日本人はタンス預金が大好き?

キャッシュ・イズ・キング。直訳すれば「現金は王様」という、なんとも力強いというかストレートというか、わかりやすい言葉です。いよいよ本格的なキャッシュレス時代の到来と言われるものの、やっぱり「現金こそ一番」という考え方も依然としてあります。世情が不安定になるとその傾向はますます強まるようです。
米国で大量の現金引き出しが発生
相場や投資の世界で使われることの多い「キャッシュ・イズ・キング」という言葉ですが、景気後退の局面こそ「現金は王様」としての真価を発揮します。
この3月、アメリカでは銀行や信用組合で大量の現金の引き出しが発生し、一部で現金が不足するという事態も起きました。理由は新型コロナウイルスです。感染拡大を受けて全米各地で在宅勤務や休校措置が講じられ、アメリカ人は外出自粛の事態に備えるようになりました。その“備え”=“現金引き出し”だったわけで、特に富裕層が数万ドル(数百万円)の現金を引き出す姿が目立ったということです。
これぞまさに「キャッシュ・イズ・キング」。ATMから現金を引き出す人々の頭の中では「キャッシュ・イズ・キング」という言葉がリピートしていたに違いありません。
景気が後退して不景気になるとモノの値段は下がります。金融商品や不動産の値段も同じく下がります。そんな中で唯一価値の下がらないものがキャッシュ、つまり現金です。不景気において最も頼りになるのが現金というわけです。
タンスでなくてもタンス預金
一方の日本では、新型コロナウイルスの感染が拡大して外出自粛要請が出されても、ATMの現金が不足するような事態は起きていません。これは災害のような異常時に対しても自制的に行動できる日本人ならではの特質によるものでしょう。同時に、タンス預金の存在も隠れた理由の一つとして考えられそうです。
タンス預金とは、銀行などの金融機関にお金を預けるのではなくて、自宅で保管しているお金のことを指します。
昔はタンスにこっそりとしまっておかれることが多かったためにタンス預金と呼ばれていますが、必ずしもタンスでなくてもよくて、貯金箱や机の引き出し、押し入れの中の金庫など、タンス以外の場所にしまい込まれていてもタンス預金と呼ばれます。
なおタンス預金でも、家族にさえ内緒で個人がこっそりと隠しておく現金のことは「へそくり」と呼ばれます。
ちなみにタンス預金を英語に訳すと「keep money under the mattress」と言います。欧米ではマットレスの下にお金を隠しておくのが一般的なようですね。ではこのタンス預金、いったいどれくらいあるのでしょうか。統計によって様々ですが、日本銀行の調査では2016年で約78兆円、別の調査では2017年で約43.2兆円と推計されています。
なぜ金融機関に預けずにタンス預金をする人がいるかというと、投資のリスクを避けるというのが一番の理由です。一方でその反対にマイナス金利によって投資の収益率が極端に低下したことも、タンス預金急増に拍車をかけているようです。
タンス預金が国を滅ぼす?
投資のリスクを怖れた結果のタンス預金ですが、もちろん別のリスクもあります。一番が空き巣に狙われるなどの防犯上のリスクで、地震や台風などの自然災害のリスク、火災のリスクも決して小さくありません。最近では認知症などでタンス預金の存在そのものを忘れてしまうというリスクも指摘されています。
とはいえ人生100年時代と言われる今、老後の資金に対する人々の不安は高まる一方ですから、消費の支出を抑えると同時にハイリスクな投資にタンス預金を振り向けようとする動きも期待しづらいでしょう。
タンス預金が長期間に及ぶと現金の死蔵化につながり、その分金融機関の預金額は減っていって融資の鈍化にもつながります。ひいては国の経済成長にも影響を及ぼしかねないでしょう。その意味ではタンス預金は減っていくことが望ましいわけです。
しかしどうやら日本人は現金好き、つまり「キャッシュ・イズ・キング」という思いを深く持っている民族のようで、タンス預金から投資へという行動変容を早期に期待することは難しいかもしれません。

まとめ
2024年に新紙幣の発行が予定されていますが、その効果の一つとして期待されているのがタンス預金のあぶり出しです。新紙幣になると自動販売機などで古い紙幣が使いにくくなるため、家に眠る紙幣を早めに新紙幣に変えておこうという心理が期待できるからです。また切り替え前に消費してしまおうという人もいることでしょう。いずれにせよタンス預金が減少することは経済の大きな刺激になります。