1941年生まれ。東京大学経済学部卒、1965年に大蔵省に入省。ミシガン大学に留学し、経済学博士号取得。1994年に財政金融研究所所長、1995年に国際金融局長を経て1997年に財務官に就任。1999年に大蔵省退官、慶應義塾大学教授、早稲田大学教授を経て、2010年4月から青山学院大学特別招聘教授。近著に「資本主義の終焉、その先の世界」、「中流崩壊 日本のサラリーマンが下層化していく」、「仕事に活きる教養としての『日本論』」、「日本経済『成長』の正体」、「榊原英資の成熟戦略」など。
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榊原 英資青山学院大学特別招聘教授
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榊原英資の“グローバル視点”経済展望
<第17回>2017.04.05
日銀金融緩和のインパクト
2008年9月にアメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻、いわゆるリーマン・ショックがアメリカのみならず世界の金融システムを揺さ振った。同年9月9日ダウ平均株価は777ドルの暴落を記録し、日経平均も急落、大和生命保険が破綻した。アメリカ政府は緊急経済安定化法を成立させ7000億ドルの公的資金を投入して不良債権を買い取ることを決定したのだった。
2009年以降、アメリカは金融面でも支援を続け、2009年、10年、12年とたて続けに量的緩和を実行(QE1・QE2・QE3)、その結果ドル相場は下落。円ドルレートは2009年の1ドル93.57円(年間平均レート以下同様)から2010年には1ドル87.78円、2011年には1ドル79.81円、そして2012年には1ドル79.79円と急速にドル安・円高が進んでいった。
2013年に入ると日本も激しい金融緩和策を実行する。3月に日本銀行総裁に就任した黒田東彦は「異次元金融緩和」と呼ばれた政策を施行し、円高を是正、株価を大きく上昇させた。2013年には円ドルレート1ドル97.60円に反発し、14年には1ドル105.94円、15年には1ドル121.04円まで上昇したのだ(いずれも年間平均レート)。日経平均株価も2012年の1万395.18円から13年には1万6291.31円、14年には1万7450.77円、15年には1万9033.71円(いずれも12月の終値)と大きく反発。少なくとも日銀の金融緩和は2013年から2~3年の間は大きな成果をもたらしたということができるのだろう。
日銀が金融緩和を継続するなかで、逆にアメリカは金融引締め、利上げに踏み切ることになる。2016年12月、アメリカは1年ぶりの利上げに踏み切り、フェデラル・ファンド(FF)の金利目標を0.25%引き上げ0.50~0.75%に全会一致で決定したのだった。アメリカの経済成長率は2014年2.37%、2015年2.60%、2016年1.6%と先進国の中でトップクラスの成長を続け、2017年、18年にも2.3%、2.5%で成長すると予測されているのだ。(予測は2017年1月のIMFの世界経済見通し―WEO)ちなみに、日本の成長率は2014年マイナス0.03%、2015年1.20%、2016年0.9%だ。前記WEOの予測によれば、2017年は0.8%、18年は0.5%とされている。アメリカの2017年、18年の成長率は先進国の中で最も高いものの、そろそろ利上げでブレーキをかける局面に入ってきたと判断。トランプ新大統領の減税と公共事業拡大によって成長率はさらに加速され、インフレ率の上昇も予測されるため、2017年には3回程度の利上げが実施されるとマーケットは予測している。
アメリカの利上げ、そして日本銀行の金融緩和の継続はドル高・円安要因であり、それを先取りして2011年から15年にはドル高・円安が進んで2015年には年間平均の円ドルレートは1ドル121.04円まで円安になっていった。ただ、2016年に入るとアメリカの利上げについて予測より少なくなるのではないかとの思惑と日銀の金融緩和がそろそろ最終局面に入ってきているとの判断から、逆に円高が進み、2016年の年間平均レートは1ドル108.79にまで上昇することになる。2017年に入るとトランプ大統領の政策がアメリカ経済の成長率をさらに押し上げるという期待から、再びドル高が進み、2017年2月末には1ドル113円前後までドル高が進んできている。
黒田東彦日銀総裁は、しばらく緩和を続けると言明しており、トランプ大統領の政策もこれから効果が出てくると考えられるので、しばらくは1ドル110~115円のレンジ相場が続くことになるのだろう。ただ、アメリカ経済の先行き、日本銀行の金融政策の展開等を考慮すると、今後は緩やかな円高が続いていくのではないだろうか。日銀もそろそろ出口を考え始めるかもしれないし、アメリカの利上げも本当に3回実施されるのかどうかはそれ程定かではない。とすれば、2017年の末にかけて、円ドルレートが1ドル100円を突破する可能性もあるのではないだろうか。今後の動向に注目していきたい。
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- 榊原 英資
- Eisuke Sakakibara