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注目記事2020.05.20

世界一の“クジラ”と呼ばれるGPIF

世界最大の機関投資家と呼ばれるのが、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)です。約170兆円という巨額の資産を運用しており、金融市場では非常に大きな影響力を持っています。その役割や意義について改めて考えてみます。

国家予算をはるかにしのぐ資産額

豊富な資金力を有する巨大な機関投資家は“クジラ”と呼ばれることがあります。日本の場合、金融市場に「5頭のクジラ」がいるとされています。日本銀行、共済年金(国家公務員共済年金・地方公務員共済年金・私学共済年金)、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険、そしてGPIFです。

これら5頭のクジラの動き一つで日本の金融市場という海には大きな波が起きたり、流れが変わったりします。この5頭のクジラの中で特に存在感の大きいのが日本銀行とGPIFです。

GPIFとは、厚生労働大臣から寄託を受けてサラリーマンや個人事業主などの公的年金を運用管理する機関です。その管理運用する資産額は、2019年12月末で168兆9,897億円という巨額のもの。2019年、2020年と2年連続で国家予算は100兆円を超えましたが、GPIFはその国家予算を軽く超えるほどの資産額を有しているわけです。

GPIFが「世界最大の機関投資家」と呼ばれるのもこのためです。

このGPIFの資産のもとは、言うまでもなく国民の納めた年金保険料です。GPIFは厚生労働省を通じて国民の年金保険料を預かり、国内外の株式・債券に投資しています。

国民の大切な年金保険料を預かっているわけですから、運用に際しては安全性が第一。指針としても「長期的な観点から安全かつ効率的な運用を行う」ことが掲げられています。

2019年に「老後資金2000万円問題」が騒がれたように、公的年金に対する不安が高まっている今、GPIFが担う責任は非常に重いと言えます。“安定運用”こそ、GPIFの一番のミッションなのです。

クジラならではの影響力を発揮

GPIFが注目を浴びるようになった一つにESG投資があります。

ESG投資とは、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)を重視した経営を行う企業に対して投資を行う、長期的な資産運用です。日本では2017年にGPIFがESG指数に連動する投資を始めたことで、ESGというキーワードが一挙に注目されるようになりました。

GPIFの使命とは、前述したように国民から広く預かった年金保険料を守っていくことですから、50年先、100年先を見越したような超長期的な視点での運用が前提となります。いくら大きなリターンが見込めるとしても、長期にわたる安定性が絶対に必要です。

この点が、企業の業績や財務状況など短期的な視点で判断する一般的な投資との大きな違いです。

ESGも、目先の業績ではなく、企業として環境問題や社会問題にどう関わっていくかを問うものであり、この点でGPIFと親和性が高いといえます。つまり「儲かっているか」よりも、環境問題改善への取り組みや地域社会への貢献など、長期的な視点で企業活動を評価することがESG投資に結びついているのです。

当然、ESG投資の成果が運用実績に反映されるには時間がかかります。

2017年にGPIFがESG投資に軸足を移したことのインパクトは大きく、これをきっかけに個人でもESG投資につながる金融商品を購入する人が増えました。まさに“クジラ”ならではの影響力の大きさを示したわけです。

新型コロナウイルスの影響は

ただ、そんな巨大なGPIFも新型コロナウイルスには大きく傷つきました。2020年1月から3月期の運用成績予想が過去最大の17兆円の赤字となったのです。感染拡大による世界的な株安の影響を真正面から受けたかたちとなりました。

この数字のインパクトは大きく「年金の給付は大丈夫か」という声が上がったのも当然でしょう。

ただ、結論から言うと給付額に大きな影響はありません。というのも、詳しい説明は割愛しますが、今回の新型コロナショックによって運用がマイナスになったのは運用資産の5.8%、約3.2兆円に過ぎないからです。もちろん今回のような赤字が数年も続いたら大変なことになるでしょうが、一過性の相場下落によって給付額が減るという心配は無用なのです。

ちょうどこの3月末のタイミングで、GPIFは5年半ぶりにポートフォリオを見直しました。これによって従来よりもやや「高リターン志向」にはなりましたが、それでも安定性を重視する姿勢は変わらず、世界の年金基金の中でもかなり保守的な基金であることは間違いありません。

安定運用を貫くという姿勢は新型コロナウイルスショックにも揺らぐことはなさそうです。

まとめ

全世帯の50%以上が受給している年金。高齢者世帯の生活を支える重要な存在です。今後、高齢化がさらに進むにつれてそうした重要性はますます高まっていくでしょう。GPIFの存在意義も“クジラ”のように大きいと言えます。