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混迷する世界に挑む日本企業の“セーフティネット”
― 貿易保険が支えるグローバルビジネスの最前線 ―

ロシアによるウクライナ侵攻、台湾海峡の緊張、そして中東情勢の複雑化など、世界の先行きには不透明さが漂い続けています。こうした国際情勢の複雑化は、グローバルにビジネスを展開する日本企業にとって、かつてないほどのリスクとなっています。
資源に乏しい我が国にとって海外との貿易や投資はまさに生命線といえる存在です。日本企業が予測不能な世界で果敢にビジネスに挑戦し続けるためには、企業努力だけではカバーしきれないリスクへの強力な備えが不可欠です。その最前線で重要な役割を担っているのが「貿易保険」です。

そもそも「貿易保険」とは? 民間では対応できないリスクを引き受け

「貿易保険」という言葉は、皆さんにとって耳慣れないかもしれません。海外取引の保険というと、輸送中の貨物の破損や盗難に備える「海上保険」などを想像するかもしれませんが、貿易保険が守るのは「モノ」ではなく「取引そのもの」です。

例えば、取引相手国の戦争や内乱、テロ、急な法制度の変更など、民間企業では予測もコントロールもできないリスクがあります。ひとたび発生すれば損害が甚大になるため、民間の損害保険会社では引き受けることが極めて困難です。

そこで、民間では担いきれないリスクを国がバックアップする仕組みとして用意されているのが「貿易保険」です。日本で唯一、この貿易保険を専門に扱う政府系機関が日本貿易保険(NEXI)です。通常の保険では対応できないリスクの盾となり、日本企業が安心して世界へ飛び出せる土壌を作っています。

企業の挑戦のカタチに合わせた3つの貿易保険

一言で「貿易保険」と呼んでいますが、実はこれは特定の1つの保険を指す言葉ではありません。日本企業が海外とどのようなビジネスをするかによって、大きく以下の3つの保険の総称として使われています。

●輸出保険…日本から海外へモノやサービスを「売る」時(=輸出取引)のリスクに備える
●投資保険…日本企業が海外に「拠点を作る・出資する」時(=投資取引)のリスクに備える
●融資保険…海外の巨大プロジェクトに対して「資金を貸し出す」時(=融資取引)のリスクに備える

カタチの異なる3つの「海外取引」を対象とする保険サービス全体を指すのが、「貿易保険」というNEXIが提供しているリスクソリューションです。それぞれの領域で、具体的にどのようなビジネスを支えているのか見ていきましょう。

中堅・中小企業の海外進出を後押しする「輸出保険」

NEXIがサポートしているのは、決して大企業や巨大プロジェクトだけではありません。日本全国にある優れた技術や産品を持つ中堅・中小企業が、初めて海外との取引に踏み出す際の「力強いお守り」としても機能しています。海外への販路拡大は日本の中堅・中小企業にとって大きなチャンスですが、「輸出代金を支払ってもらえない」という事態は経営の致命傷になりかねません。輸出保険はこうしたリスクをカバーします。NEXIでは、日本の技術やサービスを世界に届けるため、少額の取引からでも手厚くサポートを行っています。

CASE1:九州の「有明海苔」を世界の食卓へ(農林水産物の輸出支援)

九州の企業が、カナダに向けて有明産の焼き海苔を輸出する取引について、NEXIが輸出保険で支援しました。初めての海外取引では「本当に代金が支払われるか」という不安がつきものですが、NEXIがその代金回収のリスクをカバーしました。この案件は、地元の金融機関とNEXIがタッグを組んで企業を後押ししたもので、日本の美味しい食品を世界へ広めるという日本政府の成長戦略にも直結しています。

CASE2:岡山の「モノづくり」をヨーロッパへ(手厚いトータルサポート)

岡山県の機械メーカーが、イタリアへ自社の産業機械を輸出する際のサポート事例です。NEXIは単に保険を提供するだけでなく、「海外ビジネス支援パッケージ」という他の公的金融機関と連携した独自の仕組みを通じ、企業の悩み相談から現地のビジネスマッチング、そして資金面での安心(保険)まで、地方企業の海外進出を入り口からトータルで伴走支援しています。

CASE3:京都の「日本茶」でアメリカ市場に挑む(攻めの営業を可能にする保険)

京都の日本茶メーカーがアメリカへの輸出を計画した際、最大の壁となったのが「代金回収のリスク」でした。NEXIの保険を利用してこの不安を解消したことで、相手企業に前払いなどの厳しい条件を求める必要がなくなり、良好な信頼関係を築きながらビジネスをより一層拡大させることに成功しました。

食品からインフラまで、幅広い案件を支える「投資保険」

日本企業が海外に工場を建設したり、現地のインフラ事業に出資したりする際、政治的・経済的な混乱といった「カントリーリスク」は避けて通れません。投資保険は、そうした長期にわたる投資の万が一に備え、日本企業のグローバルな事業拡大と、各国の経済発展を裏方から支えています。

