宇宙ビジネスに貢献する金融業界

日本で初めて人工衛星が打ち上げられたのが1970年のこと。それから50年が過ぎた2020年は、日本の宇宙開発スタートからちょうど半世紀の記念すべき年です。6月には国の宇宙政策の基本方針を示す「宇宙基本計画」が改定され、2030年代には宇宙産業の規模を現在の1兆2,000億円から倍増させることを目指すとしています。
こうした盛り上がりに不可欠なのが、金融業界のサポート。宇宙ビジネス産業という新しいフィールドにおける金融業界の可能性について考えてみます。
大きな成長が期待できる宇宙ビジネス
戦後日本の高度経済成長を支えたのは家電や自動車などのものづくり産業。その振興をサポートしたのは銀行による融資でした。このように新しい産業を育成するのは金融業界の大切な役割です。
そうした大きな成長を期待される新しい産業が宇宙関連のビジネスです。
日本政府は2017年の「宇宙産業ビジョン2030」で宇宙産業全体の市場規模を1兆2,000億円としていますが、世界規模では2017年には約38兆円だった市場が2030年代には約70兆円にまで達するとみられています。
また、モルガン・スタンレーは2040年の宇宙ビジネスの市場規模を1.1兆ドル(120.2兆円)と予測しています。こうした盛り上がりに呼応するように、日本でも宇宙ビジネスに本格的に取り組む企業が続々と誕生しています。
“宇宙ベンチャー”と呼ばれるこれらの企業の数はおよそ100社とみられており、民間企業としては国内で初めてロケットを宇宙空間に到達させた北海道の企業もその1社です。
低コスト化が進み、参入障壁が下がる
宇宙ビジネスは、ロケットや人工衛星の製造・打ち上げなどに関する市場と、衛星データ活用など宇宙を利用したビジネスの市場に大別できます。
これまで宇宙開発は長い間国家プロジェクトとして行われてきました。それは国家規模の膨大な予算と長期的な計画が不可欠だったからです。そこには民間の金融機関の参入する余地はありませんでした。
ところが最近では宇宙開発のコストは大幅に下がって、ダウンサイジングが進んでいます。例えば米国の宇宙企業・スペースXが開発したファルコン9というロケットは、部品を再利用するなどの工夫によって大幅な低コスト化を実現。打ち上げ価格もかなり安価になりました。
このように国家予算並みの費用がかかることがなくなったおかげで宇宙開発への参入障壁は大きく下がり、多くの宇宙ベンチャーが誕生すると同時に、金融機関も積極的にこの分野へ参入するようになったのです。
オールジャパンで宇宙ビジネスを支える
一般的に新規ビジネスが金融機関から融資を受けることは簡単ではありません。というのも金融機関は過去の実績にひもづく審査によって融資の可否を判断するからです。宇宙ビジネスも過去の実績という点でみれば、融資の対象先としての魅力は薄いといえるでしょう。
しかし、見方を変えれば、だからこそ金融機関にとっては“大化け”の可能性のある分野といえます。そもそも新しい産業の振興を担うのが銀行の本来的なミッションなのですから、宇宙ビジネスこそ積極的にチャレンジすべき分野でしょう。
実際、トヨタ自動車と三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクが、宇宙開発に関わる新興企業に投資するファンドに出資を行いました。このファンドは、主に国内の宇宙ベンチャーの競争力強化を後押しするために投資を行う予定です。
メガバンク側では「日本の宇宙産業をオールジャパンで支える」としており、大きな志をもっての参入であることがわかります。
15世紀から17世紀の大航海時代、冒険家が航海をするための資金は資産家が援助(投資)しました。冒険家はそのお金をもとに船を出してコショウや塩といった貴重な資源を持ち帰り、資産家は出資の割合に応じてその分配を受ける仕組みになっていました。
やがて日本でも宇宙における資源探索ビジネスが現実のものになっていくでしょう。そうした時代を実現する、非常に夢のある取り組みといえます。

まとめ
宇宙ビジネスの最も大きな特徴は誰もがワクワクできることなので、多くの人を巻き込みやすいという点にあります。閉塞感漂う時代において、これは人々の興奮をかき立て、顔を上げさせることにもつながるはずです。そうした役割の一端を担えることを金融業界は誇りとしていいでしょう。