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就活前に学ぶ金融講座

③証券

発行市場と流通市場

わが国の「証券会社」は直接金融の担い手として、証券市場に関連する業務を幅広く行っています。ここで言う「証券」とは、市場取引が行われ、投資運用や資金調達の対象となる債券や株式をはじめ、それらに類する有価証券を広く指します。
また、証券市場は「発行市場」と「流通市場」に大きく分かれ、異なった役割を果たしています。証券会社はそれぞれの市場と顧客を円滑につなぐ存在であると同時に、市場の健全な運用および発展に寄与しています。

では、もう少し具体的に証券会社の役割を見てみましょう。まず、発行市場における役割から考えてみます。
資金の需要者としての企業は、成長して信用力が高くなると銀行から融資を受けなくても、返済の条件などを約束することで、自ら資金を集めることができるようになります。とはいえ、資金の供給先を探しまわるのは大変ですから、投資家などが多く集まる市場に呼びかけます。証券会社は企業のこうした活動を有価証券の発行を通じて広くサポートするとともに、もっとも的確で公平な条件に導く役割も果たします。証券会社のこうした働きは企業の資金調達だけでなく、国や地方自治体、団体などが債券(国債や公共債など)を発行して資金を得ようとする場合にも欠かすことはできません。
また、株式会社(未公開企業)を証券取引所市場などへの上場(IPOとも言います)に導いたり、その後も株価の安定などを目的とした取り組みに関与したりしています。

一方、流通市場においては、顧客(投資家)にさまざまな情報を提供し、適切な助言を行うとともに、売買を迅速・正確に成立させる役割を担います。家計資産を運用する個人投資家や、年金など巨額資金を運用する機関投資家など、さまざまな顧客に対してもっともふさわしいサポートを行うことが、直接金融を担う証券会社に課せられた大切な役割のひとつだと言えます。

理解のツボ① 日本語と英語

金融業界の人と話をすると、英語が日本語のように使われていることに気づきます。たとえば、為替市場を「為替のマーケット」と言い換えたり、株式市場を「ストック市場」と言ったり、債券を「ボンド」、投資信託を「ファンド」、書類を「ドキュメント」と言うことがふつうにあります。発行市場を「プライマリー(マーケット)」、流通市場を「セカンダリー(マーケット)」と言い換えて話すことも少なくありません。そういう英語を耳にしても戸惑わないように、よく使う用語の英語表記をさらっておくとよいでしょう。しかし、会社訪問などでは聞きかじりの英語ではなく、日本語で話すように心がけましょう。

理解のツボ② 市場

証券会社のビジネスを知るためには、「市場(マーケット)とは何か?」を理解しておくことが大切です。「就活前に学ぶ金融講座・第2章」の『 「市場」とは何か? 』をご覧ください。

証券会社の4つの業務

証券会社の業務は、(1)有価証券売買の取り次ぎを行う「ブローカー(委託売買)業務」、(2)新たに発行される有価証券を一括して引き受け、小口にして販売する「アンダーライター(引受)業務」、(3)新たに発行される有価証券を投資家に販売する「セリング(売出)業務」、(4)自社で保有する金融資産を売買する「ディーラー(自己売買)業務」の4つを大きな柱としています。 国内の大手証券会社はこの4業務のほか、ホールセール(法人取引)分野において資金調達をはじめとする財務戦略への助言や、M&Aの仲介やサポート、資産の証券化など「投資銀行業務(インベストメントバンキング)」と呼ばれるビジネスも手がけています。

ちなみに、(2)アンダーライター業務と(3)セリング業務の違いは、(2)は発行した証券が売れ残った際には証券会社がそれをすべて引き取るのに対し、(3)は販売を行うだけで売れ残りの責任は負いません。
発行市場においてアンダーライター業務がとても重要であるとされるのは、発行した証券を一時的にすべて買い取ってもらえるため、発行者は資金調達の計画が立てやすくなるところにあります。
現在、わが国では国内の証券会社、インターネット証券会社、海外の証券会社、海外の銀行の投資銀行部門、米国の投資銀行などが証券業務を行っています。

理解のツボ③ 投資銀行

「就活前に学ぶ金融講座・第2章」の『 投資銀行とは? 』をご覧ください。
同じ章にある『 株式と債券 』にも目を通しておきましょう。

「手数料」からの脱却

証券会社は長い間、収入の大半を有価証券(主に株式)の売買に伴う委託手数料に頼ってきました。戦後の数十年間は国の政策によって手数料が固定化され、サービス業としての競争原理がほとんど働かない状態にありましたから、短期の売買を顧客に促すことで手数料収入の増大を図ろうとする取り組みが数多く見られました。その結果、業界も投資家も短期的な損得ばかりに目を奪われがちになり、株式の短期売買を繰り返してキャピタルゲイン(売買益)を追求することが、すなわち「投資」であるかのようなイメージをつくり上げてしまったと言えます。そして、それは証券会社の成長や、証券市場の健全な発展の妨げとなりました。

一方、売買委託手数料を早い時期に廃止した欧米では、それまでブローカー業務に重きを置いていた証券会社が金融サービス業の担い手としての近代化に着手し、市場取引のレパートリーを広げて新しい顧客の獲得に力を入れるとともに、さまざまな投資のソリューションを顧客に提供して対価を得るという、直接金融の時代にふさわしい体質に向けての改革が進みました。

