1988年早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガスに入社。1995年ペンシルベニア大学経営大学院卒。ベンチャー企業を経て、NTTドコモへ。「iモード」「おサイフケータイ」などのサービスを立ち上げ、在職中にビジネスウィーク誌にて世界のeビジネスリーダー25人の一人に選出。2009年から2013年まではHTMLの標準化団体「World Wide Web Consortium」の顧問会議委員も務める。現在は慶應義塾大学の特別招聘教授のほか、グリーなどの取締役を兼任。著書「ケータイの未来」、「脱ガラパゴスの思考法」、「『当たり前』の戦略思考」など多数。
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夏野 剛慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特別招聘教授
ニッポンのITビジネス牽引者に聞く
フィンテック(FinTech)のリアルとゆくえ
<第4回>2016.08.17
eコマース(電子商取引)と
モバイルコンテンツマーケットの創世記
これまでの3回で日本におけるフィンテックのムーブメントを振り返ってきましたが、今回はインターネット上の商取引・電子商取引(以下eコマース)とその中で巨大化するモバイルコンテンツマーケットを取り上げましょう。
整備された宅配網の土壌で普及していったモバイル先行型・日本のeコマース
eコマースには、その手段と取引そのものの話がありますが、幸い日本には素晴らしい宅配サービスの流通ネットワークがすでにあったということが大きな躍進への利点となりました。1998年に楽天やアマゾンがサービスを開始したのですが、宅配便という配送網が国内に整備されており、全国どこへでも迅速に商品が届く宅配サービスと相まって、普及が早かったという歴史があります。
eコマースとはインターネットを介して受発注や決済、契約などの商取引を行うことですが、取引の主体がB to B(企業と企業)、B to C(企業と消費者)、C to C(消費者と消費者)という3つの形態があります。世界ではどの国でもB to Bから始まる傾向にありましたが、日本は1999年のNTTドコモの「iモード」の登場により、消費者用のモバイル先行で普及していったのが大きな特徴で、個人がまずネット上で日常的な買い物をするB to Cからスタートしました。2001年以降の「ヤフーBB」の出現で家庭用のPC環境が整備されると、モバイルの普及と宅配網の使い勝手の良さとの相乗効果で、一気にeコマースの市場が国内で拡大していったのです。
ちなみに経産省が発表した2014年の日本国内のeコマース市場のB to C(消費者向け電子商取引)の市場規模は、12.8 兆円(前年比14.6%増)に増加し、引き続き商取引の電子化が進化している途上にあると言えるでしょう。
電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめ
今や1兆円規模。世界に比べ早かったモバイルコンテンツマーケット
電子マネーや携帯課金など、決済のインフラが整ったからこそ派生した大きなムーブメントに、デジタルコンテンツマーケットの急成長が挙げられます。2008年の「iPhone」誕生以降に世界的に発展したこのマーケットですが、日本ではそれ以前から活性化し、極めて成長も早かったと言えます。
まず、1999年にNTTドコモ「iモード」がサービスを開始して日常生活におけるモバイル活用が世の中に普及すると、コンテンツの売買が活性化しました。デジタルコンテンツをネット上で売るのは難しいと言われていた世界的な常識を打ち破り、携帯電話のキャリア決済を「iモード」が担うことで、いきなり数千億円ものコンテンツ市場ができ上がったのです。その後、2000年代前半にはさまざまなコンテンツが立ち上がり、今や約1兆円のデジタルコンテンツ市場がモバイル端末で取引されているのです。
現在、Apple社「App Store」の国別の売上額を比較しても、日本とアメリカは同じくらいです。1人あたりのコンテンツ購入額を見てみると、なんと日本は世界でトップとなっています。これは、ガラケー時代からコンテンツにお金を支払うというのに慣れていた土壌もあったところに、スマホ時代になってコンテンツのリッチ化が進み、リッチになったものに、もっとお金を投入するようになったという好循環の表れでしょう。このように海外に比べて異常とも言える速度で拡大したモバイルコンテンツマーケットは、携帯課金やクレジットカード、そして電子マネーといった決済手段に支えられており、世界より約10年早かったフィンテックのおかげと言えるでしょう。
急激に成長してゆくフィンテック。その法律上の課題
急速にフィンテックが進んできた2000年以降、法制度が追いついてこない点からさまざまな課題も浮き上がってきています。eコマースの場合は、実際に行っていることはテレビショッピングなどと変わらないため、従来の通信販売の法規制に即してさまざまなトラブルから消費者を守ることができました。しかし、決済が容易になったことからeコマースを利用した犯罪は増えており、年間被害額が500億円規模になっているという事実もあります。これらネット詐欺は振込手段、決済手段が簡単になったゆえの負の側面と言えます。
また、これだけネットが普及してもネット生保やネット損保はあまり普及しているとは言えません。これには法制化が遅れているのも1つの原因に挙げられるでしょう。対面販売を前提に従来のルールをつくっていたので、これまで想定していない部分にうまく法律制度や規制を合わせていくことが、立ち遅れているという問題があります。
フィンテックで変わらざるを得ないのは法律も同じです。諸外国と歩みを揃えた金融サービスがネット上でも規制が統一されていないと、国外でOKなことがなぜ国内でNGなのか不満があがることも予測されます。国際競争力をあげるためにも、金融の規制緩和も含み、新たな国策が必要な時代になってきたと言えるでしょう。
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