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注目記事2022.10.26

いよいよ実現? デジタル給与

「バイト代を銀行ではなくて、スマホに直接振り込んでくれないかなあ」

そんなふうに感じている人も少なくないでしょう。キャッシュレス時代のいま、それが自然な感覚かもしれません。そうした期待に応える、新しい形の給与振り込みが始まりそうです。

現金支払いから銀行振込へ

「昔は給料袋が立ったもんだ」

時折、そんな自慢話をする人がいます。きっと昭和の高度経済成長期に“モーレツサラリーマン”だった人でしょう。

当時の給与やボーナスは、現金払いが一般的。たくさんもらったときは、札束の厚みで給料袋を縦置きにしてもちゃんと立ったというわけです。令和のいま、いや平成時代でもちょっとイメージしづらかった表現ですね。

給与が現金払いだった頃、お父さんは給料日になると多額の現金を家に持ち帰ってきました。まさに“大黒柱”としての存在感を十分に発揮できたものでした。

一方、給与をもらった嬉しさからそのまま飲みに行って散財してしまったり、借金取りが職場に現れて給料袋から現金を抜いていったりなんていうことも。いずれにしろ今では考えられないことです。

給与の支払いは経理部門の重要な仕事ですが、その労力は当時と今では比較になりません。大量の現金を用意し、全社員に間違いなく支給するのは大変な重労働だったのです。

それが現金を運ぶ安全面も配慮して(あの有名な3億円事件もきっかけの一つでした)、銀行口座振り込みに変わったのが昭和40年代。今では会社員の給与はもちろんのこと、アルバイト代も銀行振込が普通です。

ちなみに給与は「給与日の午前10時までに引き出せるようにしなければならない」と労働基準法によって指導されています。実際は、ほとんどの企業が支給日の1週間前には振込の手続きを終えているようです。

ですから給料日の深夜0時にコンビニに飛び込んでATMを操作すれば引き出せるのが一般的です。

決済アプリに直接振り込まれる時代へ

この給与の支払いについて、大きな変化が起きようとしています。

2022年9月、厚生労働省が労働政策審議会労働条件分科会で、デジタル給与についての制度設計案を示しました。

デジタル給与とは銀行口座を使わず、スマホの決済アプリや電子マネーに直接給与を振り込む仕組みのことです。これが2023年春にも可能となりそうで、例えば皆さんの初任給が銀行ではなくて、PayPayなどに振り込まれる可能性が出てきたのです。

現在の案ではデジタル給与の口座残高の上限は100万円で、それを超える分は銀行口座などに振り込まれます。

もちろんこれは強制されるものではなくて、銀行口座でも、決済アプリでも、どちらでも自由に選べることはいうまでもありません。

労働基準法では、賃金は現金で労働者に支払われなければならないと定められています。その例外が銀行口座への振込でした。デジタル給与も可能になったということは、時代の変化に合わせてさらに支払方法が多様化したことを示しています。

ちなみに「給与」と「給料」の違いについてご存じですか。

「給与」とは残業代や各種の手当てなどがすべて含まれたものであるのに対し、「給料」とはそれらが含まれない基本給のことです。

普段、口にするときは給与も給料も同じ意味で使われることが多いですが、厳密にはこうした違いのあることも覚えておいてください。

キャッシュレス決済普及の後押しに

交通系ICカードやスマホの決済アプリなどが急速に普及しましたが、日本のキャッシュレス決済率は世界に比べて依然として低いままです。

キャッシュレス決済は現金取扱いのコスト削減や生産性向上、外国人の消費拡大などのメリットがあるため、政府としてはさらに普及に弾みをつけたいところ。デジタル給与はその一環としての施策であると考えていいでしょう。

PayPayなどを利用している多くの皆さんは、コンビニのレジなどでチャージしたり、銀行口座からの引き落としでチャージしたりといった一手間をかけていると思います。

もし給与やバイト代がスマホに直接振り込まれればその手間がなくなるばかりか、ほとんどすべてのお金の動きをスマホで済ませることになるでしょう。利便性は非常に高いといえます。

また一般的に銀行口座の開設が難しい外国人にとっても、確実・簡単に給与を受け取れることになります。人手不足に悩む企業にとっては外国人労働者を確保する上での一助となるでしょう。

一方で万一、スマホ決済事業者などが破綻した場合はどうなるか、不正アクセスなどに対するセキュリティは十分かといった面が懸念されているのも事実です。

とはいえキャッシュレス化は時代の大きな流れですから、近い将来、デジタル給与が現実のものになるのは間違いないでしょう。

まとめ

昭和の時代に当たり前だった給料袋が平成の時代には死語となり、預金通帳でさえ死語となりつつある令和のいま、ATMから給料を下ろすという行為や感覚も過去のものになっていくのかもしれません。「給料袋が立った」という自慢に変わって、どんな自慢話が聞かれるようになるのでしょうか。