わが国でも売買委託手数料が完全自由化された1999年を境に、同様の改革が急速に進められ、顧客の運用ニーズに合わせた情報提供や、資産構成のバランスに配慮した運用の助言などに力を入れて信頼を高め、「預かり資産(口座残高)」を増やすことで、それを収益機会につなげていく経営が一般的な形として定着しています。

政府が市場の成長を後押し

1990年代の中頃から今日まで「間接金融から直接金融へのシフト」が世界的な金融の潮流であるとされてきました。「証券会社が金融ビジネスの主役になる時代の到来」とも言えます。振り返ればこの20年の間に、市場をより有効に活用することにより、資金調達と投資運用のどちらにとっても魅力のある手法や商品が数えきれないほど誕生し、証券会社を通じて広く提供されました。
デリバティブや証券化の手法を駆使した金融商品や、先端の科学技術などを用いた運用ツールなど、あらゆる金融ニーズへの対応を証券会社が先頭に立って可能にしてきた時代だったと言うことができます。わが国においても証券会社の近代化や、投資家を守るための法律の整備などが進められ、投資信託など多様な投資商品のラインナップも充実しつつあります。

ところが、私たち日本人の家計資産の内訳は相変わらず「預金」が大きなウエイトを占めていて、証券投資など市場を活用する運用は17%程度しかありません。直接金融の経済モデルが早くから浸透したアメリカでは証券セクターが50%を超えていて、預金は13%程度しかありません。資産運用において比較的保守的とされてきたヨーロッパでも、この10年間で預金と証券がほぼ同じ比率となりました。

つまり、わが国では国民の暮らしが「間接金融から直接金融へのシフト」という潮流に追いついていないということです。とりわけ、低金利の環境下では証券投資など「自主的に運用することの大切さ」を無視することはできません。また、産業界においても証券市場の成長はさまざまなリスクに対応できる資金の供給元として、とても重要な意味を持ちます。政府も「貯蓄から投資へ」を国家戦略を担うスローガンとして掲げ、少額投資非課税制度(NISA/ニーサ)などを実施して市場の成長を後押ししています。
証券会社への期待はますます高まり、かつ証券会社が社会のために果たすべき役割や責任の重さも日を追うごとに増していると言うことができます。

理解のツボ④ 家計資産の内訳

日本、アメリカ、ヨーロッパの家計資産の内訳については、「 就活前に学ぶ金融講座・第1章 」をご覧ください。
また、国家的課題とされる「貯蓄から投資へ」については「 同・第7章 」をご覧ください。

顧客サービス力を競う時代へ

わが国の証券会社は、リテール(個人取引)においては「貯蓄から投資」を推進する活動に力を入れ、顧客の資産状況にふさわしいファイナンシャル・プランの提供などを通して、預かり資産の拡大を競い合っています。一方では、富裕層を専門に担当する部署などを設け、一定以上の個人資産に対し総合的に関与する取り組みも加速しています。

ホールセール(法人取引)においては、発行市場におけるビジネスのほか、グローバルなネットワークに立脚したさまざまなサービスや、最先端の金融技術や手法による商品の提供など、投資銀行ビジネスと呼ばれる分野における競争力を高めています。
また、投資信託会社や生命保険会社、年金基金といった機関投資家に対しては、リサーチ(調査・分析)情報などの強化をはじめ、国内外の債券や株式、証券化商品などへの対応力を高めることで、ブローカーとしてのレベルの向上に努めています。

Point of view

1

証券会社の国内営業の面白さは、数千にもおよぶ銘柄や商品のなかから、顧客ニーズにもっとも合ったものを自分の判断で選び、推奨できるところにあると言われています。幅広い金融知識が求められますが、まずは自分が得意とする商品分野の知識を高め、徐々にレパートリーを広げていくパターンが多く見られます。

2

投資銀行業務と呼ばれる分野においては、国内・国外の案件を問わずグローバルレベルの競争が繰り広げられています。したがって、アンダーライター、M&A、デリバティブや証券化を用いたストラクチャー(商品組成)などのビジネスでは、海外の有力金融機関としのぎを削ります。そのため、国内案件においても高い語学力が求められます。

3

「ユーロ市場」をヨーロッパ諸国の金融市場であると誤解している人が少なくありません。「ユーロ」は一般に「通貨EUR」を意味し、「ユーロ圏(エリア)」と言う場合は「欧州連合に加盟して通貨ユーロを導入している諸国」を指しますが、「ユーロ市場」は欧州通貨統合とはまったく別モノですから注意が必要です。
ユーロ市場とは、「発行国以外の国で取引される通貨」が集まる市場のことで、半世紀ほど前からありました。アメリカ本土から外に持ち出されたドルを中心に発展し、円、ポンド、スイス・フラン、ユーロなどもユーロ市場で盛んに取引されています。こうした通貨は当初「ユーロ通貨(ユーロ・カレンシー)」と呼ばれたことから、ユーロ市場という呼び名が定着しました。国内取引に比べて規制の少ないユーロ通貨は、取引の自由度などにおいて有利な点が多いことから、現在でも大きな市場規模を有しています。同様に「ユーロ債」もヨーロッパで発行された債券という意味ではありませんので、区別して理解しておきましょう。