CASE1:日本の食卓を守る。南米エクアドルでの「ブロッコリー」事業への出資

標高2800mのアンデス山脈で、ブロッコリーの栽培から冷凍加工までを一貫して行う企業へ、日本企業が出資した案件です。遠く離れた南米への投資にはリスクが伴いますが、NEXIの投資保険がその背中を押しました。日本国内で冷凍野菜の需要が高まる中、調達先を多様化し、私たちの食卓へ安全な食品を安定して届ける食料安全保障にもつながる重要なプロジェクトです。

CASE2:途上国の社会課題を解決する。ジョージアの「水力発電所」への出資

日本の電力会社が、東ヨーロッパに位置するジョージアの水力発電事業に参画した事例です。ジョージアは冬季の深刻な電力不足という社会課題を抱えていました。NEXIがジョージアのカントリーリスクをしっかり引き受けることで、日本企業が持つ高度な発電所運営のノウハウが現地に導入され、相手国の経済発展と人々の生活水準の向上に直接貢献しています。

CASE3:両国の新たなシンボルを創る。モンゴルの「国際空港」運営プロジェクト

日本の総合商社や空港会社などがタッグを組み、モンゴルの新しい首都圏国際空港の運営に乗り出した大規模プロジェクトです。長期にわたるインフラ投資の不安を取り除くため、NEXIが投資保険を提供しました。この空港はモンゴルの観光や物流を飛躍的に発展させる大動脈であり、日本とモンゴルの友好・協力関係を示す新たなシンボルとして期待されています。

世界規模の社会課題解決に貢献する「融資保険」

「融資保険」は、NEXIの扱う保険の中でもスケールが大きく、ダイナミックな領域です。海外の巨大プロジェクトに対して、日本の金融機関が巨額の事業資金を貸し出す際、戦争や政治不安などで資金が返済されないリスクをNEXIがカバーします。NEXIがリスクの防波堤となることで、民間金融機関だけでは踏み切れない数百億円、数千億円規模の融資が可能になり、世界規模の社会課題解決が前進します。

CASE1:国家のインフラを支える15億ドルの決断。サウジアラビアの水・エネルギー事業

サウジアラビアにとって生命線となる、水とエネルギー分野の巨大プロジェクトです。日本の民間金融機関などが協調して行う大規模な融資に対し、NEXIは万が一に備えて「15億米ドル」という巨額の保険引き受けを決断しました。この強力な後押しにより、現地の社会課題を解決するだけでなく、日本企業が同国でビジネスを展開する大きなチャンスを切り拓きました。

CASE2:両国トップが立ち会う「経済外交の目玉」。ブラジルのアルミニウム精錬事業

ブラジルの産業基盤を支える資源プロジェクトに対し、日本の民間金融機関が行う融資をNEXIがサポートした案件です。このプロジェクトは、日本の総理大臣とブラジル大統領が立ち会う中で覚書が交わされるほど、国家間で極めて重要視されました。単なる一企業のビジネス支援を超え、国と国とを結ぶ「経済外交の目玉」として機能するのも、政府系機関であるNEXIならではの醍醐味です。

CASE3:世界の脱炭素化を金融面からリードする。台湾の洋上風力発電プロジェクト

台湾南西部での大規模な着床式洋上風力発電所の建設・運営プロジェクトに向けた、民間金融機関からの融資を支援した事例です。近年、世界中で再生可能エネルギーへの転換が急務となっていますが、新しい分野の巨大プロジェクトには常に高い不確実性が伴います。NEXIが積極的にリスクテイクを行うことで、地球規模の気候変動対策と脱炭素社会の実現を金融の力で力強く加速させています。

複数の保険を掛け合わせる。大型プロジェクトを動かす「立体的なサポート」

ここまで3つの保険を個別に紹介してきましたが、実際のビジネス、特に大規模なプロジェクトにおいては、輸出と融資が組み合わさるなど、取引が複合的に絡み合い、それぞれに対応する保険が併せて活用されるケースも少なくありません。
たとえば、アフリカのケニアにおける巨大な地熱発電所の建設プロジェクトがその良い例です。この案件では、日本企業が優れた発電機などの設備を輸出する際のリスクを「輸出保険」でカバーしつつ、同時に、日本の民間金融機関が多額の事業資金を貸し付ける際のリスクを「融資保険」で引き受けています。ほかにも、「投資保険」と「融資保険」を併用して強力にバックアップするケースも多数存在します。
単一の保険を提供するだけでなく、このように複雑な取引の性質に合わせて複数の保険を柔軟に組み合わせること。そして、日本企業が海外で展開するスケールの大きなビジネスを立体的にサポートできる点こそが、金融のプロフェッショナルであるNEXIの大きな強みであり、醍醐味です。

まとめ:リスクの形が変わる時代、NEXIの変わらぬ使命

刻一刻とその様相を変えていく世界情勢。不確実性が高まる中でも、日本企業のグローバルな挑戦は止まりません。
NEXIは1950年に創設されて以来、時代とともに制度や体制をアップデートしながら、民間の力だけではカバーしきれない領域を補完する「最後の砦」としての役割を果たしてきました。これから先、どれほどリスクの形が複雑化しようとも、日本企業が世界に挑戦し続けられる環境を整え、その背中を力強く押し続けること。それが、NEXIの変わらぬ使命です。

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