や資源開発、輸入などの支援を通じ、資源の安定的な確保に貢献している。
2つ目のミッションは「日本の産業の国際競争力の維持および向上」で、日本の産業の国際競争力の維持・向上を図るべく、海外で事業展開する日本企業に対する支援を行っている。
3つ目のミッションは「地球温暖化の防止等の地球環境の保全を目的とする海外における事業の促進」。海外での再生可能エネルギーの推進や温室効果ガスの大幅削減が見込まれる案件など、地球環境保全効果に着目したプロジェクトへの支援を行っている。
4つ目のミッションとなる「国際金融秩序の混乱の防止またはその被害への対処」では、通貨危機や新型コロナウイルスの流行などを背景とした突発的な金融危機の際に、日本政府と連携しながら民間企業に対して時限的な特例による支援を実行するなど国際的な金融システムの安定化に貢献している。
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- エジプトでの再生可能エネルギー発電事業推進に参画
日本および国際経済社会の発展に貢献するための政策金融機関であるJBICは、世界各国でさまざまなプロジェクトに参画している。たとえば、住友商事株式会社などが出資する、エジプト・アラブ共和国法人AMUNET WIND POWER COMPANY S.A.E.社の実施する陸上風力発電事業。エジプト政府は、再生可能エネルギー由来の発電設備容量を2030年までに全体の35%、2035年までに42%に増強し、温室効果ガス排出量を2030年までに30%削減するとしたエネルギー政策の目標を掲げている。その目標遂行のための後押しとなることに加え、日本政府が2022年8月の第8回アフリカ開発会議(TICAD8)での「チュニス宣言」において表明した「アフリカ・グリーン成長イニシアティブ」推進にも合致したプロジェクトだ。
JBICは、プロジェクト内で最大規模となる2億8千万米ドル強(JBIC分)を限度とするプロジェクトファイナンス(PF)による貸付契約を2022年11月に締結している。入行2年目の若手職員岡田悠乃は、国内外のステークホルダーと交渉を重ねる中で、主要プレイヤーの一人として交渉の最前線で活躍した。当時のことを振り返り、岡田はこのように話す。
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- 若手のうちから主要プレイヤーとしてファイナンス交渉でも活躍
「化石燃料への依存が大きなエジプトでこのプロジェクトが成功すれば、持続可能な未来を実現するため、再生可能エネルギーの整備、国や地域のエネルギー移行に大きく貢献できます。だからこそ、『このプロジェクトを成功させたい』という思いを強く抱いていました。
交渉時には世界各国のレンダー、スポンサーなどの関係者が集結し、30名ほどの方々と連日交渉を行います。その中で、JBICは主要レンダーとして『JBICの意見はどうか』と注目が集まることが多々あります。自分がメインスピーカーとして、その場で話をしなければならないわけですが、当然周囲には自分より若い人はいません。かなりの緊張はありましたが、今求められている事項がJBICの融資条件に合致したものなのかなど、事前に契約書を何百ページも読み込み、JBICとして譲れるライン、譲れないラインを上司と相談しながら整理して臨みました。
そして同じくプロジェクトに参画している国際金融公社(IFC)をはじめとする他の金融機関にもそれぞれポリシーがありますから、レンダー間でも意見を擦り合わせつつ、互いの認められるラインを探り合いながら交渉妥結を目指し、協議を重ねていきました。日本企業が技術や経験を活かして海外に進出されていく際に、金融面からサポートできるのは非常にやりがいのある仕事だと感じています」
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- 現地の熱量に触れ、未来に向けた刺激を受ける
JBICの若手職員は、世界各地の海外駐在員事務所に約3カ月間トレーニーとして派遣される「新人総合職海外駐在員事務所派遣制度」などを通じて、管轄国への出張やリサーチ業務を経験し、日本国内では体感できないJBICの役割や業務について理解を深め、国際経済社会発展のための道筋を理解するとともに、世界に通用する交渉力や企画力などを養っていく。岡田もエジプトのプロジェクトの後に、ドバイで3カ月トレーニー期間を過ごし、「現地の政府や企業担当者がどのような熱量で未来に向けて事業に取り組んでいるのか、その熱量に触れることができて、とても刺激的な期間でした」と話す。
こうした職員一人ひとりの思いや活躍を軸に、JBICはIFCをはじめ世界銀行グループや世界各国の公的金融機関などとの連携を強化し、国際経済社会の健全な発展に今後も広く貢献を果たしていく。
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- 記者の目
- WEB限定
JBICは国際社会で活躍する日本企業への融資を軸とした政策金融機関である。その活動の目的は4つのミッションに表れているとおり、日本のみならず国際経済社会の健全な発展に貢献することだ。取材をすると、社員は「より良い未来をつくりたい」という思いにあふれ、アフリカのみならず世界各国で現地の政府関係者や企業関係者と接していく中で、より良い未来をつくるための種をいかに見つけ、それを育てていくかという姿勢を大切にしているように感じられる。
公的機関であるため、当然、融資の基準も民間金融機関とは異なってくる。細かな条件はプロジェクトやその時の社会情勢等によって様々だろうが、民間にはできないこと、JBICだからこそ取り得るリスクに関しても、積極的に向かい合っていく挑戦的なマインドが社員一人ひとりにしっかり息づいている。金融機関、まして公的な機関となればなおのこと保守的だと考えられる部分もあるだろう。けれど「どうすれば日本や世界のためになるか」を真正面から追求し、「こうしたらできるんじゃないか」という柔軟な発想で未来をつくっていこうとする姿勢が感じられる企業だと、JBICの取り組みを見ると感じられてくる。
株式会社国際協力銀行
[ 事 業 内 容 ]日本企業の海外ビジネス展開を支援する政策金融機関
[ 資 本 金 ]2兆1,088億円(日本政府が全株式保有、2023年6月21日現在)
[ 出融資残高 ]15兆9,986億円(2023年3月31日時点)
[ 保 証 残 高 ]1兆5,376億円(2023年3月31日時点)
[ 従 業 員 数 ]699
名(2023年3月31日現在)